TikTokから生まれた音楽たち。TikTok人気に火がついたチャートを振り返り!
Hanako.tokyo / 2022年8月10日 18時0分
SNSや音楽ストリーミングサービスの普及で音楽チャートの在り方自体、変わりつつある。TikTok人気に火がついた2018年からのチャートを音楽ジャーナリストの柴那典さんと振り返り、新しい音楽の潮流を知る。
レコメンドシステムによるヒットの読めない場所。
好きな音楽に乗せて自由にショートムービーを投稿・視聴できるTikTok。2018年から、10代20代を中心に動画拡散により音楽のヒットが生まれる、という流れが確実にできた。瑛人「香水」や優里「ドライフラワー」の例を見るまでもなく、そこで流行ったものがヒットチャートやその他のメディアまで動かすことは周知の通り。音楽ジャーナリストの柴那典さんと2018年から今年までの人気曲ランキングを振り返り、TikTokで起きていることを探る。
「まず前提として、TikTokは機械学習による独自のレコメンドシステムによって配信されます。だから見る人次第で何が流れてくるのか全然違うし、既存の音楽メディアのようにトレンドの把握やコントロールができない。作為的にヒットさせようとするのがとても難しい場所なんです」過去のランキングを見てもそれは頷ける。一見無秩序で“なぜ流行ったか?”が読み解きにくい。
「ただ、ランキングを丁寧に分類すると見えてくるものがあります。基本“踊ってみた”カルチャーが楽曲のヒットと結びついているし、それがネットカルチャー発信かリバイバルブームに乗ったものかなど分類ができる。TikTokはあらゆる属性の人がいていい場所。ランキングにもそれが如実に反映されています」属性別に紐解くと、TikTokでバズる音楽とは何か、そしてそれぞれの年でどんな空気が流れていたかまでも見えてきた。
【2018】
め組のひとBy 倖田來未/アルバム『ETERNITY ~Love & Songs ~』に収録(リズムゾーン)。
KEYWORD #1「踊ってみた」
カルチャーは楽曲のブームの最大の火付け役。2018年当時は「みんなで踊る」ことがひとつの大きなフックに。コロナ下となった2020年以降は集まって踊れなくなり、「指ダンス」「双子ダンス」などワンルームの部屋からも発信できるダンスが主流に。2021年後半からまたみんなで踊るスタイルに復権の兆しが。2021年5位に「虹色の戦争」がランクインしたSEKAI NO OWARIの「Habit」など、外で踊るコンテンツが人気を集める。
KEYWORD #2 リバイバル
「#踊ってみた」と密接な関係にあるリバイバル。2018年倖田來未カバーによる「め組のひと」も2022年ポケットビスケッツのカバーであるKlang Rulerの「タイミング ~Timing~」も、TikTok独自の振り付けと共にヒット。ほかにも広瀬香美「ロマンスの神様」、オリジナル・ラブ「接吻-kiss-」など1990年代のリバイバル多め。Y2Kファッションが流行するように、懐かしさを今の空気感で読み込むムーブメントはまだ続きそうだ。
【2019】
なにをやってもあかんわ By 岡崎体育/アルバム『SAITAMA』に収録(ソニーミュージック)。
KEYWORD #3 キラーフレーズ
「#踊ってみた」では印象的な言葉も大事。足立佳奈「私今あなたに恋をしています」のような胸キュンフレーズを踊りたいと思わせる一方で、岡崎体育「なにをやってもあかんわ」はダンス動画だけでなく日常をコミカルに落とし込むBGMとしても機能。同様にindigo la End「夏夜のマジック」は花火や海の映像と共に夏の終わりの感傷的なシーンを演出することでヒット。叙情的な歌詞を持つバンドサウンドはエモさを引き出す装置になる。
【2020】
ポケットからきゅんです! By ひらめ
KEYWORD #4 ネットカルチャー
「#リバイバル」や「#キラーフレーズ」の属性を「陽」のコンテンツとすると、「陰」の属性を支えるのがネット出身のクリエイターたちによる作品。ボカロPや歌い手、VTuberなどが手がけた楽曲が2020年以降、続々とランクイン。とくにコロナ下でみんなが家でYouTubeを見ていた2020~2021年はネットカルチャー発信コンテンツが充実。これは、YOASOBI「夜に駆ける」やAdo「うっせぇわ」などのヒットともリンクする。
【2021】
ヨワネハキ feat. 和ぬか, asmi By MAISONdes(ソニーミュージック)
KEYWORD #5 弾き語り
コロナ下でもうひとつ大きく伸びたジャンルが「#弾き語り」。ひらめ『ポケットからきゅんです!』に代表されるような、自粛期間中に在宅でできるパフォーマンスはTikTokのトレンドをガラッと変えた。川崎鷹也「魔法の絨毯」やTani Yuuki「Myra」、そして優里の「ドライフラワー」。レコメンドシステムにより誰が通るかわからないTikTokはまさにストリート。新しいネット上の“路上弾き語り”の場所として今後も要注目。
【2022】
タイミング ~Timing~ By Klang Ruler(ユニバーサルミュージック)
KEYWORD #6 ラップ
チャートインはここ最近だが、ラップカルチャーはTikTokに潜在的に多い。実力派であるkZm「TEENAGE VIBE feat. Tohji」がまず話題に。そして今年ランクインしているOhayo「GAL feat. Shake Pepper & Yvngboi P」は「ギャル超かわいい」という直球パンチラインがバズり中。心之助「Blue Spring(SkyFilter)」やBLOOM VASE「Bluma to Lunch」を見ても「俺らイケてる」というグッドバイブスがキーワード。
Navigator…柴 那典(しば・とものり)
音楽ジャーナリスト。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)など。
(Hanako1211号掲載/text & edit : Kana Umehara)
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