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【京都の和菓子】都の四季の移ろいを、五感とココロで味わう京菓子。

Hanako.tokyo / 2022年9月20日 15時54分

【京都の和菓子】都の四季の移ろいを、五感とココロで味わう京菓子。

千利休が“茶の湯”を大成させたのは安土桃山時代のこと。和菓子はその頃から、茶に欠かせないものとして発展してきた。とりわけ京都では行事や日々の暮らしに息づき、多くの人に愛されている。ここではそんな和菓子のルーツから、京都人のお墨付きの名品、枠にとらわれない創作菓子まで、歴史を継承しつつ、多様化した今の和菓子事情をお届けします。

Navigator/俵屋吉富「お茶の世界と共にある京菓子。 実はあくまで“脇役”なんです。」

はんなり美しい京菓子の世界ですが、幾分敷居の高さを感じてしまう人も少なくないはず。1755年創業の御菓子司〈俵屋吉富〉が運営する〈京菓子資料館〉の辻真奈美さんに、初心者でもわかりやすい、京菓子の歴史と、ちょっと意外なストーリーを伺った。

「京都には菓子屋、饅頭屋、餅屋で扱うものも含め、多種多様な和菓子がありますが、ここで紹介している上生菓子は、主にお抹茶と一緒にいただくもの。茶道と共に洗練され、元禄時代には、ほぼ今のような形で完成されていました。ただ、当時は砂糖が大変高価で、庶民が菓子を口にするのは非常に稀なことだったようです。また、茶道における菓子は、あくまでも〝脇役〞で、大切なのは、お軸やお花、お道具など、テーマや季節の室礼の中でいかにお茶をおいしくいただくか。菓子の形が具象的な表現を避けているのは、ほかとの調和です。菓子だけではなく、全体で一つの世界を作り上げるのです」
 

1月 藪柑子(やぶこうじ)/ねりきりお正月の縁起物「十両という植物がモチーフ。鮮やかな緑色の葉と赤い実が、色味の少ない冬の景色に彩りを添える。ねりきりは白のこし餡をベースとし、つなぎに山の芋を使用。

1月 藪柑子(やぶこうじ)/ねりきりお正月の縁起物「十両という植物がモチーフ。鮮やかな緑色の葉と赤い実が、色味の少ない冬の景色に彩りを添える。ねりきりは白のこし餡をベースとし、つなぎに山の芋を使用。

2月 厄払い/ 薯蕷(じょうよ)饅頭の皮としておなじみの薯蕷とは山の芋のこと。すりおろした薯蕷を米粉の生地のつなぎに使って蒸すと、ふっくら膨らむ。四角い形と小豆は、豆まきの桝に見立てて。

2月 厄払い/ 薯蕷(じょうよ)饅頭の皮としておなじみの薯蕷とは山の芋のこと。すりおろした薯蕷を米粉の生地のつなぎに使って蒸すと、ふっくら膨らむ。四角い形と小豆は、豆まきの桝に見立てて。

3月 東風(こち)/こなし「東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 主なしとて 春をわするな」(菅原道真)の和歌にちなんだ銘。着物の片袖を模した「袖型」に押されているのは、北野天満宮のご神紋。

3月 東風(こち)/こなし「東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 主なしとて 春をわするな」(菅原道真)の和歌にちなんだ銘。着物の片袖を模した「袖型」に押されているのは、北野天満宮のご神紋。

4月 花くれない/きんとん「柳緑花紅(りゅうりょくかこう)」は春の茶席で用いられる禅語で、自然の美を讃えている。きんとんは、そぼろ状の餡をふんわりと浮くようにつけられた形で四季の風情を表す。

4月 花くれない/きんとん「柳緑花紅(りゅうりょくかこう)」は春の茶席で用いられる禅語で、自然の美を讃えている。きんとんは、そぼろ状の餡をふんわりと浮くようにつけられた形で四季の風情を表す。

5月 唐衣(からころも)/ 外郎(ういろう)『伊勢物語』の和歌「唐衣 きつつ慣れにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」(在原業平)は頭文字を取ると「かきつばた」。半透明の外郎の生地に淡い紫色のぼかしが。

5月 唐衣(からころも)/ 外郎(ういろう)『伊勢物語』の和歌「唐衣 きつつ慣れにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」(在原業平)は頭文字を取ると「かきつばた」。半透明の外郎の生地に淡い紫色のぼかしが。

6月 よひら/ 錦玉羹(きんぎょくかん)夏の和菓子に透明感を与えるのは錦玉羹。涼やかなキューブが、紫陽花を表現している。ちなみに「よひら」は夏の季語で、花びらが四片の紫陽花を指す。

6月 よひら/ 錦玉羹(きんぎょくかん)夏の和菓子に透明感を与えるのは錦玉羹。涼やかなキューブが、紫陽花を表現している。ちなみに「よひら」は夏の季語で、花びらが四片の紫陽花を指す。

お茶こそ主役とは少々意外。また、この時代には既に菓子に銘が付いていた。「和歌や古典文学、年中行事から付けられています。意匠を考えた、職人やお茶席の亭主(主催者)が優雅な銘を付けます。ですから、招かれた客がその銘の由来や込められた思いを読み取れるかどうかで菓子の奥行きも変わってくるのです」つまり、教養が試される!?と思うといささか及び腰に…。

「もちろん亭主と客の思いが一致すれば喜びもひとしおですが、感じ方はいろいろで正解はありません。作り込みすぎず、考える余白を与えることこそが京菓子の世界観なので。しかし今は茶道をされる方も減り、菓子をいただく場がお茶室から自宅のリビングへと広がり、ハロウィンのカボチャや雪だるまなど、銘を聞かずとも何を表現しているかわかる上生菓子を作ることもあります」

7月 青楓/みぞれ羹錦玉羹に道明寺粉を入れることで、文字通り、みぞれのような涼やかさを表現。楓の形の中に、石に見立てた蜜炊き小豆を散らしている。粒々とした食感が楽しめる。

7月 青楓/みぞれ羹錦玉羹に道明寺粉を入れることで、文字通り、みぞれのような涼やかさを表現。楓の形の中に、石に見立てた蜜炊き小豆を散らしている。粒々とした食感が楽しめる。

8月 送り火/葛葛は、昔から生薬として用いられた滋養ある食品。葛切りなど、この時季の和菓子に欠かせない材料。寒天の歯切れのよさと対照的な弾力のある食感。山に描かれる大文字の情景。

8月 送り火/葛葛は、昔から生薬として用いられた滋養ある食品。葛切りなど、この時季の和菓子に欠かせない材料。寒天の歯切れのよさと対照的な弾力のある食感。山に描かれる大文字の情景。

9月 着せ綿/こなしこなしとは、白のこし餡に小麦粉等を加えて蒸した造形的な菓子素材。ねりきりよりも弾力があり、成形しやすいのが特徴。着せ綿のように木型を使った凝った成形にも使われる。

9月 着せ綿/こなしこなしとは、白のこし餡に小麦粉等を加えて蒸した造形的な菓子素材。ねりきりよりも弾力があり、成形しやすいのが特徴。着せ綿のように木型を使った凝った成形にも使われる。

10月 初雁(はつかり)/求肥七十二候の「鴻雁来(こうがんきたる)」は、冬の到来を告げる時期。渡鳥の雁が隊列を組んで飛んできた情景を焼き印で表現。大福などに用いられる求肥は、時間がたっても柔らかい。

10月 初雁(はつかり)/求肥七十二候の「鴻雁来(こうがんきたる)」は、冬の到来を告げる時期。渡鳥の雁が隊列を組んで飛んできた情景を焼き印で表現。大福などに用いられる求肥は、時間がたっても柔らかい。

11月 嵐山/こなし「朝まだき 嵐の山の さむければ 紅葉の錦 着ぬ人ぞなき」(拾遺和歌集)の和歌にちなんだ銘。深まりつつある秋を、オレンジ・黄色・緑3つのグラデーションの茶巾絞りで表現している。

11月 嵐山/こなし「朝まだき 嵐の山の さむければ 紅葉の錦 着ぬ人ぞなき」(拾遺和歌集)の和歌にちなんだ銘。深まりつつある秋を、オレンジ・黄色・緑3つのグラデーションの茶巾絞りで表現している。

12月 風華(かざはな)/求肥空に舞う雪の結晶を、「風の華」と表現する雅さよ。真っ白な求肥の生地に、雪の結晶のような「氷餅」がまぶされ、焼き印が。寒さの中にも、可憐に舞う美しい雪景色が広がる。

12月 風華(かざはな)/求肥空に舞う雪の結晶を、「風の華」と表現する雅さよ。真っ白な求肥の生地に、雪の結晶のような「氷餅」がまぶされ、焼き印が。寒さの中にも、可憐に舞う美しい雪景色が広がる。

そんなストレートな遊び心も素敵だが、やはり千年の都・京都、その背景に隠された物語が味に奥行きを与えてくれる。「例えば、9月の『着きせ綿わた』という菓子は、重ちょうよう陽の節句の前夜に菊の上に綿を被せ、夜露や香りをうつし、翌朝顔や体を拭うことで不老長寿を願った宮中の行事に由来しています。正月の『花びら餅』、夏な越ごしの祓はらえの『水無月』なども宮中由来です。また、ほぼ全ての菓子に共通するのは、季節の移ろいと共にあるということ。上記の菓子は、あえて季節に合わせて紹介していますが、本来は、着物の柄のように四季を先取りしてワクワク感を楽しむのが京菓子の醍醐味。例えば、寒さ極まる2月であっても、立春を過ぎれば一気に春を感じさせる菓子が店頭に並びますよ」
そこに込められた悠久の時の流れと季節のエッセンス。知れば、お腹だけでなく心もじんわり満たされる。

〈俵屋吉富 烏丸店〉
銘菓「雲龍」や季節の上生菓子をいただけるお呈茶席(700円~)、菓子作りの体験もできる。

京都府京都市上京区柳図子町331-2 
075-432-3101
9:00~17:00 無休
北隣に京菓子資料館を併設(水木休、10:00~17:00)。

(photo : Kaori Ouchi,illustration : Yui Watanabe (eidos) ,text : Yoko Saegusa)

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