歴史を紐解き、道具を買う楽しみも。京都の茶時間、温故知新 (前編)
Hanako.tokyo / 2022年10月4日 13時40分
革新の繰り返しで伝統が育まれてきた京都では、茶の世界も常に新しいムーブメントが。老舗から最新店までを巡り、お茶と共にある豊かな時間を手に入れたい。 前編では、日本の茶の原点を知るため、京都の老舗を訪ねます。9月28日(水)発売Hanako1213号「新しいニッポンのお茶。」特集よりお届け。
1.〈栂尾山 高山寺〉日本最古の茶園を持つ、茶栽培の起源となる古刹。
最古の茶園は清滝川を挟んで対岸の深瀬三本木にあった。現在の茶園はかつて高山寺の中心的僧坊・十無尽院(じゅうむじんいん)があった場所と考えられている。
お茶はただ喉を潤し味わうだけのものではない。お茶を中心に過ごす時間や体験こそが癒しや気づきをもたらすと、改めて注目される近頃。その世界を深く知るために、足を運びたいのが京都だ。なにしろ京都での茶の歴史は800年を超えて今に受け継がれているのだから。
まずは日本における茶の文化を知るために〈栂尾山 高山寺〉へ。鳥獣人物戯画で名高い古刹は、日本最古の茶園を持つことでも知られる。境内には、宋からもたらされた茶の実にルーツを持つ茶園が美しく広がっている。手入れは宇治の茶業に携わる方々が代々行い、毎年5月には茶摘みが行われている。その姿を目にすれば、今も歴史の1ページにいることを実感するに違いない。やがて茶の栽培は宇治にもたらされ、栽培に適した気候の宇治が名産地として広く知られるようになったのだ。
鎌倉時代から残る石水院は、明恵上人が後鳥羽上皇より賜った学問所で国宝に指定。庇の間には善財童子の姿。
鳥獣人物戯画は高山寺を代表する宝物であり、国宝でもある。平安時代から鎌倉時代にかけて描かれた。
〈栂尾山 高山寺〉/とがのおさん こうさんじ
栄西禅師が中国の宋の時代に持ち帰った茶の実を譲り受けた明恵上人が、山内に植えたのが始まり。今も残る茶園では5月に茶摘みが行われる。通常非公開の茶室「遣香庵」や茶園の見学は京都市観光協会主催の特別拝観で可能。詳細はHPから。
住所:京都府京都市右京区梅ヶ畑栂尾町81│地図
拝観時間:8:30〜17:00
拝観料:石水院800円(秋期入山料500円)。
2.〈喫茶室 嘉木〉気軽な番茶から珍しい濃茶まで、お茶と共にある時間のお手本。
〈喫茶室 嘉木〉での京都本店限定の特撰煎茶和菓子付き1,540円。1煎目を淹れた状態で提供され、その後は自分で淹れて3煎目まで楽しめる。
お茶の品種や生産する茶農家、収穫された年などまで紹介し、まるでワインやコーヒーのようにシングルオリジンに注目が集まる近頃。とはいえ長く愛され続けてきた老舗には、老舗ならではの魅力がある。茶匠によるブレンドで生み出される店の味がそれだ。いつも変わらずにあって、ほっと心が穏やかになる味わい。淹れ方を教わりながら買い求めれば、日々のお茶時間がブラッシュアップされるに違いない。〈一保堂茶舗 京都本店〉では、年近く前にいち早く併設された〈喫茶室 嘉木〉で好みの味を見つけるのもいい。茶席以外では希少な濃茶が用意されていて、チャレンジできるのもうれしい。
風格ある佇まいは本店ならでは。
〈喫茶室 嘉木〉/きっさしつ かぼく
京都でお茶といって名前のあがる老舗が喫茶室を開いたのは1995年のこと。そこにあるのは「お茶は買った人が淹れたり点てたりして完成する半製品。それなら淹れ方、点て方も伝えなければ」との使命感だ。コロナ禍で簡略化されたものの、お願いすれば丁寧に教えてもらえるのがうれしい。
住所:京都府京都市中京区寺町通二条上ル常盤木町521│地図
TEL:075-211-4018
営業時間:10:00〜17:00(喫茶16:30LO)
定休日:第2水曜
3.〈柳桜園茶舗〉高山寺を思わせる、鳥獣戯画の茶筒もうれしい上質ほうじ茶。
緑の茶葉が見えるほど、浅めに炒りあげているのが特徴のほうじ茶京風味かりがね・香悦。
右から、香悦86g缶 1,080円、金110g缶 1,080円。
座敷に店が作られている、昔ながらの座売りのスタイルで茶葉を買い求めることができるのは〈柳桜園茶舗〉。混み合うときでなければ、供されるお茶をいただきながら茶葉が選べる。老舗の風情が贅沢に思える時間だ。
二条通に面するこの場所が創業地。
〈柳桜園茶舗〉/りゅうおうえんちゃほ
創業は1875(明治8)年、三千家御用達の抹茶で知られる。浅めに香り高く炒りあげた、ほうじ茶の缶や袋に描かれているのは高山寺所蔵の鳥獣戯画。「平成のはじめに模写して作ったもの」と大槻伸二さんが教えてくれた。鳥獣戯画といえば高山寺、高山寺といえば茶。ひと目で茶を商うことが伝わるデザイン。
住所:京都府京都市中京区二条通御幸町西入ル丁子屋町6901│地図
TEL:075-231-3693
営業時間:9:00〜18:00
定休日:日曜
4.〈能登椽 稲房安兼〉並ぶ姿が可愛い茶だんごは、長く愛される抹茶スイーツ。
1箱30粒入り470円。ほどよい甘さが後を引く。
そしてもうひとつ、抹茶スイーツのルーツを辿れば、ここに行きつくのではと思う茶だんご。好きなだけ食べられるようにと箱に並べられた姿が可愛い〈能登椽 稲房安兼〉で買い求めたい、宇治土産。受け継がれる伝統に触れて、新たな発見がある温故知新のお茶時間を。
平等院参道の中ほどに店を構える。創業は1717(享保2)年。
店内に飾られているのはかつて宇治で作られていた、茶の木人形。
〈能登椽 稲房安兼〉/のとのじょう いなふさやすかね
大正時代から宇治で作られるようになった茶だんごは、抹茶スイーツの原点といえる存在。茶舗数軒の抹茶をブレンドし、米粉と合わせて作る〈能登椽稲房安兼〉の茶だんごは、控えめな甘さと余韻で残る抹茶が特徴。「蒸してから一晩寝かせることで、もちもちした食感に」とは9代目の稲房憲さん。
住所:京都府宇治市宇治蓮華11│地図
TEL:0774-21-2074
営業時間:9:00〜17:00
定休日:木、第3水曜(祝の場合は翌休)
(Hanako1213号掲載/photo:Yoshiko Watanabe text:Mako Yamato)
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