岩柳麻子の「今の私を作ったもの」連載X+Y=Me

あなたの人生に大きな影響を与えたモノ・コト・ヒトはなんですか？
―今回お答えいただいたのは、シェフパティシエールの岩柳麻子さん。
３つのエピソードをともにご紹介します。

1. 祖母が作るシンプルなパウンドケーキ。

今はお客様にスイーツを提供する立場ですが、子どもの頃は「お店でケーキを買う、食べる」という習慣がなくて。家でのケーキといったら、祖母が作るパウンドケーキ。見た目は地味だけど、素朴な砂糖の甘みや焼きたてのバターの濃厚な香りがたまらない。料理に興味を持ったのもこの頃。

2. アウシュビッツで見た収容者たちの展示物。

中高生の頃、父に連れられ様々な国を巡ったんですが、ビルケナウ博物館の展示には衝撃を受けました。ユダヤ人らの刈られた髪の毛の山に胸が張り裂けそうに。ヨーロッパに漠然と憧れを抱いていた私に、父は戦争による犠牲や人種的な迫害などの悲惨な歴史的事実も教えたかったんだと思います。

3. スイーツのヒントは色を追求する作品から。

芸大を志すも挫折。浪人中に出会ったのが「マーク・ロスコ」。矩形の色面のみで構成された抽象画で、絵具を塗り重ねて生まれた色合いは今でもレシピに影響を与えてくれます。その後進んだ服飾専門学校で観た映画『ピアノ・レッスン』も芸術的。ストーリーというより全編通してブルーグレーのどんよりした色調が好きなんです。

岩柳麻子 シェフパティシエール

専門学校で染織を学んだ後、飲食店でのアルバイトがきっかけで食の道へ。卒業後は独学でパティシエールとしての技術を身に付け、2015年に〈パティスリィ アサコ イワヤナギ〉を東京・等々力にオープン。フランス伝統の製菓技術をベースに日本の季節感を融合したパフェは、味はもちろん芸術品のような美しさが話題に。

illustration : Miso Okada