一人親世帯に化粧品を届ける「コスメバンク プロジェクト」|ライター・五月女菜穂
Hanako.tokyo / 2022年11月18日 16時0分
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。今回は、ライターとして活躍する五月女菜穂さんが「コスメバンク プロジェクト」の山田メユミさんに話を伺いました。
「コスメバンク プロジェクト(COSME BANK PROJECT)」は、リニューアルに伴い旧仕様品となった製品や、未開封の店頭返品、品質には何ら問題がないものの再販売のむずかしくなった良品を企業から募り、経済的困難を抱える女性に無料でプレゼントするプロジェクトです。
日本最大級のコスメ・美容の総合サイト「アットコスメ(@cosme)」の共同創業者である山田メユミさんが、2021年11月に〈一般社団法人バンクフォースマイルズ〉を設立し、有志メンバーとともに立ち上げました。2022年4月には化粧品・日用品メーカー27社、支援団体80団体の協力のもと、およそ40万点の商品を3万3000世帯に届けるという実績があり、今後もますます活動の幅は広がっていきそうです。
プロジェクトを始めた経緯や今後の展望などを山田さんに伺いました。
「女性の貧困問題」×「行き先が決まっていない化粧品」
山田メユミさん。
ーー最初に「コスメバンク プロジェクト」を立ち上げた経緯を教えてください。
「きっかけはシングルマザーの支援団体を通じて『お子さんのハレの日なのに、手元に口紅ひとつなく、すっぴんをマスクで隠して参列するしかなかった』というある女性のお声を伺ったことでした。
コロナ禍で女性の貧困問題がより一層深刻になっています。それに、やはり一人親さんというといろいろなことを背負いながらお仕事もされておられて、在宅ワークがなかなかむずかしい職業に就いていらっしゃる方が多いので、より一層深刻度が増している状況だと聞いていました。
化粧品は女性を元気にして、幸せになっていただけるものだと思い、この業界に長年従事してきたつもりだったのに、化粧品がないことによって悲しい思いをされておられる方もいらっしゃるのだと気付いたとき、すごく衝撃を受けたんです。そして、いままでそうした現実に思いを馳せられていなかった自分が恥ずかしいという気持ちにもなりました。
一方で化粧品業界には、決して品質には問題がないのに、いろいろな事情から行き先のない商品が一定数存在することも知っていました。SDGsの関心の高まりのなかで、アパレル業界などいろいろな業界でアップサイクルの取り組みを進めているのですが、化粧品業界においては、やはり商品の性質上、難しいことも多い…という声も聞こえていました。
『女性の貧困』と『行き先が決まっていない化粧品』。この2つの問題を結びつけて、業界として女性を支援するような取り組みをしない理由がないと感じて、お声がけをしていきました。そうすると、思いのほか多くの企業が賛同してくれたんです」。
メーカーから集めた化粧品をギフト包装して提供している。
ーー化粧品のアップサイクルがむずかしいというのは、具体的にはどのような点がむずかしいのでしょうか?
「基本的に化粧品は、多品種小ロットで商品が非常に多いんです。また、化学合成品でもあるので、不要になった商品を集めて、粉砕して、再生成するということができない。それにブランディング上、各社がオリジナルのものをつくらないと、なかなか消費者に関心を持ってもらえないという事情もあって、リサイクルやアップサイクルがしづらい商材なんです」。
ーーなるほど。実際「コスメバンク プロジェクト」を始められて、1番苦労されたことはなんですか?
「正直な感覚として、思いのほか皆さんが前向きに協力をしてくださって、想定していた以上のスピードで規模が大きくなったんですね。逆に、運営サイドのマンパワーが追いつかないぐらい。各企業から協力をいただくという意味での障壁は、本当にないですね。
ただ、プロジェクトを進める中で1番むずかしいと感じているのは、ご提供いただいた化粧品をギフト包装して、物流網に乗せて、配送していくという、配送コストの部分です。プロジェクトの規模が大きくなればなるほど、当然ながらコストはかかるのですが、その収支をどう合わせていくかが課題です。
基本的に私も含めた運営スタッフはボランディアでこのプロジェクトに関わってくれているのですが、どうしても原価がかかる部分をどうしていくのか。継続的に活動をしていくために、メーカーから化粧品だけではなく、少しずつ運営費をご寄付いただいているのですが、そのバランスをとることが非常にむずかしいです」。
成人式のプレゼントにもなったという。
ーー「母の日」と「クリスマス」に化粧品をプレゼントされていますね。どんなお声が届いていますか?
「『経済的に苦しくなると、真っ先に切り詰めるのは化粧品なので、ここ最近は買ったことがありません。今回、思わぬプレゼントをいただいて、心からうれしく思いました』『母子家庭で、全くといっていいほど、自分の事ほったらかしで 全くメイクもできていないので、いただいたメイク道具で、おしゃれしてみたら、息子が“お母さん、かわいい!”とうれしそうに言ってくれます。私もうれしいです』。
このようなギフトをもらえることへの喜び、化粧品の力できれいになる喜び、そして、きれいになったママを見た子どもたちにも喜びを感じる声が多く集まりました。
私たちは化粧品をプレゼントをするときに、運営のLINEをお伝えして、化粧品の使い方がわからないときの相談や、化粧品を使った感想を気軽に送ってもらえる窓口をつくっているんです。ダイレクトにお寄せいただいた声は、私たちの活動の励みにもなりますし、ご協力いただいているメーカーにも共有しています」。
ーープレゼントを渡して終わりではないのですね。
「はい。やはり渡して終わりだと、どうしてもメーカー側から、女性たちに寄付をするという一方的な行為になってしまうんです。
女性たちからいただいた声を企業にフィードバックすることで、企業の中でも活力になったり、場合によっては商品開発のアイディアに繋がったりすると思うんです。双方にとっていい活動にしたいと思うので、そういったコミュニケーションの場を提供しています」。
千葉県柏市で行われた「仕事に役立つコスメセミナー」の様子。
ーー「コスメバンク プロジェクト」はSDGsの複数の目標に関わっていると思います。山田さんとしてはSDGsに関して思うことはありますか?
「日本の社会において、なかなか貧困問題は見えにくいと感じるのですが…現実問題として、いろいろな無理難題を抱えながら、お子さんのこともケアしていかなくてはいけないという環境にいらっしゃるシングルマザーが多数いらっしゃいます。この問題を産業界がしっかり認識をした上で、継続的にできることをしていく社会的義務があるんじゃないかなと思っています。それはSDGsの『1.貧困をなくそう』につながりますよね。
また、女性をエンパワーメントして、活躍していただけるようなチャンスを提供していこうという『5.ジェンダー平等を実現しよう』にも関わりますし、化粧品の製造責任ということで『12.つくる責任 つかう責任』にも当然関わってくると思います。
SDGsの達成に向けて活動されている企業も多くいらっしゃいますが、やはり1社でできることは限られます。協働することで、できることの内容も広がりも変わってくると思いますので、私たちをハブとして、コスメバンク プロジェクトが回っていくといいなと思っております」。
ーー自治体とのお取り組みが増えていると伺いました。ぜひ今後の展望や目標を教えてください。
「全国の自治体等とも連携しながら、より広範囲に、かつきめ細やかに多くの女性を支援できるネットワーク作りを目指して行ければと考えています。
まずは、はじめの一歩として千葉県柏市さんと提携し、2022年8月、児童扶養手当を受給される約2,000世帯へ化粧品のギフトを配布しました。ギフトを通じて、多忙ゆえ役所に足を運びにくく、そのため届出がなされなかったシングルマザーと、その現状把握が難しかった行政との接点になればと考えています。
また、つい先日は、化粧品メーカーにもご協力いただき「仕事に役立つメイクセミナー」と題し、シングルマザー向けに就業支援のためのメイクアップ講座を開催しました。『採用面接で表情を明るくみせたい』『履歴書の写真で印象を良くみせたい』『仕事でつかえるメイク方法を学びたい』など、プロの講師から就労面接や仕事に役立つメイク術を楽しく学べる、就業支援のためのサポートも実施しました。
今後も、より多くの企業や自治体との協働により、様々な社会課題にあわせたソリューションを提供できればと考えています」。
「COSME BANK PROJECT」
https://cosmebank.jp/
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