「バカリズムドラマは取るに足らない自分の人生も肯定してくれる」 どこまでも面白い、バカリズム脚本。
Hanako.tokyo / 2023年3月17日 18時8分
「バカリズムドラマは取るに足らない自分の人生も肯定してくれる」
近年、お笑い芸人が本業以外の分野に進出している。文芸誌には芸人の小説やエッセイが掲載され、ドラマや映画の脚本を書くケースも増えてきた。ドラマの世界でいえば、向田邦子賞を獲ったバカリズムはその筆頭といえるだろう。もともと自身のネタでは出演・演出・脚本のすべてを当たり前に行っているのだから、台本を書くという作業にも慣れているのはわかる。だとしてもレギュラーの芸人仕事をこなしながら連ドラの脚本を執筆するというのは並大抵のことではないはずだ。
Review
綿貫大介 ライター、テレビっ子わたぬき・だいすけ/エンタメを中心としたカルチャー分野で編集・執筆するほか、テレビっ子の肩書でも雑誌やWebに多数寄稿する。『ボクたちのドラマシリーズ』などZINEも精力的に制作。現在本誌では「神はテロップに宿る」を連載中。
バカリズムの脚本家としてのキャリアはすでに10年以上。最初にその名を知らしめたのが、ポスターや宣伝で「主演竹野内豊×脚本バカリズム」とはっきり銘打たれた
『素敵な選TAXI』(2014年放送、フジテレビ系)だった。
『素敵な選TAXI』/2014年にフジテレビ系で放送された、バカリズムのプライムタイム初脚本作。望む過去まで連れて行くことができる「選TAXI」の運転手(竹野内豊)と、人生の選択の失敗に悩むゲスト乗客が過去にさかのぼり人生を好転させていく。バカリズムは主人公行きつけのカフェのマスター役で出演。Prime Video、FOD、Hulu等で配信中。
タクシーで人生の分岐点に戻るという奇想天外な設定が本作のキモ。誰もが経験のある「もう一度やり直したい」という後悔に着想を得て、タイムリープで人生が再生する様を笑いとともに描いた。ドラマといえばリアリズムが求められがちだが、特異な世界観のネタをつくり慣れているからこそ、躊躇なくSF要素を入れ込んでいる。まるで『世にも奇妙な物語』のような不可解な設定とユーモラスな会話のバランス感が絶妙で、壮大なコントのような仕上がりだった。
次に話題となったのが
『架空OL日記』(2017年放送、日テレ系)。本人がOLになりすまして書いたブログが元だが、ドラマ化ではバカリズム自ら主人公を演じることでその狂気さが際立った。
『架空OL日記』/バカリズムがOLになりきって架空の日常を綴ったブログを、2017年に日テレ系でドラマ化。原作・脚本・主演はすべて本人で、「24歳OL」なのに見た目はそのままなバカリズムを周囲の人物も全員普通のOLとして扱う奇妙さも話題となった。第36回向田邦子賞を受賞し、「脚本家バカリズム」を決定付けた作品。Hulu等で配信中。
月曜日の憂鬱感、社食あるある、うざい上司への小さな悪口など、計算し尽くされたOLたちのおしゃべりも秀逸。長めに展開してもダレることのないセリフ回しは、お笑い芸人としてのセンスが発揮されていた。女子あるあるのコントネタもあるほど普段から女性の言動や振る舞いを研究しているバカリズム。ネタでは笑いのためにあえてステレオタイプな女子を演じているが、ドラマはそうではない。「~だわ」のような女言葉も使わず、過度な女装や化粧もせず、動きも多少ガサツ。それが逆に「こういう女子いる、むしろ私に似ている」と思わせる要素になっているのも面白い。まさに女性たちの日常のゆるさをリアルに追求したことが評価された作品だったといえる。
そして現在放送中で、SNSを中心に「面白い!」と話題沸騰なのが
『ブラッシュアップライフ』(日テレ系)。
『ブラッシュアップライフ』/現在日テレ系で放送中のヒューマンコメディ。主人公の麻美(安藤サクラ)は不慮の事故で亡くなった後、死後の世界の受付係(バカリズム)に来世はグアテマラ南東部のオオアリクイだと案内される。再び人間に生まれ変わるためには赤ちゃんの頃からやり直して“徳を積む”必要があり、以後同じ人生を何周も繰り返すことに。
あっけなく死んだ主人公の麻美(安藤サクラ)が人間に生まれ変わるために徳を積みながら人生をやり直す物語で、タイムリープする摩訶不思議な設定と、日常のあるある、そして女性同士の自然な空気感とリアルな会話劇が最大の魅力となっている(まさに先に挙げた2作のハイブリッド!)。さらにこの3作には、バカリズム自らも出演しているという共通点もある。普段テレビに出る時と変わらぬ力加減のバカリズムがドラマ内にも登場することで、視聴者はドラマとコントの認識があいまいになってくるのだ。これはバカリズム脚本の武器となる手法だろう。また、自身が出演もすることで撮影現場のムードや温度感を調整している節すらある。役者がナチュラルなトーンで演じられているのは、本人自ら作品の演技プランの指針となっているからなのかもしれない。だからこそバカリズムドラマの登場人物は自然体の〝どこにでもいそうな人〟で溢れている。
もちろん「笑い」を作品のゴールにしているのもバカリズムならでは。日常系のドラマなのにクスッと笑える瞬間が随所にちりばめられていて、観ていると取るに足らない自分の人生も面白いのかも……と思えてくるのだ。誰の人生も、切り取り方次第でちゃんと極上のコメディになる。そんなことをバカリズムは教えてくれているのかもしれない。
illustration : Yuya Iwatsu text : Daisuke WatanukiNo. 1218
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