山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第40回
Hanako.tokyo / 2023年4月14日 19時0分
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
「思い立ったが吉日旅inスペイン」
冬のヨーロッパ旅で900枚近く撮った写真や動画をまったくSNSに投稿しないまま、満開だった桜が葉をつけて季節が変わろうとしている。毎日やっているお昼のFMラジオはやるべきプログラムも多いので、ネタにするとしたらオープニングのフリートークに割り当てられるが、その2分半で話し終えるなんて至難の業。私の旅模様を人様にお見せする必要もないけど、普段から日常の出来事を切り売りしているから、全然言わないのも逆にむずがゆい。ということで、私がいかにもラジオで話しそうなエピソードがこの旅行期間内に多数発生しているのに、それらを詳細に伝えられる尺がないのだ。エピソードを持っていながら誰にも話していないなんて、もどかしくてたまらない。しかしこちらの連載にも文字数に制限があるので、今日は8泊10日のうちの5日目の午後、スペイン・バルセロナの街を散策した時のことだけを書きます。
モザイクタイルで有名なグエル公園は丘の上にあり、何百段もある階段をひたすら上っていく。そこからさらに上にある高台を目指しているうちに、バルセロナの街が夕焼け色に傾いていくのを背中越しに感じた。市街の中で突出して大きいサグラダ・ファミリアや、赤い屋根の家とビル群のコントラスト、そのすべてを包み込むように広がる地中海を、この場所からは一望に収めることができる。バックパッカーをしていた若き日の父が観た景色とは、どのくらい変わっているのだろうか。
今回のヨーロッパ旅行では街並みを楽しみながらベタな観光名所や美術館に行くのがメインで、毎日25,000歩ほど歩き回っていた。その代わりに食の優先順位が低く、味に定評がある有名な店を目指して行くというより、通りすがりのカフェやコンビニで軽食を調達するという具合だった。ただスペインはとにかくごはんがおいしいと聞く。しかもいろんな味をちょっとずつ楽しみたい人にとって、タパスやピンチョスの文化は最高の料理形式。ここまで食事をおざなりにしてきた分、ちょっと期待してしまう。Twitterで「バルセロナ バル」と検索して何軒か出てきた店の一つに向かう。私と友人は運良くカウンター席に座れたものの、開店から10分も経っていないのに店内は満席。そしてまたしても運良くキッチンからの受け取り口が真横にあり、次々と運び出されるタパスを指差して「あれと同じのをください」と言えば伝わった。ステーキのピンチョス、イカのチリソースや、隣の人がおいしいおいしいと言いながら食べていたタラのアイオリソースがけまで、何を食べても絶品。おかげでビールとワインが進むし、旅の疲れと充実感もあってか、酔いが回るのも早い。“トリハス”というスペイン式のフレンチトーストを最後にお会計を済ませて店を出ると、外には行列ができていた。我々が『るるぶ』的なガイドブックを一切読まずに旅をしているから知らないだけで、ここは誰もが知る有名店なのかもしれない。すぐに入れてラッキーだった。ほてりをさますために、地下鉄には乗らず、ホテルまで歩いて帰ることにした。
夜風にあたりながら散策していると、本屋さんの前を通り過ぎた。そういえば、現地の絵本を買って帰りたいなと思っていたものの、必要最低限の荷物が入るくらいの小さなキャリーケースで来てしまったので、これ以上モノが増えて移動が億劫にならないように、マグネットぐらいしかお土産を買っていなかった。でも旅が後半戦に差し掛かった今なら、ちょっとは増えても良いかもしれない。道を少し戻り、細いドアを開けると、素敵な内装と天井までの高さのある本棚に囲まれた空間が広がっている。本屋にしては照明が暗いなと思っていると、店員らしき女性に「ようこそ、でもあと5分で閉店なの」と言われた。慌てて出ようとすると、いいのよ、ゆっくり選んでと微笑んでくれた。「Where is picture book?」と尋ねて連れて行ってもらったエリアで、“La cometa”とタイトルらしき文字が箔押しされた絵本が目に留まった。ラジオ番組で共演している今村翔吾先生が「箔押しは単価が高いから出版社の気合が入っている証拠」と以前おっしゃっていたのを思い出す。スペインでもその法則が通じるのかはさておき、屋根の上に立つ少女が夜空の星に照らされている絵も気に入った。手に取ると、「それは女の子とお父さんのお話。私もとっても好きよ」と店員さんが頷いている。「英語版もあるけど、そっちにする?」と聞かれたが「スペイン語がいい、読めないけど飾っておきたいの」と言うと「思い出だもんね!」と理解してくれた。「あなたが好きなスペインのクラシックはどれ? その本を買いたい」と伝えると、どれにしようかなぁ〜と体を小刻みに揺らしながら辺りを見回し始めた。うれしそうに、楽しそうに本を選んでくれるキュートな店員さんに出会えた、それだけでも私はこの国に来て良かったと言える。
Tシャツ 6,600円(バルミーデイズ)、サンダル 30,800円(ヨーク|共にUTS PR)/カーディガン 41,800円(ザ ハンサムhttps://the-handsome-brand.com)/ワンピース 24,200円(メゾンスペシャル|メゾンスペシャル 青山店03-6451-1660)
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