くどうれいんの友人用盛岡案内 〜スポット編〜 #1 BOOKNERD
Hanako.tokyo / 2023年4月15日 10時0分
作家のくどうれいんさんの新連載が始まります。岩手県盛岡市在住のくどうさんが、プライベートで友人を案内したい盛岡のお気に入りスポットと、手土産を交互に紹介します。
1. BOOKNERD
わたしが盛岡観光案内をするとき、真っ先に挙げたいのはやはり盛岡市紺屋町の〈BOOKNERD〉である。ブックナードと読む。その名の通り「本オタク」の早坂大輔さんという店主がひとりでやっている本屋だ。わたしは2018年にこのBOOKNERDから『わたしを空腹にしないほうがいい』という文庫本サイズの本を出版し、大袈裟でなく、その本のおかげでいま作家としての人生を送っている。盛岡にいたからこそ、BOOKNERDとの出会いがあったからこそわたしは作家になり、盛岡に住み続けているのだ。そういうわけで、わたしのいちばんのパワースポットのようなこの本屋のことを、まずはご紹介したい。
盛岡駅からBOOKNERDまでは徒歩25分くらい。中の橋を渡り、岩手銀行赤レンガ館を左手に進み、雑貨屋の〈ござ九〉や南部鉄器の〈釜定〉、喫茶店〈クラムボン〉を発見したあたりで(え、ここ曲がるんですか)という細い道を曲がり、(え、ここ進むのであってますか?)と不安になり始めたあたりにお店がある。インディペンデントな書店にあまり入ったことのない人はそのちょっとお洒落な雰囲気にすこしだけ緊張するかもしれませんが、ぜんぜん大丈夫。なんにもこわくないので入店してみてください。
決して広くはない店内にはやさしい木目の本棚が壁に沿って用意されていて、決して広くはない店内にこんなに置けるのかと思うくらいたくさんの本が置かれている。手に取りやすい文庫、判型もさまざまなZINE、ここは料理関係の本か、おお、こちらは画集や写真集……本のタイトルを見ているだけで自然と足が奥へ奥へと進む。
BOOKNERDの選書はどんな人が訪れたとしても、必ず1冊は気になる本が見つかるような人懐こさと、シティボーイ的な嗜好がある人にとっては、え、ここにこれが!とその場でジャンプしてしまうようなディープさと、その両方を絶妙なバランスで成り立たせているといつも思う。東京でしか買えないと思っていた本もあるし、東京ですら買えない本もある。
早坂さんの企画するイベントやポップアップのぐっとくるブッキングにも本当にほれぼれする。盛岡にBOOKNERDができた年、わたしは既に社会人だったけれど、学生の時にBOOKNERDがあったらよかったのにとどうしても欲張りな気持ちになるし、店内に若い学生らしき人がいると、それだけでこの街がとても明るく思える。
店の奥にいる、いかにも人のよさそうなこの「本おじさん」こそ、店主の早坂さんだ。レジのところで発送作業をしていたり、事務作業をしていたりするのだけれど、不思議なことに本を眺めている間は早坂さんのことが全然気にならない。ちいさなお店だと(な、なにか買わなきゃ……)と妙に緊張してしまうわたしだが、BOOKNERDに流れる“どうぞ好きなように本を手に取ってみてね”という空気がとてもありがたい。
お会計を、とレジに持って行くと、早坂さんが「この本いいよね」と話しかけてくれることがある。観光客らしき人には「お昼なに食べてきたんですか」と聞いているのを見たことがある。早坂さんとの、さらっとしているのにうれしい会話の数往復もこの本屋の魅力だと思う。
餅は餅屋、花は花屋、コーヒーはコーヒーショップ、本は本屋。BOOKNERDがある街だから、盛岡はいい街。
TEL:019-677-8081
住所:岩手県盛岡市紺屋町6-27 1F
営業時間:[月水木]12:00〜19:00
[金土日]12:00〜20:00
定休日:火
https://booknerd.stores.jp/
作家。1994年生まれ。著書にエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)、『虎のたましい人魚の涙』(講談社)、絵本『あんまりすてきだったから』(ほるぷ出版)など。初の中編小説『氷柱の声』で第165回芥川賞候補に。現在講談社「群像」にてエッセイ「日日是目分量」連載中。
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