カルチャー発ソーシャル行 Meet #13／『アフターサン』+『ドキュメント シン・仮面ライダー〜ヒーローアクション 挑戦の舞台裏〜』

映画、小説、音楽、ドキュメンタリー…あらゆるカルチャーにはその時代の空気や変化が反映されています。そんな「社会の写し鏡」ともいえる、秀逸な作品を編集部Sが紹介。

あいまいでままならない他人と関わっていくことの面倒さと愛しさ。

すでに各所で評判になっている映画

『アフターサン』。内容は31歳のソフィが父との20年前の旅のビデオ（舞台はトルコのリゾート）を見返し、父の記憶や、当時の彼の精神（今のソフィと同じ31歳だった）に思いを馳せるというもの。ビデオは常に断片的で、何か起こりそうな予感があるかと思うと次の瞬間には別のシーンへと飛ぶ。登場人物の会話も少なく、話が噛み合わないこともちらほらだが、むしろ圧倒的にリアルだ。ときとして他者は理解不能であいまいだし、逆にただ純粋に優しくチャーミングだったりもする。ままならない他者と関わっていくことは面倒だが、長い年月を経ると何にも代えがたい愛しきものにもなりうる。たまに取り出して眺めたくなる、宝物のような映画だった。

父役のポール・メスカルは第95回アカデミー主演男優賞にもノミネート。監督・脚本はスコットランド出身のシャーロット・ウェルズ。北米での配給はもはや安定のA24。5/26より全国公開。公式サイト
　
NHKの

『ドキュメント シン・仮面ライダー〜ヒーローアクション 挑戦の舞台裏〜』の庵野秀明監督もあれこれ説明しない。ダメ出しを受けたアクション監督の「じゃあどうすればいいんですか」という問いかけに「わからないです」と答える。これを批判する向きもあったが、私は率直で真摯だと思う。専門外の自分の半端な代案よりも「今までにないものを生み出してほしい。以上」というのは相手への信頼があればこその委ね方だ。今、私たちは「言語化」と「わかりやすさ」という言葉を過大評価しすぎているのかもしれない。

自身の結婚式で仮面ライダーに扮したこともあるという庵野秀明監督による映画『シン・仮面ライダー』の撮影に密着したドキュメンタリー。NHKオンデマンドで配信中（4/14現在）。公式サイト

［今月の担当］編集部S／俳優・三船敏郎を描いたドキュメンタリー『MIFUNE THE LAST SAMURAI』を観て以来、ひたすら「世界のミフネ」を堪能中。