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食体験から魅力を紐解く。漫画家・ほしよりこの〈味の履歴書〉

Hanako.tokyo / 2023年9月11日 18時0分

食体験から魅力を紐解く。漫画家・ほしよりこの〈味の履歴書〉

その人の食体験を知れば、その人の魅力がもっと見える。

仲よし一家の週1回のお楽しみは〈ブルボン〉と『土曜ワイド劇場』だった。

ほし3姉弟は仲よく食い気一直線。小さいながら、食べる量は大人顔負けだった。無邪気に果敢に食べていたほしさんの食への興味は今もって衰えず。さらに広がり続けている。



子どもの頃、週1回の家族団らんのときにだけお菓子が食べられた。ほしさんの履歴は、そんな愛すべきエピソードで綴られる。
ほしさんは2歳上の姉と5歳下の弟に挟まれた、3人きょうだいの真ん中である。3人とも小さいときから大食いで食い意地がはっていたので、食事どきの奪い合いは熾烈だった。姉の食べ方はおっとり優雅で、好きなものは最後まで残しておくタイプ。でもその内実は、自分のものは自分のもの、よりこのものも自分のもの、というジャイアンタイプ。一方、弟は両親からの愛情の注がれ方がハンパでなかった。割を食うのは真ん中と相場が決まっている。欲しいものがあっても、「お姉ちゃんに借りなさい」と言われるし、幼少期の写真も極端に少ないと、いまだに嘆く。

3歳で見事な食べっぷり。

1977 3歳児にもかかわらず大食いで周囲を圧倒。家族の定番の外食、〈お好み焼きジャンボ〉。大人も食べるのがやっとくらいの大きな大きなお好み焼きを、5歳の姉とともにぺろりと食べたという大食姉妹。天晴れである。



1977 3歳児にもかかわらず大食いで周囲を圧倒。

家族の定番の外食、〈お好み焼きジャンボ〉。大人も食べるのがやっとくらいの大きな大きなお好み焼きを、5歳の姉とともにぺろりと食べたという大食姉妹。天晴れである。

ほしさん3歳のとき、銭湯の帰りにたびたび寄ったのが〈お好み焼きジャンボ〉だ。店名通りジャンボなお好み焼きを、ひとりで完食。その横綱級の大食漢ぶりに周囲はびっくり仰天したという。

母は心尽くしの手料理を食べさせたい人で、あまり外食の習慣はなかった。晩ごはんのメインはたいがい魚で、それも切り身より一尾丸ごとが多かったから、幼い頃から魚の食べ方には長けていた。幼稚園で唯一ほめられたのが、箸の持ち方と魚の食べ方だったそうだ。たまに豚肉が食卓に上ると、子どもたちは歓喜した。「それが私たちのステーキだったんです」
 
揚げ物もご馳走で、3人ともアジフライが大好きだった。あるとき、いとこの家に遊びに行って泊まることになったのだが、ほし家のその日の晩ごはんはアジフライの予定だった。「泊まるのはうれしいけど、今日はご馳走の日やったから残念」と言うと、叔母が「ご馳走って何なん?」と聞くので、「アジフライ」と答えると、叔母が2人のいとこに向かって言い放った。「あんたら、よう聞き。アジフライをご馳走て言うてる人もいるんやで」と。「その言葉が今も耳に残っています」
 
職人の家で、祖母の代から食事よりも仕事優先。質素倹約を旨とした。父も「昼はうどん、夜は適当に」という食生活で育ったから、母と結婚して最初の食事に海老チリが出たとき、「こんなしゃれたもん、食べたことない」と驚いたそうだ。

お好み焼きジャンボ

現在は持ち帰り販売のみ(生・焼き)。

住所:京都府京都市北区等持院南町35 
TEL:075-462-2934 
営業時間:11時〜14時LO、16時30分〜21時LO 
定休日:月火、第4日休 ※詳しくはX(旧ツイッター)@jumbookonomiで

土曜の夜の家族のお楽しみ。

1980 絵本の世界の食べ物にも興味津々。想像が膨らむ。寝る前に、父が読み聞かせしてくれる物語の中でも、食べ物にはとくに関心があったようだ。絵本に描かれた食べ物の絵を、それこそ食い入るように見ていたという。



1980 絵本の世界の食べ物にも興味津々。想像が膨らむ。

寝る前に、父が読み聞かせしてくれる物語の中でも、食べ物にはとくに関心があったようだ。絵本に描かれた食べ物の絵を、それこそ食い入るように見ていたという。

外食もあまりしないし、甘いものも食べさせてもらえなかったが、土曜の夜だけは特別。テレビの部屋にふとんを敷き詰めて、家族みんなで〈ブルボン〉のお菓子を食べながら、『土曜ワイド劇場』を見るのが楽しみだった。CMになると、誰かがゴールドブレンドをいれる。普段はできない夜更かしもOKなのだが、一生懸命眠気に耐えていても、30分もしないうちに寝てしまう。「翌朝、母に、誰が犯人やったん? と聞いたりして(笑)」
 
父は寝る前、子どもたちによく本を読み聞かせをしてくれた。ほしさんのお気に入りは『木いちごの王さま』だった。王さまが望めば、パーッと食べ物が現れる。パンもミルクも出てくるし、ふかふかのベッドだって現れる。「食べ物が並んだ絵もよくて。憧れましたね。父がページをめくろうとするのを『めくらんといて』と止めてじーっと見てました」。映画でも食べ物のシーンが好きだし、自分でも食べるシーンを描くのが好きというほしさんの原点は、こんなところにもあったのかもしれない。

食の世界が少しずつ広がる。

たまの外食は、〈ステーキのあさくま〉へ。「ドイツの山小屋みたいな建物なんです。素敵な格好をさせてもらって、お行儀の悪い子は連れて行かないと言われて。初めてナイフとフォークを使ったのもここ。ドキドキする体験でした」。同じような経験を甥っ子にもと、先日、友人のレストランに連れて行った。緊張しながらナイフとフォークを使う姿が愛らしかった。洋食デビューは、いつの世も晴れがましく、かわいらしい。
 

1986 ほし3姉弟が食べて食べて食べ尽くしたもの。シャウエッセンがお目見得すると、ほし3姉弟もたちまち虜に。山盛りにして食べた。たまたま来ていた親戚のおばさんも、「この子たち、食べ過ぎちゃうの」と驚いた。



1986 ほし3姉弟が食べて食べて食べ尽くしたもの。

シャウエッセンがお目見得すると、ほし3姉弟もたちまち虜に。山盛りにして食べた。たまたま来ていた親戚のおばさんも、「この子たち、食べ過ぎちゃうの」と驚いた。

小学校高学年のとき、粗挽きウインナーのシャウエッセンが登場。ほし家でも大ブームが起こる。「むちゃくちゃ、おいしかったんです」。買ってはゆで、姉弟3人で食べまくった。「山盛りにして食べてました」

高校生になって、自分でお金を持つようになると、食事情は一変する。朝はコンビニのパン、お弁当まで食べて、お昼は学食のパン、帰りには〈マクドナルド〉や〈ミスタードーナツ〉へ。当然太る。高校2年でパン屋でバイトを始めると、売れ残りのパンをシェアした友達とともに加速度的に太った。「やせようと鬼ごっこをしたら、走った途端に、みんなのスカートのホックが次々飛んで、大笑いしました」

1991 姉のビビンパ初体験話に夢中になって食いついた。話を聞くだけでもワクワクするようなご馳走話。姉も食いしん坊なだけに、リアルな描写に熱がこもる。聞くほしさんも想像力豊かだから、強烈なインパクトを受けた。



1991 姉のビビンパ初体験話に夢中になって食いついた。

話を聞くだけでもワクワクするようなご馳走話。姉も食いしん坊なだけに、リアルな描写に熱がこもる。聞くほしさんも想像力豊かだから、強烈なインパクトを受けた。

大学生になった姉がデートから帰って、大興奮で教えてくれた初めての石焼きビビンパの話。「…器が、石やねん。石の丼やねん。それがあっつあつで、生卵とご飯を混ぜて、スプーンでジューッと押しつけると‥焦げんねん。焦げてるところと焦げてないところがあって、卵もふわっとしてるとこもトロッとしてるとこもあって、ちょっと辛いのも入れて、もう、めちゃくちゃおいしい」と。「へーっ、そんな食べ物があるんか」と食べるのが楽しみだったのだが、実際食べてみると姉の話のほうがインパクトで勝っていた。のちに姉の夫となる彼は、ほしさんを初めて焼肉に連れて行ってくれた人でもある。焼肉は、母の実家の庭で焼きながら食べるものだと思っていたのだが、店で食べる焼肉はいろんな部位があって、おいしさに感動したという。焼肉も好きだし、豚足も好き。20代のときによく行ったのは〈水月亭〉だ。そんなふうに、長ずるにつれ、食の世界がどんどん広がっていく。

ステーキのあさくま

ファミレスのハシリのようなレストラン。ほしさんが行っていた店舗はもうないが、現在は愛知、静岡、三重、岐阜、千葉などに店舗多数。

水月亭

蒸し豚、ホルモン、豚足、チヂミ、ナムルなども。テイクアウト可(10時〜)。

住所:京都府京都市南区東九条南山王町46 
TEL:075-691-3783 
営業時間:16時〜21時 
定休日:月祝休

日々充実の大人の食卓。

2023 最近のマイブームは思いがけず、湯豆腐。最近、不思議なことに嗜好が変わってきた。これまで興味がなかった湯豆腐が好きになり、〈嵯峨 おきな〉まで足を運んだり、贅を尽くした湯豆腐桶を買おうか悩んだり。



2023 最近のマイブームは思いがけず、湯豆腐。

最近、不思議なことに嗜好が変わってきた。これまで興味がなかった湯豆腐が好きになり、〈嵯峨 おきな〉まで足を運んだり、贅を尽くした湯豆腐桶を買おうか悩んだり。

ひとり暮らしを始めて、自炊するようになってからは、肉は好きだが外食に任せて、自分で料理するのはほとんどが魚。それも切り身ではなく、鮎だったりサンマだったりを一尾で。結局、子どもの頃に食べたものをなぞっているのかもしれない。カツオの叩きや刺身も、割引になる夕方の時間を狙って求める。「料理を作っていると癒されるんです」。ただ、作りながら食べたりしていると、何を食べたかわからないので、ちゃんと作ってお盆に並べて、食卓に向かう。「夜ごはんは平坦な暮らしの中の一大イベント」。ゆっくり味わう。
 
ご飯は一度に7合炊いて冷凍する。内訳は玄米5合、赤米1合、ハトムギなど雑穀1合の割合。炊きたては3〜4杯食べて、そのあとおにぎりも作る。おかずにはブームがあって、ホイル焼きや乾物など。ひとり用の小さなコンロで、テレビを見ながら豚しゃぶも。最近、嗜好が変わってきたのか、かんぴょう巻きが好きになったり、まったく好きではなかった湯豆腐に目覚めたり。湯豆腐は自宅で作るし、〈嵯峨 おきな〉に食べに行ったりも。最新のブームだ。

仕事の関係で東京に行く機会も増え、食いしん坊の友人たちと東京グルメも楽しんでいる。「よく行くのは、焼き鳥、蕎麦、天ぷら、寿司、あ、とんかつも。東京のほうがおいしく感じます」。とくに焼き鳥は大好きで、よく行くのが五反田の〈とり口〉。上京の楽しみのひとつだ。逆に、関西にはあちこちから友人たちが来る。最近とくに多く、毎週のように外食するうち、ちょっと太り気味とか。

ほし家のファミリーヒストリーも、ほしさんの個人史も、常に食べ物に彩られている。それってとても、幸せなことである。 

嵯峨 おきな

しっとりと落ち着いた空間で湯豆腐を含む豆腐料理のコースがいただける。

住所:京都府京都市右京区嵯峨釈迦堂大門町11 
TEL:075-861-0604 
営業時間:12時〜13時30分最終入店、14時LO、18時〜19時30分最終入店 
定休日:水、第3木休

とり口

モダンな雰囲気の中、前菜と王道の焼き鳥、ナチュラルワインをコース仕立てで楽しめる。

住所:東京都品川区西五反田2-28-10 
TEL:03-6421-7254 
営業時間:17時〜23時(最終入店21時30分、ドリンク22時30分LO) 
定休日:無休

猫のスーパー家政婦、今日も参上。

連載20周年を迎え、5月に最新刊『きょうの猫村さん』10巻(弊社刊)が発売された。猫のスーパー家政婦・猫村さんは、今日もぼっちゃんとの再会を夢見ながら日々大奮闘中!

illustration_Mihoko Otani text_Michiko Watanabe

No. 1224



No.1224 『京都の味』 2023年08月28日 発売号

今号から、Hanakoがリニューアルします。 Hanakoが創刊時から大事にしてきたDNA・食と旅を軸にして。 領域は、家の食事を楽しむためのインテリアと道具、旅の持ち物、日本各地のカルチャー情報も……。 一時的な情報だけでなく、読者のみなさんにとって、Hanakoの記事が刺激となり、脳内シナプスが多方向につながり、楽しいことがどんどん広がって、新しい世界が開いていく特集を作っていきます。 リニューアル第一号は、京都の味について考えます。 平安時代に始まり、戦国時代を通して、現代へ。古くから、日本人が京都を目指すの …



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