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くどうれいんの友人用盛岡案内 〜スポット編〜 #6 お茶とてつびんengawa

Hanako.tokyo / 2023年9月15日 18時31分

くどうれいんの友人用盛岡案内 〜スポット編〜 #6 お茶とてつびんengawa

岩手県盛岡市在住の作家のくどうれいんさんが、プライベートで友人を案内したい盛岡のお気に入りスポットと、手土産を交互に紹介します。

さて、盛岡観光だ!と盛岡駅から大通りを抜けて、櫻山を眺めて、中津川を渡って、岩手銀行赤レンガ館で写真を撮って。このあと紺屋町と肴町を見たいけれど、ちょっと脚を休めたいな、と思ったところに〈お茶とてつびん engawa〉はある。この南部鉄瓶の看板が目印だ。

〈お茶とてつびん engawa〉は2019年にオープンした。南部鉄瓶ブランドkanakenoが運営しているカフェのため、南部鉄瓶に触れながら一息つくことができる。

メニューを眺めていると、まず、白湯が出て来る。

南部鉄瓶で沸かした白湯はまろやかで甘く、胃をすわすわと広げてくれる。

これはkanakenoの看板商品、「あかいりんご」というシリーズ。ころん、とした見た目はりんごそのもの。南部鉄瓶には表面に凹凸があるイメージがあるけれど、こちらはつるんとしていて、洋風な空間の中にもすんなり馴染みそう。

注文して待っている間、店内の南部鉄瓶を実際に触ったり持ち上げたりして、南部鉄瓶のある生活を想像することができる。南部鉄瓶を買う、というのは、大きくて重い買い物だ。やっぱり手に取ってみて、自分の生活に置かれるイメージができないと買いにくい。どのくらい重いのか、どのくらい手入れが必要なのか、経年でどのように変化するのか。店員さんに教えてもらいながら見てみるのもよい。

鉄瓶ドリンク、とメニューに書かれているものは、鉄瓶で沸かしたお湯で作ってくれる。本日のコーヒーを注文した。

しょわしょわと南部鉄瓶でお湯が沸く音が聞こえると、こころが平らになるような気がする。店員さんがお湯を注ぐと、コーヒーのいいにおいがする。

さて、いただきます。
本日のコーヒーとコーニッシュチーズケーキ。
コーヒーはグァテマラの深煎り。南部鉄瓶の白湯で入れたコーヒーは、からだの内側からじんわりと染みるようにおいしい。

コーニッシュチーズケーキは、そう、こういうチーズケーキが食べたかったんだよ、と立ち上がってガッツポーズをしてしまうような「ぬっしり」と重くかたいものだ。しゅわしゅわに柔らかいチーズケーキがおいしいのもわかるけれど、深煎りのコーヒーと一緒に食べるチーズケーキなら、やっぱり密度濃く、重くあってほしい。

添えられているのは自家製のティーシロップ。鼻を抜ける紅茶の明るいにおいがうれしい。
チーズケーキを食べ、コーヒーをひとくち。それを繰り返しているうちに、みるみるげんきになってくるのがわかる。

〈engawa〉のテーブル席の奥には、なんと、和室が広がっている。

オープン前に「鉄器に関わる内側と外側をつなぐ役割でいたい」という意味で「engawa」という名前が先に決まっていたところ、たまたま、本当に縁側のある物件に空きが出たのだという。何度来ても、この唐突に現れる落ち着いた和室にうっとりする。

学生が三人でおしゃべりをしていたり、会社員と思われる女性がひとりでランチをしていたり、読書をしていたり。いつ来ても〈engawa〉の和室にいるお客さんは思い思いの時間を過ごしていてうれしくなる。

〈engawa〉には紅茶もある。というか、個人的には、〈engawa〉はなによりも紅茶のお店なのだ。そう、なんてったって。

最初に〈engawa〉に訪れた日、わたしは驚いた。(はじめてなのに、はじめてな感じがしないぞ……?)紅茶の種類がたくさんあって、誠実そうなカップに香り豊かな紅茶が注がれて出て来る。紅茶が飲めるお店はたくさんあるのかもしれないけれど、ひとくち飲むごとに、どうにも思い出せない記憶を撫でるようなきもちになるのだ。

大学の4年間をわたしは仙台で過ごした。そのとき行っていた仙台駅の近くの〈teato〉というお店にいるときと、〈engawa〉はどこか似ていた。わたしは〈teato〉で紅茶をゆっくり飲み、持っていた便せんで何通か手紙を書いた。静かだけれど緊張しない、ゆったりと時間が流れていく店内。カップに口をつけるごとにたましいが静まっていくようだった。就活だなんだとばたばたしているうちに、そのお店はいつの間にか閉店していた。かなしかった。わたしは仙台を離れ、盛岡で仕事をはじめた。

だから、〈teato〉のマスターがいま、盛岡で〈engawa〉のマスターとして立っているとを知ったとき、仰天した。そうか、だからこの一杯がこんなにじんわりおいしい。

〈engawa〉で紅茶とスコーンを食べると、その日々のことを思い出す。柑橘の香りがぶわっと漂う「グー ルース セット アグリュム」は、ほどよく苦みもあって甘いものとよく合う。スコーンには、指についてしまうほどクロテッドクリームとティーシロップをたっぷりつけて食べるのがおいしい。

盛岡観光も一休み。鉄瓶を眺めながら、盛岡に来てくれた友人と、畳を撫でつつゆったり話したい。

お茶とてつびん engawa

住所:岩手県盛岡市中ノ橋通1-5-2 唐たけし寫場 1F
TEL:019‐656-1089
営業時間:水〜金11:00〜17:00
土日祝8:00〜17:00
Morning 10:00 LO、Lunch 14:00 LO
定休日:月曜・火曜
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くどうれいん

作家。1994年生まれ。著書にエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)、『虎のたましい人魚の涙』(講談社)、絵本『あんまりすてきだったから』(ほるぷ出版)など。初の中編小説『氷柱の声』で第165回芥川賞候補に。現在講談社『群像』にてエッセイ「日日是目分量」連載中。最新刊に『桃を煮るひと』(ミシマ社)がある。

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