パン屋さんの朝は午前3時から。ベーカリー〈薪火野〉の1日のタイムスケジュール
Hanako.tokyo / 2023年10月12日 12時0分
日々の糧となるパンは、店主にとっての心の糧でもある。呼吸をするのと同様、飽きることがないというパン作り。兵庫の山あい、丹波で育まれる薪窯パンの工房を訪ねた。
ベーカリー〈 薪火野 〉の一日。
AM 3:00
夏はまだ暗い早朝から作業が始まる。
古代小麦のパン「パンペイサージュ」を焼くための型を手入れする。
作り手の顔が見えるオーガニック小麦を使用。
パンを焼く準備は前日にしておく。古代小麦やライ麦など自家製粉する小麦は2台ある製粉機を使い、作業開始までに挽き終える。「酵母の発酵を確認するのは手の感覚だけで行います。発酵は季節やその日の気候で変わるもの。2年ほど前に温度計を捨てて、感覚を大事にしようと」工房に機械はほとんどない。
AM 5:00
捏ね桶で優しく手捏ねし、薪の準備もと休むことなく。
薪は近くの森林組合で手に入れる。油分が少ない広葉樹はヤニが溜まらないという。
水の中を漂うように中山さんの手が動くうち、いつの間にか生地ができてゆく。
子どもなら中に入れそうな、ヒノキの捏ね桶は木工作家の友人によるもの。小麦粉を土手のように両側に積み、中央に塩と水、酵母を入れ、小麦粉を少しずつ崩しながら手で混ぜてゆく。「捏ねる感覚はなくて混ぜるだけ。手助けする感覚に近いかな。生地そのものの自重でも捏ねが進みます」。合間に薪の準備を行い、中山さんは休むことなく働き続ける。
AM 10:00
二次発酵と窯のタイミングを合わせる。
これから窯へ入れられるカンパーニュ
庫内の温度が上昇するにつれて、当然ながら工房も暑さを増してゆく。
捏ね桶の中で一次発酵させたカンパーニュは、分割して休ませてから形を整え、発酵カゴで二次発酵を行う。カゴから出し、表面にクープを入れ窯の中へ。薪窯は2時間ほどかけて庫内を380℃まで上昇させた後、300℃にして使用。「しっかり蓄熱させて焼くことで見た目もよく焼き上がります。気持ちよく焼かれたパンは味もいい」
PM 1:00
窯から出たパンに神々しさを感じる昼下がりの工房。
窯で焼き上がったパンたち
パンは季節によって3~5種類。最上段は古代小麦のパンペイサージュ。2・3段目がブリオッシュペイザンヌ。4段目は北海道産の石臼挽き小麦粉スム・レラをベースにキタノカオリとライ麦を混ぜたカンパーニュ。「いっぱい焼いて、ずらっと並んだ姿が格好よくて、その光景を見たいがために焼いてしまう」と見惚れる中山さん。
誰かの幸せになるパンを焼く喜び。
丹波市の郊外に自宅を併設した工房を構える〈薪火野〉。パンを作る合間に、庭で乾燥させた薪を運ぶのは店主の中山大輔さん。パンを作る作業は黙々とひとりで行う。
「理想とするのは糧としてのパン。水のようだ、というのは最高の褒め言葉です」とを営む中山大輔さんはいう。小麦粉と水、塩、そして酵母を手で捏ね、薪窯で焼き上げるパンの作り手だ。カンパーニュやブリオッシュなど、窯から取り出されたパンはどれも深い焼き色で存在感にあふれている。ところが口にすれば意外なほど主張は控えめで、料理やチーズを引き立てる。まさに日々に寄り添うパンなのだ。
フランス式薪窯はパーツを輸入し、足りない部品は鉄工所に依頼して自作で作りあげた。下に薪を焚べて上の窯に蓄熱する。カンパーニュなら一度に40個ほどが入る。
中山さんがパンの道へ進むことを決めたのは大学生の頃。東日本大震災や離島で過ごした経験から、世界を変えることを願うようになったという。「そのタイミングで譲られたのが、離島で育まれた小麦。その小麦を繋ぎ続けたくて、思い浮かんだのは粉にしてパンを焼くこと。天然酵母を起こせば、種はずっと残り続けると独学でパンを焼くようになりました。ポジティブな未来に向けて、僕ができるのはパン作りだと」環境や持続可能であることを考えたとき、日本に豊富にある木を使う薪窯以外の選択肢はなかったという。かくしてパンと向き合う日々が始まった。広島の薪窯パン屋での修業を皮切りに、パンが文化として根付く地を肌で感じるべくヨーロッパへ。スペイン・サンティアゴ巡礼路を歩き、フランスの小麦農家で働き、各地のパン屋を見て学ぶこと8カ月。その土地ならではの食を引き立て合うパンがあることを体感して帰国。すぐさまクラウドファンディングで資金を募り、2020年3月に本格的な稼働を始めた。
「パン屋である意識はなくて、ただ生きている延長にすべてがあると感じています。パンを焼くのも暮らしの一部。だから充実した毎日を送り、幸せを享受することで自分が変わり、パンも変わる。目指すパンへと近づいてると実感する日々です」
中山さんとパートナーの市川舞子さん。2人での暮らしが心を豊かにしてくれるという。発送も2人で行う。
薪火野
住所:兵庫県丹波市氷上町中野40
TEL:070-4411-1859
HP:https://makibino.com/main/
購入はオンラインでの予約のみ。定期便の場合、毎月同じ週の金土日に発送。カンパーニュ2,000円、ブリオッシュペイザンヌ1,800円、パンペイサージュ1,700円。予約のパンは工房でも受け取れる。
photo_Yoshiko Watanabe text_Mako YamatoNo. 1225
![Hanako No.1225 『美味しいパンには、理由がある』](https://img.hanako.tokyo/2023/09/25191818/HANAKO202311_001-600x768.jpg)
No.1225 『美味しいパンには、理由がある』 2023年09月28日 発売号
リニューアル二冊目は、まるごと一冊、パンの特集です。 朝、昼、夜に、おやつの時間と、美味しいパンは私たちの必需品。 探究心と遊び心を持つパン職人のおかげで、日本のパン文化は今日も進化しています。 生産背景がわかる国産小麦にこだわり、地方では薪窯でパンを焼く人が増え、 室町時代から続く麹屋の麹を採用した発酵パンも作られています。 活躍シーンも広がり、ワインに、ビールにぴったりなパンも登場。 お取り寄せできるお店も増え、食べ方も、買い方も、多種多様になりました。 北海道から沖縄まで、評判のパン屋を巡り、美味しいパンが生 …
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