韓国で絶対にやりたかった「ポジャギ」作りとは?|前田エマの秘密の韓国 vol.12 예인규방공예
Hanako.tokyo / 2023年11月3日 19時5分
この連載では、韓国に留学中の前田エマさんが、現地でみつけた気になるスポットを取材。テレビやガイドブックではわからない韓国のいまをエッセイに綴り紹介します。第12回目は、ポジャギ作りへ。
韓国で絶対にやりたかったことのひとつがポジャギを作ることだった。
ポジャギとは、風呂敷や袱紗(ふくさ)のように、ものを包む布のことを言う。
朝鮮王朝の時代には、宮廷で高級な絹の布に豪華な刺繍を施したりして、婚礼の儀式などにも使われていたそうだ。
一般家庭の女性たちが生み出したのは、服を作った時に出るハギレを縫い合わせて、一枚の布に仕立てていったポジャギ。
この“チョガッポ”と呼ばれるパッチワークのようなポジャギは、目にしたことがある人も多いのではないだろうか。
余った布を無駄にしない生活の知恵でもあるが、ひと針ひと針、真心を込めて幸福を願うといった想いも込められているそうだ。
私が博物館で目にした子ども用の韓服は、色とりどりの布が楽しそうに、多用され作られたものだった。
説明書きには“ひと針ひと針、子供の長寿を願って”と書かれていた。
今年の夏、ポジャギを買おうと、古道具が集まる「踏十里古美術通り」に行った。
そこに置いてあったのはパッチワークのような“チョガッポ”で、絹、麻、木綿など、様々な素材で作られていた。
四角や三角、台形などを上手に組み合わせたポジャギたちは、ひとつひとつ少しずつ異なる。
どれも魅力的で、愛おしくて、たっぷり時間をかけて悩んでしまった。
私が買ったのは、白色のポシャギだ。
同じ白色の布でも、パーツひとつひとつ、布の織り方や色など微妙に表情が違う。
ポシャギを通すと、光が柔らかくなり、穏やかな空間を作ってくれるような気がする。
田んぼのような、迷路のような、地図のような縫い目を見ていると、飛行機から地上を見下ろしているような感じがする。
豊かな、まるで旅をしているような、そんな気持ちになっていく。
お会計を終え、店を出ようとすると、お店のお母さんが色々とお土産を持たせてくださった。
別れ際、少し話をすると「これは北朝鮮で作られたポジャギなのよ」と言った。
人件費が安いため、韓国には北朝鮮で作られたポジャギが、中国を経由して、たくさん入ってくるそうだ。
今、手元にあるポジャギが、少しずしりと重たくなったような気がした。
こちらに来てから、韓国と北朝鮮の歴史、そして今も続く様々な繋がりや難しさを感じる機会が多々あったけれど、今まででいちばん、それを身近に感じた瞬間だった。
ポジャギを習いたいなと思っていたところ、韓国コーディネーターとして長年活躍されてきた崔智恩(チェ・ジウン)さんが、教室を教えてくださった。
教室はアングク駅の2番出口のすぐ近く、なんと駅の中にある。
「예인규방공예」(エインキュパンコンエ)。
ここはポジャギや刺繍を施した布ものを販売する店であり、依頼を受けての制作もしていて、そして教室もやっている。
ユン・イソ先生は、サバサバしていて、簡潔に、しかし丁寧に教えてくださる優しい先生だ。
今、他の場所で習っている書芸(韓国の書道)をやっていても思うのだが、こういった手を動かす習い事は、韓国語が上手でなくてもできるので、気楽でいい(笑)。
教室には日本語で書かれた、コースメニューの表がある。
2時間ほどでできるのは(個人差はあると思うが)、栞やコースター、カップカバー、巾着、針山(私が体験した時は3万ウォン〜4万ウォンくらい)などだ。
数日、1ヶ月など、相談しながら大作も作れる。
私が選んだのはお花の形をした、カップカバー。
他の作品がパッチワークのような“チョガッポ”なのに対して、このカップカバーは、布を縫い合わせるのではなく、一枚の布にギャザーを寄せながら縫うことで形を立ち上がらせていくものだ。
一緒に行った友人たちは、栞とコースターを作った。
これらは、真っ直ぐ縫い合わせていく作業なのに対して、カップカバーは立体的なので、思ったよりも難しく、時間がかかってしまった。
ポジャギは、ものすごく時間がかかる。正直言って舐めていた!
友人たちも口々に「想像以上に大変だね」と、楽しみながら夢中になりながらも、細かさと忍耐強さを必要とする作業に、ひいひい言っていた。
完成した時の達成感がものすごく良かったので、それからも何度か通っている。
예인규방공예(yeyinkyubang)Instagram:@yeyinkyubang
MAP:https://maps.app.goo.gl/hi6WGMsZGt43ysZk6?g_st=ic
HP:https://blog.naver.com/ymar4307
1992年神奈川県生まれ。東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーの留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。アート、映画、本にまつわるエッセイを雑誌やWEBで寄稿している。2022年、初の小説集『動物になる日』(ミシマ社)を上梓。現在、ソウルの語学堂に留学中。
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