《ぬいぐるみ》ほしいものには自分で出会う。ハンドメイドは小宇宙#2
Hanako.tokyo / 2023年11月7日 15時0分
21世紀、いまはワンクリックでなんでも手に入る時代だけれど、本当に欲しいものはいつも見つからないような気持ちになるのはなぜだろう。
でも忘れないで。私たちには最強の相棒、ハンドがあることを。 ちょっとの失敗なんて気にしない。心の動くままに手を動かせば、世界でたった一つの愛おしいモノたちが誕生するかもしれない。
今回は、ただ可愛いだけじゃない、パンク精神も持ち合わせた《ぬいぐるみ》の世界をのぞき見。
ゲスト:リボンちゃん
「どんなに下手でも完成したら勝ち」
2021年、Twitter上に彗星の如く現れた「おにんぎょう村」。村人のぬいぐるみたちが自由におしゃべりをする動画を見て、その存在に気付いた人も多いはず。ぬいぐるみたちの生みの親、リボンちゃんにとっておにんぎょうごっこは今でも毎日の日課なんだとか。
「自我がないときから隣にいたので、ぬいぐるみが私にとって特別な存在だとは思いませんでした。そのとき一緒にいたのは、母が与えてくれたウルトラマンのうるちゃんとドナルドダックのだっくちゃん。当時の自分と同じくらいの大きさだったと思います。小中高と成長していく中でも自然とおにんぎょうごっこは続けていて、それが変わったことなのかもしれない、と感じたのは高校生のとき。新しいぬいぐるみを買うために始めたバイト先のお客さんに『ぬいぐるみなんて持ち歩いて、なに可愛い子ぶってんの?』と言われたんです。学校にも持って行っていたし、タオルやノートと同じように、私にとっては持ち物のひとつだったのでびっくりしました。親にも友人にもそうやって言われることはなかったから、今考えると恵まれた環境にいたんだなと思います。ぬいぐるみを作り始めた今でも、隣にいるのが当たり前、という認識は変わってないですね」
リボンちゃんの自宅にいるぬいぐるみたち。「全部で何体いるのか把握できてません」
こちらがダックちゃん。現在はうるちゃんと一緒に実家の倉庫で大切に保管されている。
実家は京都で100年以上続く老舗の染物屋。お母さまは洋裁の仕事をしていたこともあり、リボンちゃんにとって、ものづくりは身近な存在だった。
「家にあるミシンを勝手に触っていたし、幼稚園のときにはティッシュケースを作りました。手縫いで初めて作った作品は『とっとこハム太郎』に登場するリボンちゃんのフェルトマスコット。小学校1年生のときに、クリスマスプレゼントでサンタさんに貰った手芸キットで作ったんですけど、途中で糸が足りなくなって号泣したのを覚えています。足元の縫い目が綺麗なのは、見かねた父が縫ってくれたからです」
高校時代に服作りへの興味が湧き、服飾の専門学校へと進学。ぬいぐるみ作りには当時学んだ服作りのノウハウが生かされているそう。
「『おにんぎょう村』は私がこどもの頃に作った世界なのですが、発信しはじめたのは2021年ですね。それまで服飾の専門学校に通いながらコスプレの衣装を作ったり、バンドをやってみたり。色々な活動を経験したうえで、もっと自由なことをしよう! と思い浮かんだのがぬいぐるみでした。ぬいぐるみが喋っている動画をアップしつつ、オリジナルのぬいぐるみを10個ほど販売してみたらすぐ完売してしまって。服作りの基礎があれば、ぬいぐるみ作りも難しいものではないので、じゃあもっと作ってみるか、とやっていくうちに今の形になっていったんです」
これまで作ったおにんぎょうたちがずらり。
右が初めて作ったオリジナルキャラクター、うさナース。左は村のむらさき神社で暮らしているむらさきのサル。
そんなリボンちゃんの作るぬいぐるみは、自身のストーリーをもち性格もバラバラ。そのアイデアの源はどんなところにあるのだろうか?
「例えば『いちご運搬係』という名前のネズミは、耳の内側が花柄のネズミが欲しいと思ったところから生まれたキャラクター。作ったあとにいちごを持たせてみたらぴったりで、いちごを運ぶ仕事に着いたんです。私の弟をモチーフにしたずる賢い性格の『かしこいナス』もいるし、『グーのカニ』は、私の負けず嫌いから生まれています。ぬいぐるみ作家さんは世の中にたくさんいるんですけど、Twitterで見かける方がみんなふわふわのカニを作ってたんですよ。そいつらに勝ちたいなと思って、普通のカニとじゃんけんをしたら絶対に勝てるグーの手のカニ作りました。ふわふわじゃないから余計に強そうだし(笑)」
こちらがいちご運搬係。
おにんぎょう村では、かなしみのぎょうざ(左下)率いる「にんぎょうバンド」が大人気。メンバーは、かしこいナス(右上)、グーのかに(左上)、ヤンキーしゅうまい(右下)。ちなみに、かなしみのぎょうざは通販での未入金キャンセルがゆえに、購入者の元に届かずおにんぎょう村に残ることになったキャラクター。悲しみに浸るために黒いリボンをつけている。
おにんぎょう村のすべてが分かる「おにんぎょう村図鑑」も販売。お客さんのリクエストで給料日に合わせて毎月25日ごろにオープンする通販サイト「てんてこまーと」(https://sushicatnyan.kawaiishop.jp)で購入可能。
「ぬいぐるみが身につける服や小物は、彼らのストーリーができたときや、こんなアイテムがあったらいいなと思ったタイミングで作っています。販売するときには『ネズミさんの服』のように限定してしまうと、ネズミさんを持っている人しか遊べなくなってしまうので『ちっちゃいおにんぎょう用の服』『おおきいおにんぎょう用の服』というような表記にしていますね。そうすれば、みんなが大切にしている他のぬいぐるみも可愛く飾ることができると思うので」
スタイは人気アイテム。さまざまな色や柄のものを販売している。
ちっちゃいおにんぎょう〜ちゅうくらいのおにんぎょう用のドレス。
通販だけでなく、ときにはイベント出展をすることも。
ぬいぐるみ好きの中には、リボンちゃんのように自分で作ってみたいと思う人もいるだろう。作る上で何かコツはあるのだろうか。
「強いて言うなら仕上げにはデニム用の20番の系を使っています。普通のミシン系だとほどけてしまうかもしれないのと、そもそも生地の目が荒いので玉留めしても抜けてしまう可能性があるんですよね。デニム用の系なら玉留めも大きくなるので、そうそう抜けることはないし、丈夫に仕上がります。洗濯機で洗ったり、投げたりもんだりしても大丈夫! 針の長さは色々試してみて、自分が一番使いやすいものを選んでみてください。ぬいぐるみ制作は途中で上手くいかなくて諦めちゃう人も多いと思うんですけど、私が作った“リボンちゃん”のように完成したら勝ち。だからまずは最後まで挑戦してみてほしいです」
基本的にはミシンを使用して、最後の仕上げのみ手縫いで行う。愛用する「クロバー」のぬいぐるみ針と、デニム用の20番の糸。
最後に、これからチャレンジしてみたい作品があるか尋ねてみた。
「これから作ってみたいのはおにんぎょうごっこをするときに着る人間用のパジャマ。お風呂に入った後、寝る前のベッドの上にぬいぐるみを並べて遊ぶのがいちばん好きなんです。だからそのときに着るパジャマがあったらもっと楽しくなるんじゃないかな? なんて考えてます」
完成できるのかを考える前に、アイデアが思い浮かんだらまずは手を動かしてみる。リボンちゃんの持つその精神が、きっとハンドメイドへの第一歩なのだろう。
text: Nozomi Hasegawa外部リンク
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