脱炭素を気軽に“自分事化”できる〈デカボスコア〉とは?
Hanako.tokyo / 2023年11月22日 16時0分
五月女 菜穂 フリーライター
朝日新聞社に入社し、約4年半記者として活動。退社後はフリーのライターに。演劇にまつわる記事を執筆するほか、ハナコラボパートナーとしてSDGs関連の取材も多く手がける。海外旅行が趣味で、旅した国は40カ国以上。
開始1年で、120社の210アイテムが採用
デカボスコアとは、商品やサービスの
排出CO2相当量の“削減率”を可視化したもの。
「実は今、私が着ているこのラッシュガード、海洋プラスチックからできているんですよ。で、『これでCO2が3キロ減るんです』と言われても、
正直よく分からないですよね? 3キロが多いのか少ないのか分かりませんよね?でも『28%CO2が削減されたんです』と言われると分かりやすい。その〈%オフ〉という示し方をしているのがデカボスコアです」と説明をしてくれたのは、〈Earth hacks〉代表取締役社長の関根澄人さん。
関根さんによれば、開始して1年でおよそ120社の210アイテムがデカボスコアを採用しているそう。取材時にいろいろと商品を見せてもらいました。
株式会社ovgoが手掛ける「インポッシブルチョコレートチップ」 (ヴィーガンクッキー)
例えば、〈ovgo〉の《インポッシブルチョコレートチップ》。これはこめ油、大麦ミルク、グラニュー糖、ブラウンシュガー、チョコチップを使ったヴィーガンクッキーで、バター、たまご、三温糖、ミルクチョコレートを用いた一般的なクッキーと比べると、
1つあたり製造工程におけるCO2は80%減っているといいます。
「これ、
とても美味しいクッキーなんです。ヴィーガンクッキーではあるのですが、ヴィーガンのためというわけではなく、もともとアレルギーを持っているお子さんが幼稚園や学校で別メニューになってしまうのは可哀想だから、誰でも楽しく一緒にその美味しさを共有しようというところから作られている。
アレルギーの子どもを救えるし、結果的に環境にもいいクッキーなんです」
そのほかにも、
3本の廃棄ペットボトルからつくられた傘《RE:PET》や、
紙製の容器に入ったリップ&ボディバーム《Earth Sense》、
漆と木のストロー《/suw》などがありました。
デカボスコアを採用しているアイテムの一例。
数字にインパクトがあれば、確かにそれが脱炭素へ向けた行動が変わるきっかけになりますが、「
それだけではない」と関根さんは言います。
「確かにセールで〈%オフ〉というのは
一つの大きな行動選択基準になると思うのですが、それと同時にやはり
モノがよくないと買わないですよね。食べ物でも『糖質%オフ』『カロリー%オフ』とあっても、そもそもそれが美味しいものでないとなかなか買わない。それと同じように『環境に良いことをしましょう!』というのではなく、
自分が着ているものや口にしているものが結果的にCO2削減という環境に良いことに繋がっていたら素敵じゃないですか」
ちなみにデカボスコアは、専門のパートナー企業と組んで、算出をしているそう。
「商品やサービスに必要な原料の採取から、使用、廃棄されるまで
全工程での環境負荷を定量的に示すLCA(Life Cycle Assessment)という考え方があります。LCAの中でも
CFP(Carbon Footprint of Products)という、ライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算し、商品やサービスに分かりやすく表示する仕組みを採用しています。CFPの算出が得意な企業は、
その商品やサービスの領域によって異なるので、その
マッチングや
コーディネートを僕らが担い、デカボスコアとして示しています」
「SDGs達成のために何かを我慢」はしたくない
デカボスコアに取り組む〈Earth hacks〉は、総合商社の〈
三井物産〉と広告代理店の〈博報堂〉が出資してできた合弁会社。立ち上げのきっかけは、〈
博報堂〉に所属していた関根さんが20年4月から3年間、「脱炭素」に取り組む〈三井物産〉のエネルギーソリューション本部に出向していたときのこと。
「エネルギーソリューション本部では、〈三井物産〉が注力している太陽光や蓄電池、水素といった
次世代エネルギーを扱う部署。僕はその中で、大きいインフラよりももう少し生活者に近い部分での新規事業を担っていました。さまざまな案件も手掛ける中で、改めて日本と欧米とを比較する機会が多かったのですが、テクノロジーやソリューションの違いのみならず、
生活者の意識やアクションの違いも大きいなと思ったんです」
〈Earth hacks〉のホームページでは、デカボスコア導入商品が紹介されています。
EV充電スタンドを整備しても、実際にEV車に乗る人は少なかったり、消費電力モニターを設置しても、半数以上の人が1回もモニターを見ていないという検証結果が出たり......。インフラの整備は確かに重要ではあるものの、脱炭素を推進していくためには、
生活者一人ひとりの意識の変化も必要だと痛感した関根さん。
「例えば欧米のスーパーでは、CO2排出量が牛肉だとこれぐらい、豚肉だとこれぐらい、大豆ミートだとこれぐらいというように
実数で表示していることがあります。ある程度、環境問題への理解が進んでいる証拠ですよね。でも日本でいきなりこれらの実数を突きつけても、
多くの人はよく分からない。
つまり、欧米のソリューションやツールをそのまま日本に持ってきても、
なかなか受け入れられないと思うんですね。〈博報堂〉の知見を生かして、
日本人でも“自分事化”できる形にクリエイティブおよびPRできるのではないかということで、2021年11月に〈Earth hacks〉をプロジェクトとして立ち上げました」
プロジェクトは2023年5月に法人化。現在は、関根さんを含め〈博報堂〉と〈三井物産〉の両社から2名ずつコアな出向者がおり、加えて両社から3名ずつのサポートメンバー、6名の学生インターンが参画しているそうです。
最後にSDGsに対する思いを聞くと、関根さんはこう語りました。
「サステナブルに何かを続けていくときに大事にしたいと思っているのは、やはり
一人ひとりの生活者。一人ひとりが笑顔溢れる未来を暮らし続けることこそが一番のサステナブルだと思っているので、『
SDGsのために何かを我慢しよう』とか『
これを守らなくてはいけないから、今楽しんでいるものを変えよう』といったアプローチはあまりしたくない。
日常生活の中で無意識にやっていることが、
実はすごく環境にいいことだったーーそれを“
見える化”することで、『
じゃあもっとやろうかな』と思えると思うんです。楽しいことを減らすのではなくて、今楽しいと思っていることを評価して、もっともっとそれをやってもらうことができれば。その
好循環で自然と笑顔も増えてくるし、無理なくSDGsが達成できると信じています」
Information
Earth hacks
https://co.earth-hacks.jp/
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