健全な自己愛は、ゆっくりでも必ず育ちます。ご自愛下手のアナタへ、精神科医Tomyがアドバイス
Hanako.tokyo / 2023年11月27日 19時0分
精神科医 Tomy
1978年生まれ。東海中学・東海高校を経て、名古屋大学医学部卒業。医師免許取得後、名古屋大学精神科医局入局。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医。39万フォロワー突破のX(旧ツイッター)が人気で、テレビ・ラジオなどマスコミ出演多数。著書『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』に始まる「1秒シリーズ」は、33万部突破のベストセラーとなり、『精神科医Tomyが教える 心の執着の手放し方』の小説シリーズも反響を呼ぶ。最新作は、『精神科医Tomyが教える 30代を悩まず生きる言葉』。
X:https://twitter.com/PdoctorTomy
「自分を愛する」とは「自分大好き!」なナルシストとはむしろ真逆
――最近よく耳にする「セルフラブ」や「ご自愛」といった言葉について、いまいちピンとこない人も多いようです。
いずれも、自分を大切にすること、自分を愛し、優しく接することを意味する言葉だと思うのですが、医学的には使わない言葉です。ただ、言っていることは至極真っ当な、昔から言われ続けていることだと思うんですよね。違和感や拒否感を覚えるのは、おそらくネーミングのチョイスや言葉の使われ方のせいではないでしょうか。例えば、
「ご自愛なさってください」という言葉は、本来、相手に対して使うもの。それを自分に対して使うと、ムズ痒いような気持ちになるのは、よくわかります。
あえて自分が違和感を感じるような言葉を使う必要はないですし、大事なのは、言葉の中身。こうした言葉が流行ることで、「自分を大切にする」「自分を好きになる」ということに意識が向くのは、悪いことではないと感じます。
――改めて、「自分を愛する」「自分を好きになる」とは、どういうことなんでしょうか?
自分を好きになるとは、簡単にいうと、
「自分軸を持つ」ということ。自分軸とは何かというと、
「自分の気持ちがわかっている」ことなんです。そうすると、何事も自分の納得できる選択ができるし、自分の人生を自分の足で歩いている感覚を得ることができる。これが、自己肯定感や自分を愛する気持ちにつながっています。
――「自分を愛する」というと、自分が大好きなナルシストのようなイメージもあります。
自分のヘアスタイルを鏡で何度もチェックしたり、SNSにたびたび自撮りをアップしたり、自慢話ばかり披露したり…そうした振る舞いをする
「ナルシスト」的な人は、一見「自分大好き!」に思われがちですが、むしろ自己愛が足りていない状態だと言えます。つねに他人から自分がどう見られるかを気にしてしまうのは、自分軸ではなく他人軸だからなんですね。
健全な自己愛というのはナルシストとはむしろ真逆であって、「自分はありのままで良い」と肯定できているから、他人にどう見られるかなんて気にならない。自分を好きかどうかなんてことも考える必要がないでしょう。
ところが、世の中では、ナルシスト的な自己愛と健全な自己愛のどちらも「自己愛」という言葉で片付けられてしまうので、誤解が生まれやすいのだと思います。
競争や比較ばかりの現代社会で、自分軸を持つには
――健全な自己愛を持てていない人は、何か原因があるのでしょうか?
これは簡単には解決しない問題なのですが、
その人が生まれ育った環境が、自己愛の持ち方に大きく影響するんです。私たちは、幼少期に可愛がられたり、「大事だよ」とギュッと抱きしめられたりして、「あるがままの自分を愛してくれる人がいるんだ」と、身も心も安心することで、健全な自己愛や自己肯定感を学びます。ところが、さまざまな事情でそうした愛情を受け取ることができない場合があります。
例えば、いわゆる毒親に育てられた子どもは、「いい成績を取らなければ自分は愛されない」「いい子でいないと愛されない」と学んでしまう。親に愛されたい一心で、いつしか自分の感情に蓋をするようになり、あるがままの自分の愛し方もわからなくなってしまうことがあります。こうした特別な事情でなく、普通の家庭で育った子どもであっても、親が共働きなどで、スキンシップやコミュニケーションが十分に取れていない場合には、うまく自己愛が育めないこともあるでしょう。
――共働き世帯がほとんどの現代社会では、多くの人が健全な自己愛を育めていない可能性がありそうですね。
そうかもしれません。さらに、
現代社会は競争社会ともいわれるように、つねに誰かと比較され、他人軸を強要される場面がとても多いと感じます。
学校で、職場で、知らぬ間に、他人軸を刷り込まれてしまうんです。特に、今の10代、20代は、子どもの頃からSNSが身近にあり、人にどう見られるかを意識することが当たり前になっています。フォロワーが何人いるか、どれだけ共感を得られているか、他人と比較しては一喜一憂してしまうという人は珍しくありませんが、それは、健全な自己愛を育めていない証拠です。
――幼少期にうまく自己愛を育めなかった人は、健全な自己愛を持つことは難しいのでしょうか?
そんなことはありませんのでご安心を。ただ、少し時間がかかるかもしれません。
健全な自己愛が持てていない人は、自分の感情がよくわからなくなっています。決して感情がなくなってしまったわけでなく、自分が気づいてないだけ。だからまず、これまで蓋をしてきてしまった自分の感情や気持ちに、ゆっくり気づいていく練習をすることが大切です。
今日からできる、Tomy流自分を好きになるためのレッスン
自分の感情に気づき、健全な自己愛を育んでいくためには、どんなことから始めるのがよいでしょうか?
自分の好き・嫌いを知る
まずは、自分の好き嫌いを知ることが大切なステップになります。コンビニで何か買うとき、昼食を決めるとき、「どちらかといえばこっちが好きかな…」というレベルでも構いません。小さいことから練習していきましょう。その次は「私はこれが好き」と、自分の意見を誰かに伝えてみましょう。そこまできたら、人と議論だってできるようになります。
自分の好き嫌いを意識するようになると、自分の感情や気持ちに敏感になっていきます。「今、私はこれを嫌だと感じているな」とか「今、すごく嬉しいな」と、感じている自分を素直に受け止められるようになれば、自分軸で物事を考えられるようになるはずです。
趣味や癒しを見つける
自分の好き嫌いを集めてくる過程で、自分にとってご褒美になるようなものや、自分を癒すような選択肢もたくさんわかってきます。例えば、甘いものを食べるとか、マッサージに行くとか、温泉に行くとか…。疲れたときや落ち込んだときには、それを使って気持ちを切り替えることができる。自分の感情に気づくことは、自分を大切にすることにつながります。
自分の気持ちを書き出してみるのも
これまで自分の感情に蓋をして、気づかないふりをしてきた人の中には、自分が何か感じていてもそれをうまく言葉にできない場合もあるでしょう。そういうときは、今頭に浮かんだことをとにかくノートに書き出すのもいいと思います。自分の気持ちを言語化する練習になるはずです。
クヨクヨするのは、頭がお暇になっている証拠
――それでもなかなか自分を好きになれずに、落ち込んでしまう日もあると思います。どうしたらいいでしょうか?
そもそも、自分を好きにならなくてもいいんです。健全な自己愛というのは、あるがままの自分を受け止めることなので、「今、私は自分のことが好きじゃないんだ」と、わかってさえいればそれで十分。そんなこと言ったって、「自分を好きじゃないことがつらいんだ」ということなら、どんなときに自分を好きじゃないかを考えるといいと思います。突き詰めていくと、「疲れているときかもしれない」「あの友だちに会ったときだな」と、わかってきますから。そうしたら「お茶を飲んでリラックスしよう」とか「あの友だちに会うのはやめよう」と、対処法が考えられるようになります。
――なるほど。クヨクヨ悩まず、対処法を考えていけばいいんですね。
ネガティブになっているときは、だいたい
“頭がお暇になっている”んです。だって、ディズニーランドで友だちと遊んでるときに、「私、自分のこと好きじゃない…」なんて絶対考えないでしょう。それは、今、遊んでいることにすごく集中してるから。つまり、頭がお暇になっているときは、目の前のことに集中できていないということなんです。そんなときは、環境や行動を変えてみるのがおすすめ。例えば、今やっている作業内容を変えてみるとか、別の部屋や場所に移るとか、そんなことでも頭と気持ちは切り替わります。
もっと長期的に考えるなら、自分にタイムリミットを設けてみるのも一つの手。例えば、余命があと1年だと言われたら、頭をお暇になんかしていられないはず。後悔しないように、今、目の前のことに全力で取り組みますよね。
健全な自己愛は、ゆっくりでも必ず育ちます。焦らないでいいので、小さなステップを踏みながら、ありのままの自分を受け止められるようになっていけたらいいですね。そうすればきっと、今よりずっと穏やかに生きられるようになるはずです。
精神科医Tomy『精神科医Tomyが教える 30代を悩まず生きる言葉』/2023年12月14日発売/1,540円(税込)
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