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蛙亭イワクラ「芸人の世界は水が綺麗で泳ぎやすかった」 | 連載【即断すぎて周りがとめる】 vol.1

Hanako.tokyo / 2023年12月25日 20時0分

蛙亭イワクラ「芸人の世界は水が綺麗で泳ぎやすかった」 | 連載【即断すぎて周りがとめる】 vol.1

蛙亭イワクラ

お笑い芸人/NSC大阪校34期出身。同期の中野周平との男女コンビ、蛙亭を2012年に結成。キングオブコント2021、2023ファイナリスト。 
インスタグラム

小学生のときお笑いを見て、「何してもいいんだ」と解放されたんです。

 最近、学園祭やショッピングモールの営業なんかに行ったりすると、「イワクラさ〜ん!」ってみんなすごく手をふってくれたり、飛び跳ねながらしゃべりかけてきてくれるんです。「かわいい〜!お肌きれい〜!何使ってるんですか?」って。学生さんも子どもたちも、ほんとにみんな、めっちゃ明るい。屈託がないというか、無邪気というか、天真爛漫というか。だから、若い人たちとしゃべったりするのはうれしいし、楽しいし、元気をもらえるなっていつも思うんです。もしかすると、これが年を取ったということなのか!って、ちょっと焦ったりもするんですが。
 自分の若いころを思い出してみると、こんなふうにキャピキャピしてなかったし、できなかった。例えば、イベントで有名人と接する機会があったとしても、「おお……」と後ずさりをしてしまうから気軽に話しかけたりなんて絶対にできないし、キャー!とかイエーッ!みたいな掛け声すらかけられない。内心はめっちゃ喜んでるのに、その感情をストレートに表に出すことができないんです。要するに、「暗い」んですよ。いつもクラスの隅っこにいましたから。
 幼いころからそうでした。「自分はダメだな」って。妹が1人いるんですが、すごくかわいいんです。いつでもどこでも誰からも「かわいいね」って言われるほど。でも、姉のわたしには誰も目をくれない。「そうか、わたしはかわいくないから相手にされないんだ」。いつのころからか、そんなふうに思うようになり、それでどんどん卑屈になっていったんです。なぜわたしは生きているのか、生きてる意味なんてないんじゃないか、そんなことまで考えるようになって。
 お笑いを知ったのは小学生のとき。テレビで観た吉本新喜劇が最初でした。そして、3年生のときに、大阪の〈なんばグランド花月〉へ寄席を観に行き、舞台に立つ芸人さんたちに衝撃を受けました。「こんなに大勢のお客さんを笑わせるこの人たちは凄い!わたしもなりたい!」と。そしてその日のうちに「将来は吉本に入る!」と決めたんです。暗い自分を変えたいとか明るくなりたいとか人気者になりたいとか、そういうことではなく、ただただ「この世界に飛び込みたい」と。
 それからは、いろんなお笑い番組を観るようになり、コントが大好きになりました。とはいえ、わたしはずっと暗いまんま。幼なじみのメグちゃんとシュンゲと一緒にお笑いの話で盛り上がるだけで、人前に出て何かをするわけでもなく、相変わらず隅っこにいるだけ。高校生ぐらいになると、世間というものがわかってきますから、そもそも宮崎の田舎に住んでるんだからお笑い芸人を目指すなんて土台無理な話だよな、って。でも、それでもなりたい!と強く思うようになったのは、松本人志さんの番組を観たときでした。悲しいことがあって泣きながらテレビをつけたらやってたんです、『すべらない話』を。そして、イヤなことやつらいことを全部笑いに変えて「面白い話」にしてしまう芸人さんたちに心が救われました。苦い経験やグツグツとした卑屈な思いを笑いの肥やしにしてしまう、この世界にこそわたしの居場所があるはずだと。
 ここはわたしのヘンな部分を面白がってくれるヘンな世界。舞台に立つようになって2年目のころに実感したんです。やっぱりここだとわたしはちゃんと息ができる。水が綺麗で泳ぎやすいぞ、って。先輩も同期の仲間も周りはみんな芸人だから、一般社会だと「キモい」と避けられイジメの対象になってしまうようなわたしのことを丸ごと肯定してくれるんです。「お前、むっちゃヤバいヤツやな」ってツッコミながら笑いに変えて。そして、33年の自分の人生を振り返り、さまざまな分岐点に差しかかったときに私が選んできた道は間違ってなかったと改めて思うんです。すべてはここにたどり着くため。「過去の自分、ナイス!」って。

「シュンゲ、メグちゃん、いつも3人でつるんでいた」という小学生のイワクラさん。「"テツandトモ"さん、"ですよ。"さんのステージを観ました。テレビに出てる人が目の前にいて嬉しくて。今、自分が出ている立場になったことを考えると不思議だし、ちょっと責任も感じます(笑)」

illustration_Shuhei Nakano(kaerutei) text_Izumi Karashima

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