わたしたちの無加工な「独立」の話 #4 me and you 編集者・竹中万季さんと野村由芽さん
Hanako.tokyo / 2023年12月26日 20時0分
竹中万季
1988年生まれ、編集者。2017年に「She is」を野村由芽と共に立ち上げ、2021年に野村と独立し「me and you」を設立。『わたしとあなた 小さな光のための対話集』や『me and youの日記文通』の出版や、ウェブマガジン・コミュニティ「me and you little magazine & club」を運営するほか、J-WAVE「わたしたちのスリープオーバー」のナビゲーターを務める。
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編集者。2021年に「me and you」を竹中万季と立ち上げる。メディア・コミュニティ「me and you little magazine & club」の運営や、J-WAVE Podcast 「わたしたちのスリープオーバー」のナビゲーターを務める。現代を生きるさまざまな「個人」の声に耳を傾け、個人と個人の対話を出発点に、遠くの誰かにまで想像や語りを広げる活動を行う。
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同僚同士で会社をつくってみて
─me and youを2021年の4月に立ち上げてから2年半ほど経って、いまあらためてどのようなことを感じていますか。
竹中:会社をつくるときも誰かが教えてくれるわけではないから、まずはググったり、「会社のつくり方」みたいな本を読むところから始めたんですけど、
実際に会社を立ち上げてやっていくことは、美しく楽しい、いわゆる「自己実現」的なイメージとはかけ離れている部分もあって。
資金繰りとか税金とか、書類のフォーマットが変わるとか、自分で情報を取りにいかないと誰も教えてくれないし、電話が苦手だから、毎日紙に「明日こそ税務署に電話する」って書いていたこともあります(笑)。一応できるけど得意ではないことや、好きな作業ではないことだったとしても 、 どこかで「えい」ってやらないといけない場面も間違いなくあります。組織をつくっている人たちは、みんなそうやっていろんな判断をしてきたんだろうなと、独立してみて感じます。
野村:人との関係性も企業にいたときとは変わってきている部分があるし、自分にどんなことができるのか、ずっと手探りしている感覚がありますね。何もかも自由にできるわけじゃないけれど、どうやってやっていくかという方法や仕組み自体を話しながら決めていくことができるのは、やりがいがあることのように感じます。
「She is」(※)が更新停止したあとも、
自分たちが考えたり感じたり話し続けたりするための場所を、よりどころとしてずっと続けていきたい気持ちがあって、その思いを実現するために会社をつくるという方法が必要だったんです。だから会社としても、やみくもに大きくすることを目指しているというよりは、何が自分たちにとっていい会社の形なのかを考えながらやっています。
─そういうビジョンについては、よく2人で話し合うんですか。
竹中:me and youの活動は仕事ではあるけれど、自分たちや大切な人たち、もっと遠くにいる人たちの生活に関わることをやっているつもりだから、そういう意味で仕事と生きることが切り離せないと感じます。なので、自分たち自身の生活の話や、日常の違和感、今世界で起きていることについては仕事とは関係なくよく話していますね。編集者として、素晴らしい活動を行っている個人や団体の方を結び付けられるような仕事をしているので、組織としてもアメーバのように流動的でありたいし、常に拡大していく必要は必ずしもないように感じていて。
こういう会社が世の中にあってもいいだろうと思えるようなあり方を考えています。
野村:ただ、自分たちの活動は「わかる人にだけわかればいい」とは思っていなくて。me and youが大切にしたいと思っている、
個人と個人が小さな主語で話すことや、人が属性などによって決めつけられることなく生きていくことって、一部の人だけが実現できればいいわけではないと思うんです。自分たちが食べていければいいのであれば、全然違うやり方もあったと思うけれど、なぜメディアをつくったのかというと、そういうことを1人でも多くの人たちと一緒に考えて、触れ合いたいからで。
「me and you little magazine」の「リトル」も、「小さなメディア」というよりは、
自分や社会の中にある言えてなかったこと、語られてなかったこと、聞こえにくかったものという意味合いを込めています。だから、自分たちなりに成長はしたいと思っています。何より成長を優先して他のことを度外視するようなやり方ではなく、
人を大事にしながら、なるべく一緒に考えたり感じたりしていく人たちを増やしたり、出会っていく方法を自分たちなりに探っていきたいです。
竹中:確かに。仕事の中で「届けるべき人に届けたい」とよく話しているけれど、本当なら届けるべき人がたくさんいるはずなのに、まだ届けられていなかったとしたら、もっと自分たちにできることがあるかもしれなくて。そういう意味では私たちが成長していったら、もっと広く届けられるかもしれない。自分たちはたまたま広告やメディアの仕事をしてきた経歴があるので、届けるべき声があるけれどもなかなか届かないときに、
間に入って、いい形でそれを届けていく方法を考えられる立場ではあるのかなと思います。
野村:何かを届けたり、伝えたりすることに関わる仕事をしたいと、2人とも10代の頃から思っていたので、
me and youの「and」にあたるような、間に立って考えて届けることを、これまでもこれからもずっとやっていくのかなと思います。そういう意味では、いまme and youがやっているように、メディアでの発信とクライアントワークという両方の幅を持っていることが、もしかしたら大事なのかもしれなくて。そのときに一番いい形を選ぶというやり方が、いまの自分には多分合っているんだと思います。
「人が2人いることで2人以上の広がりが生まれる気がする」
─独立してから仕事の仕方に変化を感じるところはありますか?
野村:表に見える部分だけじゃなく、関わってくれる人たちとのコミュニケーションのなかで、どうやって思いを共有していくかについて、以前よりも考えるようになった気がします。
「個人を大事に」と思いながらも、つい忙しさに呑まれて、やり取りの中で大事にできていなかったことの反省もあって、「そういうことをしたくないね」というのは、独立してから二人で話したことがあります。
いまはそう思ったときに、立ち止まったり、仕組みから変えていくことができるようにはなりました。だけど同時に、立ち止まることって、忙しいとき特有の疾走感や陶酔感みたいなものがなくなる分、勢いが削がれるので、それはそれで悩むんですよね。発信の仕方も以前とは変えていて、「それでいい」という気持ちと、「ちゃんと伝わっているかな」と思う部分があって。
─仕事のスピード感も含め、すべてを自分たちで決めている分、言い訳ができない苦しさも裏腹にあったりはしませんか?
竹中:そこは2人で立ち上げて本当によかったなと思う部分です。個々にジャッジするタイミングもあるし、もちろん責任は大きいけれど、
ほとんどすべてのことについて共有して決めているので、気持ちの面で分散できています。お互いが見ているものや感じ方が違うので、どちらかがすごく悩んでいることが、一方にとってはちょっとしたことだったりするから、相談したら一瞬で解決するときもあって。
1人の価値観や判断基準にすべてが委ねられると、難しいシチュエーションもあると思うんです。
野村:
人が2人いることで2人以上の広がりが生まれる気がするのは、多分そこに対話が生まれるからなんですよね。それぞれが考えていたことにプラスして、2人で考えたことが生まれるから、視野がすごく広がります。自分が思っていることを話したり、相手がそれに何か言ってくれることは、me and youの活動の中でも大事にしたいことだし、それが二人の間でできていることは、会社を経営するうえでもいい状態なのかなと思います。
あと万季ちゃんと一緒だったら、何とかなるだろうという感覚もありますね。
竹中:
それなりの無鉄砲さと、それなりのリスクヘッジの両立をme and youになってからはより一層大切にしている気がしていて。もちろん自分たちがやりたいことを少しずつでも実現したいから、本を出版するなどいろんなチャレンジをしているけど、限られた時間の中でいろんなバランスを見ながら、何をやるか、それをいまやるべきなのかというジャッジは、独立してからの方が、よりシビアになりました。
体力的にも、やりたいことを勢いだけで全部やっていくことが現実的にできなくなっているなかで、自分がいま持っているものをどう使っていくといいのかを考えるようになりました。何かをやりたいというアイディアが浮かんだときに、自分たちがやるという方法だけでなく、すでにやっている人、やろうとしている人たちのサポートをするなど、いろんなやり方があるはず。自分は
何ができるのか、逆に何を手放すべきかについて、よく考えます。
野村:まだまだ自分たちがやるべきことはたくさんあると思っているし、いまの時点でそこまで考えなくてもいいのかもしれないけれど、ずっと全部を自分で持っていることは無理なんですよね。もちろんいまだって何もかも自分たちだけでやっているわけではまったくないのですが、例えば、いろいろな世代の人たちや、自分たちがやってきたこととはまた違った形をとる人たちと、それぞれの持っているものを共有していったり、自分たちが持っているものを手渡していったりすることがきっともっと必要だという気持ちは増してきているし、大事なことだと思うようになっています。
※She isは「自分らしく生きる女性を祝福するライフ&カルチャーコミュニティ」として2017年に立ち上げられた。
text_Yuri Matsui photo_Mikako Kozai edit_Kei Kawaura外部リンク
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