もう相手の好みは考えず、自分が本当に美味しいと思うものを贈る。|前田エマの、日々のモノ選び。#2
Hanako.tokyo / 2024年2月5日 19時30分
30代という年齢は、“モノを選ぶ眼”が育ち養われてくる年齢ではないだろうか?流行りものやブランドものではなく、自分が心地いいモノを選びたい。生産の背景を知り好きになるモノだったり、多少値が張っても人生をかけて大切にしたいと思えるモノだったり…。そういった視点でモノを選ぶ前田エマさんが、ご自身の私物とともに「モノの選び方」について綴る連載です。第2回目は、贈り物について。
今日は私が、友人やお世話になっている人に、よく贈るお菓子の話をしたいと思うのだが、まず大前提として、
私は他人を思いやるのが苦手である。
私が人生でいちばん大切にしていることは、いかに自分がご機嫌に生きるかということだ。
幼い頃は、それが“わがまま”という形で現れ、ものすごく性格が悪かったのだが、思春期の頃にやっとわかったことがある。
それは、自分がご機嫌でいるためには、周りに居てくれる人たちもご機嫌でなくてはならないという、ものすごく当たり前のことだった。
うれしいことがあったときに話を聞いてほしい人。美しいものを一緒に見たいと思う人。悲しいことがあったときに隣にいてほしい人。尊敬でき学ばせてもらいたいと思う人。美味しいものをおいしいねと言い合える人。
そういう人が、私をご機嫌にしてくれているのだと、その歳になってやっと気付いた。
ああ、恥ずかしい…。
しかしそれがわかったところで、誰かをご機嫌にするのが上手くなるわけではない。
私の場合、価値観が他人とズレていることが多いので、良かれと思ってやったことが、裏目に出てしまうこともある。
おそらく、贈り物選びも似たようなことだと思う。
数年前までは、相手の趣味だとか生活だとか色々考えて選んでいたのだが、最近はもう相手の好みや気持ちなんか考えずに、自分が本当に美味しいと思うものを贈ることにした。
〈ダモンテ商会〉のバスクで学んだチーズケーキ
ひとつ目は〈ダモンテ商会〉のバスクチーズケーキ。
小麦粉を使わず、たっぷりのクリームチーズを使っている。短時間、高温で焼き上げるため、とろっとろなのだ。
表面が茶色く焦げていて、最初は少しびっくりしたけれど、この苦味がクセになる。
大人から子どもまで、みんながニヤニヤしておかわりしてしまう、そんな
とっておきの秘密にしたいケーキだ。
〈ダモンテ商会〉は、瀬戸内海に浮かぶ、自然豊かな小さな島“男木島”に暮らす、ダモンテさん家族が営む飲食店だ。
〈ダモンテ商会〉の店主でありペストリーシェフ、妻の祐子さん。ベイカーでイノシシ猟もこなす、元考古学研究員の夫・海笑さん。
おふたりはこの店を始める前に、“美味しい”を探して1年ほど世界中を旅していた。
そのときに訪れたバスク地方のサンセバスチャンには、星つきのレストランから、ワイン一杯とちょっとしたアペタイザーで何件もハシゴできる店まで、いろんな“美味しい”があったそう。
その中のひとつ「ラ・ビーニャ」という店がとても気に入り、毎日のように通ったそうで、滞在最後の日にレシピを教えてもらったのが、このチーズケーキ。なので名前が「バスクで学んだチーズケーキ」なのである。
※「ラ・ビーニャ」のチーズケーキは小麦粉を使っている
私はこの家族が大好きで、何度かお家に滞在させてもらったことがある。畑の手入れ、鶏の世話(チーズケーキに使われているのはこの平飼い卵だ)、子どもたちの見守り係(と言っても、私が遊んでもらっている感じ)、店の手伝い、イノシシ猟のお供、もちろん料理も含めて本当にいろんな体験をさせてもらった。
自分らしく、一生懸命に心地よく働き生きていくこととは何なのか。
きれいごとなんかじゃなく、汗水たらしながら体当たりで挑んでいくこの家族から、私はいつも元気とやる気をもらう。
住所:香川県高松市男木町1916
info@damonte.co
HP / Instagram
ノーレーズンサンドイッチ
もうひとつは「ノーレーズンサンドイッチ」だ。
リボンでおめかしされた箱を開けると、ずらっと並ぶ美しい断面。
気持ちが一瞬で、高揚する。
2種類のサンド菓子が入っている。
ひとつはレーズン。
もうひとつは、季節によって変わる果実。
洋梨、レモン、甘夏、苺、柚子、いちじく、アプリコットやパイナップル…。
レーズンも、それ以外の果実も、ジューシーなのにくどくない。
丁寧に味わいながら食べたいのに、次のひとつにすぐに手が伸びてしまう。
スパイスの効いた香ばしくサクサクしたサブレと、爽やかなクリームのコンビネーションが、絶妙なのだと思う。
ディレクターを務める平野紗季子は大学時代からの友人なのだが、彼女と出かけたり会話をするたびに、毎回驚きがある。
いつだったか「エマちゃんは嫌いな食べ物ある?」と聞かれ、私は自信満々に「ない!何でも食べられる!」と答えた。
あのとき、「私はレーズンが嫌いなんだ」と言った彼女の一言。
それまで「嫌いなものがない」ことが正義だと勘違いしていた私は、嫌いなものがあるからこそ見える世界について語る彼女の話に、ただただびっくりした。
そして私のそれまでの考え方は、食べ物に限らず、誰かを排除してしまうような、とても貧相なものだったと反省した。
まさかあの話をした数年後に、レーズンが嫌いな人も好きな人も楽しめるノーレーズンサンドの会社を作ってしまうとは…。
ノーレーズンサンドイッチの工場ができる前、カフェのキッチンの片隅で作っていた頃も、工場ができ会社になった後も、私は少しお手伝いしたことがある。
こいつ何様だと思われても仕方ないのだが、作り手のみなさんが様々な思いや人生を持ちながら、ひとつひとつ丁寧に手作業で作っている姿を見ているため、
自信を持って人に贈ることができるお菓子なのだ。
今回紹介したバスクチーズケーキは冷蔵配送、ノーレーズンサンドイッチは冷凍配送でいずれも全国に配達可能だ。
ちなみに写真にちょこっと写っている猫のシュガーポットも、私が時々友人に贈るもののひとつである。
(NO) RAISIN SANDWICH6個入り 2,900円(税込)
HP / Instagram
![前田エマの、日々のモノ選び。#2 猫のシュガーポット](https://img.hanako.tokyo/2024/02/05125443/1-2-300x300.jpg)
1992年神奈川県生まれ。東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーの留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。アート、映画、本にまつわるエッセイを雑誌やWEBで寄稿している。2022年、初の小説集『動物になる日』(ミシマ社)を上梓。
Instagram
@labelletude_official labelleetude_info@auntierosa.com
透けストライプニット PNK \7,700 (LA BELLE ETUDE/ラベルエチュード)
@labelletude_official labelleetude_info@auntierosa.com
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