わたしたちの無加工な「独立」の話 #5 タレントエージェンシーPUMP management 代表・加藤メイさん
Hanako.tokyo / 2024年2月9日 17時0分
どのように働くかを考えるとき、選択肢の一つとなるフリーランスや起業などの「独立」という働き方。では、実際に独立して働いている人たちは、どのようにその働き方を選び、「働くこと」に向き合っているのでしょうか。さまざまな状況のなかで「独立」という働き方を〈現時点で〉選んでいる人のそれぞれの歩みについてお話を伺っていきます。
「まだ見たことのない美、感じたことのない感動を探求」することを掲げるタレントエージェンシー、PUMP management代表の加藤メイさんが、事務所を運営するなかで、自身や所属タレントが共に健やかな状態でいられる環境をどのようにつくっているか、その試行錯誤を教えてくれました。
PUMP management 代表
タレント事務所、PUMP managementの代表を務める。カナダでヘアメイクの学校に通った後、フィリピンでレコードレーベルの立ち上げに携わる。ヴィジュアル作成やアーティストの体づくり、ヘアメイクの仕事を経験する。帰国後、外国人・招聘モデルを多く抱えるモデル事務所でマネージャー業兼スカウティングの業務を担当。コロナ禍を経て独立し、PUMP managementを立ち上げる。
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インティマシーコーディネーターやドラァグクイーンの方を招いてのワークショップを、タレント事務所が取り入れるわけ
加藤:以前にこの連載でインティマシーコーディネーターの浅田(智穂)さん(#3)に取材されていましたよね? 浅田さんではない方ですけど、資格を持つインティマシーコーディネーターの知り合いがいて、うちでワークショップをやってもらったことがあって。
─ワークショップというのは?
加藤:
所属タレントの子たちが、現場で嫌だと感じることがあったときに、「仕事が取れるなら」「当たり前だから」と我慢してほしくなくて。逆にタレントにもハラスメントになるような行為をしてほしくないので、事務所に来てお話をしていただいたんです。
─タレントの方が働く環境をヘルシーにするために大切な試みだと思うのですが、そのほかにも行っていることはありますか?
加藤:
ドラァグクイーンの方を招いてセクシュアルマイノリティについて学ぶワークショップを行ったり、環境問題についての活動を行うNGOの方のオンライン授業をタレントとスタッフみんなで受けたりもしています。表に出る仕事をしている以上、「知りません」では説得力がないと思うんです。所属している子たちには、
世の中で起きていることについて基本的な情報を知ったうえで、自分の答えや考えを持っていてほしいと思っています。
歌手、ヘアメイク、スカウトの仕事…起業するまでに経験した幅広い仕事
─会社を立ち上げるまでの加藤さんのキャリアについて伺えますか?
加藤:もともと表に出る仕事をしたくて、10代後半の頃はクラブで歌ったりしていて。短大卒業後にカナダの音楽学校に行ったんです。そこで歌を仕事にすることの壁にぶち当たったんですけど、メイクをすることもすごく好きで。ビヨンセを崇拝していたので、「ヘアメイクってビヨンセとかアイコンをつくる仕事だ!」と気づいたら、裏方の仕事ってマジックみたいだなって。それで、カナダでメイクの学校に行ったんです。
─裏方の仕事の魅力を発見したんですね。
加藤:そうこうするうちに、もともと通っていた音楽学校の校長先生がフィリピンにレコードレーベルをつくるからと誘われて、イメージデパートメント担当としてフィリピンに行って。ヘアメイク以外にもアーティストの卵の子たちの写真撮影や、スタイリング、ウォーキングのレッスンまで、自己流でやっていました。それから東京に戻ってきて、ヘアメイクの仕事をしていたら、海外からショーや広告のためにモデルを招聘するエージェンシーの方と知り合って、そこでスカウトの仕事をすることになりました。
─そこでの仕事はどうでしたか?
加藤:
私、自分が無心に一生懸命になれることがほしいと、本当にずっと思っていたんです。会社に入ってからは水を得た魚のようで。スカウトした子が雑誌のカバーに起用されたりすると嬉しかったし、
自分がやりたかったのは、こうやってイメージを提案する仕事なんだとあらためて気づいて、天職だと思いました。
─独立しようと思ったのはなぜですか?
加藤:モデルを探すなかで、私自身が超かっこいいと思う子がいても、仕事としては別の基準が求められます。そういう子たちを自分なりの提案の仕方で表に出すには、独立するというのが自然なかたちでした。業界で求められるサイズやイメージなどの基準には当てはまらない個性を持つ子たちを打ち出すには、日本の東京という場所はベストだと思ったし、前の会社の社長も背中を押してくれました。
PUMPに入りたいと思ってくれた子たちが魅力を感じていたのは、私のわくわくする気持ちがあったから
─実際に独立してみてどうですか?
加藤:最初はPUMPのブランドを作り上げるのに必死でエゴを出しすぎてしまって、数年やってみて、それじゃだめなんだなと思いました。自分らしくいれそうだと思ってうちの事務所に入ってくれたのに、タレントに「PUMPらしさ」を押しつけすぎていたのかもしれません。アウトプットの仕方に気を付けないと、立場的に裸の王様になってしまう。そのことにタレントやスタッフの子たちが気づかせてくれました。
ただ、
PUMPに入りたいと思ってくれた子たちが魅力を感じていたのは、私のわくわくする気持ちがあったからだとも思うんです。それに、自分らしくアウトプットできないと、私の魂が死んでいってしまう。だからいまは、数年かけて学んできたタレントとの向き合い方を踏まえて、みんなと自分のために、どんなふうに会社を運営していこうかなというフェーズです。
─いま、働き方としてはご自身に合っていますか?
加藤:人をまとめたり、誰かを雇うことは初めてなので、本来の性格とはちょっと違うモードにならなくちゃいけない部分もあって。社長や責任者という立場に気持ちが追いつかなくて、体調を崩したこともありましたね。いまはようやく社長としての自分と本来の自分がマッチしてきて、穏やかでいられます。
─度合いにもよると思うんですけど、働くなかでは「社会人プレイ」というか、本来の自分とちょっと違う振る舞いを、仕事上の役割としてすることってありますよね。
加藤:きっと最初はみんなそうですよね。「立場上こうあるべき」という考えで、自分を追い詰めて無理になって、「こういうやり方は向いてないんだ」って気づいたりして。そうしていくうちに、いまの自分の仕事の仕方ができあがってきたんだなと思います。
text_Yuri Matsui photo_Mikako Kozai edit_Kei Kawaura外部リンク
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