食体験からその人の魅力を紐解く。コメディアン・藤井 隆の〈味の履歴書〉
Hanako.tokyo / 2024年4月19日 12時0分
その人の食体験を知れば、その人の魅力がもっと見える。藤井 隆さんの〈味の履歴書〉を紹介します。
恵まれた食の環境はすべて、家族と先輩が用意してくれた。
「やったー!」と思って食べないと料理に申し訳ないじゃないですかと話す藤井さん。そんな食への誠実な姿勢を培ってくれたのは?
「グルメなイメージがありますか!?なんだかありがたいんですが、お店や料理に特に詳しいわけではないですし、食いしん坊だ、という程度です。おいしいものを食べるのは大好きですけど嫌いな人はいないでしょうし、自分で唯一グルメっぽいかなと思えるのは、食べ方がきれいだと誉められることくらいで、食に関してはむしろ、これまでホントに恵まれてきたと思っているんです」
そう謙虚に語る藤井隆さんだが、食に恵まれてきたということは、その分おいしい記憶にも恵まれているはず。今回は彼がMCを務める人気番組『おいしい記憶きかせてください』(BSフジ)のゲストになったつもりで、これまでの恵まれた食の記憶を語っていただこう。
風に舞う桜の下で食べた茶色い玉子焼きのようなもの。
「うちの母はとにかく料理好きな人で、仕事をしていたので手の込んだ料理こそあまりしませんでしたが、三度の食事以外にもおやつにドーナツを揚げてくれたり、栄養バランスを考えたおいしい料理をいつも作ってくれました。友だちもそんな母の料理を目当てに遊びに来てたくらい。そして母が出かけた日には、今度は父がチャチャッと料理をしてくれて、それがまたおいしかった。家にはいつも果物があったし食器もかわいい物が揃っていて、両親は食べることをとても大切にしてくれていたんだと思います」
料理上手な母と、厨房に立つことを厭わない父、年の離れた兄も料理ができた。そんな家庭の末っ子として育った隆少年が料理に興味を持つようになるのは、ごく自然な成り行きだった。
「あれはたしか小学校1年生の春。独りで留守番をしていたら近所の公園の桜がきれいに咲いていたので、お弁当を作ってお花見をしようと思い立ったんです。その年からガスコンロを使うことを許してもらっていて、それまでも母の料理の手伝いはよくしていたんですが、独りで料理するのは初めてでした。大好きな玉子焼きを作ろうと思って、でも子供心に味つけを工夫して焼き肉のタレを入れたら茶色くなっちゃうし、形も崩れて玉子焼きのはずが炒り玉子みたいになっちゃって(笑)」
それでもご飯とその茶色い玉子焼きもどきを弁当箱に詰めて、隆少年は公園に向かった。細長い形の狭い公園だったけれど、真ん中に滑り台があり両脇には満開の桜がずらりと並ぶ。
「滑り台の天辺に座って膝の上に弁当箱を広げ、桜を見ながら茶色い玉子焼きを食べました。自分で作ったので、やはりなんだかすごく誇らしくて、滑り台の上から眺めた景色は今でもはっきり覚えています」
初めてのおつかいならぬ、初めてのお弁当作りが藤井さんの最初のおいしい記憶だった。今でも玉子焼きはもちろん、餃子やカレーなどはお手のもの。また実家でいつも果物が食べられたおかげか、フルーツは藤井さんの大好物の一つだ。食に恵まれ料理に親しんだ少年時代の記憶は、今も藤井さんにしっかりと刻み込まれている。
「ちなみに最近のお気に入りはメロゴールド(*1)。これがメチャメチャ瑞々しくておいしい。ただ皮をむくのが難しくて、すぐに内側の房が破れてジュースが勢いよくあふれちゃう。どなたか上手なむき方をご存じだったら教えてください(笑)」
1978 いつも果物がある家庭に育つ。フルーツ好きは両親譲り。
父の実家の岡山から、母の実家の高知から、旬の果物がいろいろ送られてきた。隆少年は「隆んちにはいつも果物があっていいな」と友だちに言われて初めて気づいたという。
カリフォルニア原産の柑橘類。グレープフルーツと文旦を掛け合わせたスウィーティーに、さらにホワイトグレープフルーツを掛け合わせて生まれた。1986年に発表され、日本に入ってきたのは2000年頃。
先輩が教えてくれた忘れられない外食の記憶。
1992年、20歳で吉本新喜劇の劇団員として芸能生活をスタートさせた藤井さんは、持ち前の末っ子キャラで吉本の先輩たちから可愛がられた。
「朝、楽屋で先輩が近くの喫茶店から出前を取るんですが、一緒に僕の分も取ってくれました。昼で好きだったのが〈しき浪〉(*2)という洋食屋さんの出前。みんなでシェアして、初めて同じ釜の飯を食う感覚を味わわせてもらったり。そして仕事が終わると毎晩のように先輩がなんばのおいしいお店に連れてってくれて。ホントにお世話になりっぱなし。一軒挙げるなら、チャーリー浜さんがご贔屓にしていた千日前の〈味楽〉という焼肉屋さん。韓国人のお父さんとお母さんがやっていた家庭的なお店ですが、ここのハラミがサイコーで。大阪のおいしいお店を尋ねられると必ず紹介してました。でも残念なことに閉店しちゃって、閉店前にご連絡もいただいたんですけど、仕事の都合でどうしても行けなくて。それが今も心残りです」
1992 なんばの食い倒れ文化を存分に味わった修業時代。
なんばグランド花月に通うようになると、朝昼晩三食すべて会社や先輩が用意してくれた。給料は安かったが使わないので、お金が貯まったほどだった。
吉本のなんばグランド花月のほど近くで、50年以上続いた洋食店。人気メニューはジューシー&フワフワのハンバーグ。劇場への出前はもちろん、吉本の芸人さんもしばしばお店に足を運んでいた。2013年7月閉店。
そんな大阪での食い倒れ修業時代を経て、藤井さんは1990年代半ばから活動の中心を東京に移すことになる。
「東京に出てくるや住む家も決まらないうちから、今田耕司さんや東野幸治さん、キム兄さんといった先輩方にいろいろなお店に連れて行っていただいて、東京に不案内だった僕にはホントにありがたかったです。それから忘れちゃいけない、YOUさん。すごく気にかけてくださっていろんなお店に連れて行っていただいたんですが、カルチャーショックを受けたのが、〈ザ・キャピトルホテル 東急〉にある〈ORIGAMI〉(*3)のジャーマンアップルパンケーキ。パンケーキというと厚手の生地をイメージすると思うんですが、ここのは薄い生地に薄切りのリンゴをのせて焼いてあって、メープルシロップをかけていただくんです。僕はオプションでアイスクリームをトッピングしてもらうんですが、何回食べても毎回必ずおいしいので驚きます。Hanakoの読者の方には絶対にオススメです」
2000 YOUさんにご馳走になった、伝統のパンケーキは格別。
〈ORIGAMI〉のジャーマンアップルパンケーキ。“アイスクリーム添え”は、東京に不案内な大阪の芸人にとってカルチャーショックの逸品だった。
〈ザ・キャピトルホテル 東急〉のオールデイダイニング。
住所:東京都千代田区永田町2-10-3 ザ・キャピトルホテル 東急3F
TEL:03-3503-0872
営業時間:7時〜15時(14時30分LO)、17時〜22時(21時LO)
定休日:無休
今にも席を立って食べに行きたそうな藤井さんだが、このアイスクリームトッピングのようなチョイ足し的ひと工夫は、藤井さんがグルメといわれる所以の一つかもしれない。
「例えば中華料理をいただく時に、お店の方がお皿を取り替えてくれますが、おいしくて自分の好みの味付けだった場合、新しいお皿に替えられない時があるんです。というのは、おいしい餡をほかの料理にもつけてみたいから。酢豚の黒酢餡がおいしかったら、次に出てくる蒸し物にもつけてみたくなりませんか?餡やソースを和えて自分好みの味に仕上げることも好きです。きれいな食べ方を誉められると言った舌の根も乾かないうちにこんな話をしちゃうと台無しですね。お行儀が悪いと教えていただいたこともあるのでおすすめできませんが、おいしいフードクリエイトは止められません(笑)」
あぁ、この人はホントにおいしく食べることが大好きなんだ、と納得させられるエピソードだ。そんな藤井さんだからこそ、食通の先輩たちもいろんな店に連れて行く甲斐があるに違いない。
2010 取り皿を替えずに中華を愉しむ、藤井隆流フードクリエイト術。
中華のコース料理を食べ慣れてきた頃、こっそり編み出したアイデア。取り皿を替えずに、気に入った餡を次の料理にも合わせて愉しむフードクリエイト術。
そして藤井さんにはもう一つ、食を語る上で触れずには済ませられないものがある。それは、ロイヤルホスト愛。愛情が高じて最新アルバムのタイトルを『Music Restaurant Royal Host』にしてしまったほど。
「〈ロイヤルホスト〉のステキなところは、真面目においしいお料理を追求しながら、ユーモアとチャレンジ精神があるところだと思います。そしてお客様へのホスピタリティを軸にすべてのオペレーションが設計されている点も素晴らしい。もともと〈ロイヤルホスト〉が好きだったんですが、いろいろお話をうかがってさらにファンになりました。メニューはどれもおいしいんですけど、個人的なオススメはまず、生のケールのサラダ。これは必ず食べます。そしてメインでは国産豚ポークロースステーキジンジャーバターソース。この取り合わせが最強ですね」
マルチに活動する藤井さんには〈ロイヤルホスト〉に通じる部分がありそうだ。
2022 歌手・藤井隆渾身のロイヤルホスト愛作品。
歌手・藤井隆のグランドメニュー的アルバム。通常ジャケットは〈ロイヤルホスト〉店内でオニオングラタンスープを持った制服姿のポートレイト。お見事!
ふじい・たかし/4月6~26日、三軒茶屋〈シアタートラム〉にて上演される『カラカラ天気と五人の紳士』に出演。普段は柔和な笑顔の下に隠す狂気を解き放ちそうな予感が漂う、別役実作の名作戯曲。演出は若き鬼才・加藤拓也、共演は堤真一、溝端淳平、野間口徹、小手伸也、中谷さとみ、高田聖子。岡山、大阪、福岡へ巡演。「別役先生の不思議な物語に、加藤さんの若い才能が融合した作品。絶対面白いものになると思いますのでぜひお越しください。三軒茶屋はおいしいものが多いので、観劇後の食事もバッチリですよ!」。
https://www.siscompany.co m/karakara/
No. 1231
![HANAKO202405_001](https://img.hanako.tokyo/2024/03/21151522/HANAKO202405_001-600x768.jpg)
No.1231 『銀座と下町』 2024年03月28日 発売号
春のウキウキ気分を盛り上げてくれる、ハレの街・銀座。新店のスイーツ巡りも、この街発祥の老舗グルメ探訪も。最旬アートスポット体験や、本格バーデビューだって。銀座に足繁く通い、街を愛する各界著名人や、「銀座通」がとっておきの楽しみかたやおすすめスポットなどなど、銀座の活用術を指南します。 いつもよりちょっとだけ特別、でも背伸びしすぎない、私たちがしたいことが全部この街に詰まっています。だからこそ、今こそ、銀座を目指して。 さらに周辺には、懐かしくも新しい、進化する下町エリアが。銀座から電車に少し揺られれば、新しい出合い …
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