政府がぶち上げた「フェイクニュース対策」の危険な兆候

HARBOR BUSINESS Online / 2019年1月29日 8時32分

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◆日本でも始まるフェイクニュース対策?

 アメリカの大統領選でロシアがネット世論操作を仕掛け、日本の選挙戦でもデマの応酬が目立つようになってきた。イギリスのEU脱退、フランス大統領選、カタルーニャ分離独立騒動などネット世論操作の実例は枚挙にいとまがない。フェイクニュース全盛時代の幕開けがやってきた。

 なお本稿ではネット世論操作の一手段としてフェイクニュースを位置づけている。ネット世論操作と書いた場合は、フェイクニュースを含むネット上の世論操作を指している。

 日本は世界でも有数のネット世論操作対策後進国だった。ヨーロッパ、北米、アジアなどほとんどの国はネット世論操作対策組織や法律を持ち、民間レベルでもファクトチェック団体があるのに対し、日本はなにも手を打ってこず、ファクトチェック団体もひとつしかない。やっと総務省がフェイクニュース対策に乗り出すと発表した。(参照:政府、デマ拡散抑止へ本格対策 選挙や災害時、法制化は見送り--東京新聞)

 これに対して法律上の問題や、そもそも政府自身が改竄やねつ造を繰り返している状況で誰がフェイクニュースを判別できるのかといった疑義などさまざま意見が現れた。

 ちなみに、フェイクニュースの定義とそれぞれの定義ごとの対策などを網羅的に整理したレポートがデータ&ソサエティ研究所から発表されており、それを元にした分析を拙著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)第2章で行っているので関心のある方は参考にしていただきたい。

 そのレポートの結論は現在、有効な定義は存在せず、法律などによる政府の対策、SNS事業者などプラットフォームの対策、民間のファクトチェック団体などによる対策、いずれも現状では功を奏して折らず、このままでは有効な対抗手段とはなり得ないとなっている。

 ネット世論操作について多くの人が誤解していると思うので、その点をまず説明しておきたい。

◆自国民を対象としたネット世論操作の特徴

 アメリカ大統領選へのロシアの介入で、フェイクニュースを中心としたネット世論操作は他国からの攻撃というイメージをお持ちの方が少なからずいるかもしれない。しかし、実際にはネット世論操作は多くの場合、国内をターゲットにしている。他国をターゲットにしている場合でも、その前に国内に対して行っているのである。

・ネット世論操作は最初に自国民を対象に行うのが基本である

 世界48か国でネット世論操作が進行しており、その全てにおいて自国民を対象にネット世論操作が行われていた(前掲書題3章参照)。ロシアのアメリカ選挙戦への介入に目を奪われがちだが、そのロシアもその前に自国民を対象にネット世論操作を開始していた。

・フェイクニュース対策や対策組織は政権がネット上の言論空間を掌握するために用いられることが多い

 自国民を対象にしたネット世論操作では、「敵対者(政党や政治家など)への攻撃」や「政権支持」がもっとも多く行われていた。

 自国民を対象にしたネット世論操作の威力は強力だ。たとえば、インドやフィリピンではネット世論操作を行った政党が政権を奪取しているし、カンボジアでは野党党首がフェイクニュースで国家叛逆を計画したとして逮捕投獄された(冤罪)。その他、ベトナムなどでも包括的なサイバーセキュリティに関する法律と監視部隊が政権維持のための装置になるのではないかと危惧されている。

・政府主導のフェイクニュース(ネット世論操作)対策は危険なだけ

 政府の考えているフェイクニュース対策が支持のためのものかどうかを判別するのは簡単である。フランス政府が公表した資料「情報操作 デモクラシーへの挑戦(INFORMATION MANIPULATION A Challenge for Our Democracies)」(ネット世論操作に関して現在入手しうる包括的な調査資料のひとつ、2018年8月)に、50の対策が書かれており、その基本は市民や民間であり、政府はそれを支援する立場にあるとしている。決して政府からのトップダウンアプローチを取ってはいけないと戒めている。政府が市民や民間を支援する方法には法律や制度の整備も含まれるが、それだけが先行するのは避けなければいけないわけだ。

◆総務省の動きは「避けなければいけないこと」

 総務省のフェイクニュース対策についての報道を見る限りでは、明らかに政権支持のための施策にしか見えない。

・規制ありきのトップダウンアプローチを取っている時点で問題がある

 前述したように既存のレポートで明確に否定されているアプローチを取っている以上、問題があると言わざるを得ない。加えて、先行する各国の資料を研究していないこともわかる。

・専門家不在で進む検討=結論ありきの形式だけの会議?

 総務省は有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」で検討を行うとしているが、公開されている範囲での過去の議事録を見る限り、ネット世論操作について見識のある方はいない。ユーザリテラシー、自浄メカニズムやプラットフォームの対策を取り上げているので、ここ数年の研究成果を知らないのは明らかだ。それらを否定はしないが、もっと重要なものや優先すべきものがある。よくある結論ありきで、形式上有識者っぽい人々をそろえただけのようにしか思えない。

 その一方で日本国内でネット世論操作が行われているのは確かで(前掲書第5章やHBOLの過去記事参照)、レポートも発表されている。自民党のためにネット監視と通報を行う企業も存在する。監視と通報自体は問題ではないが、本来なら政府で行うべきである。そうでなければ予算のある政党が有利になるだけだ。

 政権支持のネット世論操作が存在している状態で、不適切なフェイクニュース対策を施行することは非常に危険である。

 では、本当にフェイクニュース対策を行いたい場合、なにをすればよいのだろうか? 話は簡単である。市民と民間に予算をつけて、海外から経験ある研究者を招いて(日本国内に専門家はいない)調査研究を行うのである。

・ネット世論操作の実態把握

・アクターの特定

・有効な対策の立案

 最低限この3つを市民と民間の組織で行って、それを元に規制が必要なら検討するという流れになるべきだろう。

※本稿の一部に誤りがあったため、修正いたしました。お詫び申し上げます。

◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」

<取材・文/一田和樹>

いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている

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