高速120km/h化で煽り運転が増える!? その3つの理由とは

HARBOR BUSINESS Online / 2019年2月17日 8時33分

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 2017年の年末から試験的に最高速度が110km/hとされていた高速道路の一部区間が、3月1日から120km/hに引き上げられる。(参照:新東名・東北道で「国内最速」120キロ試行 3月から警察庁−産経新聞)

 警察庁は、新東名高速道路の「新静岡IC―森掛川IC」間の約50kmと、東北自動車道の「花巻南IC―盛岡南IC」間の約27.5kmの最高速度を2017年末から試験的に100km/hから110 km/hに引き上げ、クルマの速度や事故件数などを検証。その結果「問題なし」と判断され、今回の120km/hへの引き上げに至った。

 最高速度が120km/hとなるのは、高速道路が開通した1963年以来初。同試行は少なくとも1年は続けられ、その後、安全が確認できれば他路線への拡大も検討するという。

 今回、この「120km/h化」で期待されているのが、「実勢速度(実際に出されている速度)と規制速度とのギャップの解消」だ。

 確かに、高速道路の一部ではすでに120km/h走行が常態化。そのため、普段から120km/hが出せる一般ドライバーにとっては、同試行は朗報と言えるかもしれない。

 しかし、120km/h化によって実勢速度と規制速度のギャップ自体が埋まるかといったら、そんなことはないと筆者は考えている。速度超過による取り締まりが甘い日本では、ドライバーが常に法定速度よりも5~10km/h速く走っても大丈夫だろうと考える傾向にあるからだ。

◆「煽り運転」や「衝突事故」増加の懸念!?

 実際、SNSなどではすでに「今回最高速度が120km/hに引き上がれば、130km/hで走っても10km/hオーバーにしかならない」といったコメントも散見。何より、制限速度110km/hの道路で120km/h走行が常態化していることこそが、その表れだと言える。

 つまり、今回「120km/hまで出していい」というお墨付きが法的に出たことで、今後130km/hで走ることを厭わないドライバーが増加。結局のところ実勢速度と規制速度とのギャップはさほど埋まらないと考えられるのだ。

 それゆえ、今回の最高速度引き上げは、言うなれば、「120km/h化で生じる130km/h化」といったところだろう。

 これにより懸念されるのが「煽り運転」や「衝突事故」の増加だ。

 一部報道では「120km/h化で煽り運転は減る」との声も聞かれるが、筆者は今回の引き上げでは、これらが解消するとは全く思っていない。むしろ増えるとさえ思っている。

 その最大の理由は「速度差」だ。

 煽り運転が発生する根本的な原因は、それぞれのクルマの「速度差」にある。

 速く走りたいと思うクルマは、当然遅く走るクルマが障害となるが、今回の120km/h化では、この速度差が様々な要因によって著しく広がり、結果的に煽り運転が起きる状況が今以上に増えると考えられるのだ。

◆流れを止める運転弱者、トラックなどが煽りの対象に

 その「様々な要因」とは、主に以下の3つだ。

1.流れに乗れなくなる運転弱者

 高速道路を使用するのは、何も120km/hが出せるドライバーだけではない。中には、運転が苦手な初心者や高齢者なども走っている。

 今回の試行は、「120km/hを出さねばならない」という訳では決してない。にもかかわらず、速度が増した「周囲のクルマの流れ」に乗れない彼ら運転弱者は、120km/h道路において、「ストッパー」という存在になってしまう可能性があるのだ。

 最近、やみくもに「煽り運転は、煽られる方がきっかけを作っている」と考える風潮があるが、今回の120km/h化によって、不本意にも彼らがそうした「きっかけ」になってしまう恐れがあるのである。

2.「高級車に乗った凡人」らの暴走

 以前、「煽る側と煽られる側の特徴」でも紹介したが、前出の「運転弱者」とは対照的に、高速道路には「高級車に乗った凡人」や「悪質ドライバー」といった、「運転狂者」も数多く存在する。

 彼らは、身の丈に合わない高級車に乗ったり、えげつないスピードを出したりすることで、自分自身が強くなった気になる。そして、そんな自身の存在を知らしめるため、走行車線・追い越し車線に関係なく故意に煽りなどの危険運転に興じるのだが、彼らにとってこの120km/h化は、「120km/hの道路をノロノロ走るオマエらが悪い」という大いにひん曲がった口実になる可能性がある。

 無論、こうして煽られる対象になる多くは「運転弱者」と、次に紹介する「大型トラック」だ。

 3.速く走りたくても走れない大型トラック

 今回、一般車両が120km/hを出せるようになる一方、大型車は80km/hに据え置かれた。

 大型トラックは、社速(各業者が決めている速度)が80km/hとされていることが多いのに加え、2003年にスピードリミッターの装着が義務付けられて以降、いくらアクセルを踏んでも90km/hしか出なくなっている。

 つまり、120km/hで走る一般車とは40km/h、予測される実勢速度では50km/hもの速度差が出てしまうことになるのだ。言い換えれば、これは100km/hの高速道路を最低速度の50km/hで走っているのと同じことになる。そう考えると、この50km/h差がいかに危険なのかが分かるだろう。

 トラックにも70~75km/hで荷を守りながら慎重に走る車両もあれば、リミッターぎりぎりの90km/hで走るクルマも存在するため、左1車線のみでの実質的なトラック走行は、現在の日本の高速道路の構造と自動車数ではまず考えられない。

 追い越しを掛けるべく車線変更をした際、そこに40~50km/hもの速度差のクルマが走ってくれば、追突事故の危険性は必然的に増加するし、今以上にトラックは煽られる対象になるだろう。

◆120km/h化の中なおざりにされる軽自動車

 今回の120km/h化に際して、海外の高速道路事情を引き合いに出し、「見習うべき」「日本もより高速化していくべき」とする報道も目立つが、日本の高速道路の渋滞率や道路幅、国民に備わる時間的感覚は海外のそれと大きく違うのに加え、日本には海外では見られないあるクルマが数多く走っていることも考慮する必要がある。

「軽自動車」だ。

 今回の120km/h化では、この軽自動車も最高速度引き上げの対象となっている。

 が、軽自動車は64馬力しかないうえ車体が軽く、ボディも空気抵抗に強いカタチにはなっていない。120km/hを出そうとすれば、周囲のクルマからの風圧だけでなく、自身のスピードで生じる空気抵抗に負け、ハンドルがブレやすく不安定になるのだ。

 そんな状況下、周囲のクルマの流れを乱さぬようにと、無理してスピードを上げ事故を起こせば、車体の構造上、どうしてもその衝撃は他のクルマよりも大きくなる。軽自動車の高速事故は、どんなクルマよりも死亡事故とイコールに限りなく等しくなるのだ。

 ところが皮肉なことに、「小回りが利く」などの運転のしやすさから、運転弱者が乗っているケースが高いのも、運転弱者の乗り物として「運転狂者」が認識しているのも、この軽自動車なのだ。

 「最近の軽は性能が高いから大丈夫」、という声もあるが、高速に乗るのは何も「“最近の”クルマ」だけではない。

 120km/h対象区間のある新東名高速道路は、元々140km/hまで出せるよう設計されてはいるが、こうしたスピードを出すのに適さないクルマが無理に走れば本末転倒で、道路だけが整備されていても意味がないのだ。

 今まで100km/hを基準に「速いクルマ」と「遅いクルマ」がなんとか折り合いをつけてきた日本の道路。今後の120km/h化によって、その速度差の均衡が崩れる恐れがある。

 そうならぬためにも国はこの先、「最低速度の引き上げ」や「車線ごとの速度規制」、「3車線化の完全整備」など、速度差をできる限りなくすべく検討・対策していく必要があるだろう。

 ドライバー自身も、「必ずしも120km/hで走る必要はない」ことを肝に銘じ、1人ひとりがモラルをもって運転していってほしい。

【橋本愛喜】

フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。

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