「ロードサイド」は「中心商店街」。イオン閉店で小さな町が下した異例の決断

HARBOR BUSINESS Online / 2019年3月1日 9時8分

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イオン上峰店前の県道22号線沿い。この地はサティ出店後にロードサイド店や小規模ビルが並ぶ「町の中心」へと変貌を遂げた

 この2月28日で閉店を迎える佐賀県上峰町の大型ショッピングセンター「イオン上峰店」(旧・マイカル上峰サティ)。

 前回の記事では、この大型ショッピングセンターの誕生により町にロードサイド型の「新たな商店街」が形成されたこと、そして近隣の競合ショッピングセンターのみならず「自らが生んだ足元の商店街」との競合にも敗北して撤退するに至った経緯について述べた。

 かつて商店が少なかったこの町は、大型ショッピングセンターに加えて「ショッピングセンターが生んだロードサイド型商店街」のお陰で潤い、そしてその新たな商店街は「デフレ時代」に即したかたちで成長を遂げ、大きくなった商店街のお陰でショッピングセンター撤退による買い物難民の発生は免れた。

 一方で、自治体側は「突然の閉店発表」に翻弄されることとなった。

◆「ロードサイドを『中心商店街』として活性化」

「大型商業施設の撤退」は自治体に瑕疵が無くとも市政や町政を揺るがす「一大事態」となることが少なくない。それは上峰町も同様であった。

 以前よりも客足が減ったとはいえ、イオン上峰店は開店から24年間に亘って上峰町最大の商業施設であった。上峰町は佐賀県で2番目に面積が狭い自治体で、その面積は約12平方キロメートル、特に東西は僅か約1キロメートルほど。久留米と佐賀を結ぶ幹線道路が東西に走る同町において、イオン向かいのディスカウント総合スーパー、隣の家電量販店やスーパードラッグストアなどは町内であるが、同じロードサイド商店街内にあっても「町外」となる競合店も少なくない。仮にイオン撤退によりイオン周辺の店舗集積まで衰退してしまった場合、上峰町民の生活が不便になるのは勿論のこと、消費が町外の店に流出して町の税収も少なくなってしまう。

 町もこれだけの大型施設が20年足らずで撤退することは想定していなかったとみられ、閉店発表の直後から対応に追われた。

 そしてイオンの閉店発表から1ヶ月後に出した答えが「イオンの土地・建物を町が譲受すること」だ。

 しかも、上峰町は「イオンが生んだロードサイド型の商業集積」を新たな「中心商店街」であるとみなし、跡地を「中心市街地の核」とするために「中心市街地活性化事業」として再開発するというのである。

 「ロードサイドの商業集積は果たして中心商店街なのか?」という質問を投げかけられると様々な議論が起こるであろうが、いずれにせよ現在はこのエリアが「町の商業の中心」であることは間違いない。

 また、ロードサイド型商店街といえども、大手企業のみならず佐賀県内資本や県内企業がFC展開する店舗、また地元民が土地や建物を賃貸している店舗も少なくない。小さな町が地域経済を維持するためには、この「新たな商店街」は欠かせない存在なのだ。

 そもそも、サティがこの地へ出店した理由の1つは「自家用車、公共交通ともに利便性が高かったから」であった。

 ここは佐賀と久留米を結ぶ幹線道路に当たるため路線バスの本数も日中1時間あたり2~4本と比較的多く、またロードサイドでありながら道はそれほど広くなく(基本は片側一車線)土地も平坦であるため、車を持たずに徒歩や自転車、バスで移動する住民の利便性も高く「町の中心」とするには都合良い。町としてもこれほどの好適地を逃さない手はない、という訳だ。

 なお、現在の上峰町役場や町民センター、町営ゲートボール場がある「官庁街」はイオンから南に1キロメートルほどの、バスの本数が少なく田園などが多い地帯に立地するため、イオン周辺と比較すると拠点性には乏しかった。

◆「上峰町の新たな中心」として再開発

 上峰町のこうした動きを受けたイオン九州は、町にイオン上峰店の土地・建物を無償譲渡することで基本合意する方針を発表した。

 「無償」とは太っ腹に思えるが、これだけの規模の建物を解体するとなれば数億円の費用がかかってしまう。イオン九州にとってみても大型空き店舗の引受先が早期に決まったことは「渡りに船」だったであろう。

 上峰町は、民間資金を活用するPFI方式での再開発を行うべく、同店跡地とその隣接地(自動車学校用地跡など)の約6万3700㎡の民間事業者を公募することを決定。選定された事業者は特別目的会社(SPC)を設立して開発が行われることになる。公募は既に行われており、イオン閉店後の2019年5月に優先交渉者が選定される予定だ。

 新たな施設はこれまで明確な中心地がなかった(イオン周辺が事実上の中心となっていた)上峰町にとって「中心商店街における中核施設」になるものと期待されており、公共機能や住機能なども設けられるとみられる。また、幹線道路沿いであるため、「道の駅」的な施設を併設することもありうるが、現段階ではどういった内容となるのかは未定だといい、今回の取材においては上峰町から具体的な開発計画などを教えて貰うことはできなかった。

 一方で、開発を前に上峰町が行ったサウンディング型市場調査では、民間コンサルタント会社から「採算を採るためには商業機能を併設することが不可欠」だと指摘されており、新施設内には再び商業床が設けられることが確実視されている。しかし、当然ながら商機能の業態によっては再びロードサイド商店街に出店する周囲の店舗との競合を起こしてしまう。そのため「いかにして既存の商店と差別化していくか」も大きな課題となるであろう。

 なお、この商業床にはイオングループも核店舗として「再出店」することを検討しているという。

 果たしてイオンの「リベンジ」は果たせるのであろうか。

 ショッピングセンターの進出を機にロードサイド店舗の集積が生まれることは多く、デフレ社会の昨今ではその集積が「ディスカウント競争」の表舞台となり、ショッピングセンターの核である大手スーパーが劣勢に追い込まれることは少なくない。近い将来には全国各地でこうした「撤退劇」が起きる可能性もあり、「ロードサイドを中心商店街とする」という上峰町の取り組みは「先進事例」となるかも知れない。

 24年に亘って地域に親しまれた「これまでの町の中心」は間もなく消えてしまう。

 今後、再開発で生まれる「新たな町の中心」の詳細はまだ分からないが、新たな施設が「サティ(イオン)が生んだ商店街」に屈することなく共存し、地域に更なる賑わいを生み出すような、そして長年に亘って「中心商店街の新たな核」として住民に親しまれ、全国の「先進事例」として後世に語り継がれるものとなることを期待したい。

<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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