消息不明だったアルゼンチン潜水艦、何者かに撃沈させられた証拠写真が見つかった

HARBOR BUSINESS Online / 2019年3月18日 8時31分

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photo by Juan Kulichevsky via flickr(CC BY-SA 2.0)

 2017年11月15日に消息を絶ったアルゼンチンの潜水艦ARAサンフアン。当サイトでも何度もその後の情報について、主にスペイン語圏メディアの情報を報じてきたが、それから1年と1日が経過した2018年11月16日未明にアルゼンチンの沖合500キロ離れた国際水域で、水深907メートルの位置にARAサンフアンの残骸が見つかった。

 その探索調査を進めていたのは米国ヒューストンに本部を置く探索専門会社オーシャン・インフィニティー(Ocean Infinity)であった。

◆アルゼンチン政府が隠していた「何か」

 この事件は潜水艦が消息を絶ってから常に政府は何かを隠しているというのを死亡した乗組員44名の遺族に感じさせていたという。

 当初、日本を含め世界各国から調査船などが参加して探索を進めていた。最後に残ったロシアの調査船ヤンタールはARAサンフアンが消息を絶ったと思われる地点から更に沖合だと見て、アルゼンチン政府にその調査許可を申請したが、同政府は更に沖合の探索を却下した。実際に、ARAサンフアンの残骸が見つかったのは確かにその沖合だったのである。

 また、政府は探索調査を外部に依頼することを決めたのも遺族からの強い要求があったからで、しかも、その為の入札を募ったのが昨年5月で応札したのは9社。そして、オーシャン・インフィニティーが落札したのが9月。即ち、入札から落札まで実に5か月が経過していたのである。勿論、それによってARAサンフアンの残骸発見もより遅くなった。

◆残骸発見、そして写真公開まで3か月を要した理由

 残骸が見つかったのは水深907mということで、遺族はそれを浮上させることを要望したが、理論的には浮上が可能であっても実際には相当の費用と困難を伴うことは明白で遺族は納得しないが内心承知していた。

 ところが、オーシャン・インフィニティーが撮った6万7000枚の写真を公開するのに、実に3か月を要したのである。この事件を当初から担当しているマルタ・ヤニェス判事がその理由として挙げたのが、非常に鮮明な画像が見れる20テラバイトで撮られた写真を見るためには特別なソフトウエアが必要で、その購入費用が25000ドル(275万円)するといって、その購入をしぶったのである。

 オーシャン・インフィニティーの方ではアルゼンチンがこのソフトウエアーをもっていないということを事前に知らされていなかったという回答であった。

 遺族とメディアはヤニェス判事が特別ソフトウエアーの購入を躊躇う姿勢を理解できないと表明した。なぜなら、オーシャン・インフィニティーの探索には750万ドル(8億2500万円)を支払っておきながら、6万7000枚の写真を見るためのソフトウェアの費用25000ドルの購入に抵抗する判事に理解できないと彼らは不満を表明したのである。(参照:「Clarin」)

 ここでも遺族そしてメディアの圧力が功を奏して、ヤニェス判事はアルゼンチンでそのソフトウエアを唯一持っている海面水路サービス局にそれを依頼する旨を表明したのである。それが昨年12月22日のことであった。ところが、実際にその写真が公開されるのにそれからほぼ2カ月待たされたのである。判事の方で海面水路サービス局でそれをもっているということが分かったのは遺族らが写真の公開を強く迫ったことが影響しているようであった。(参照:「Infobae」)

◆3月に入ってから浮上した「新証拠」

 3月に入って写真が公開されると、また一つ重大な問題が起きたのである。海洋エンジニアのホルヘ・ボハニックがマクリ大統領を告訴すべく連邦検事ホルヘ・ディ・レーリョに訴えたのである。告訴の理由は、「ARAサンフアンが漂流するようになったのは国際水域で(活動している企業の)スパイ活動をしている最中に対潜水艦用の機雷あるいは対艦ミサイルの攻撃を受けたからだ」としたのである。

 ARAサンフアンが攻撃を受けたという指摘は筆者の昨年3月2日付けの記事を参照して戴きたい。(参照:”依然として行方が知れぬアルゼンチン海軍潜水艦に絡んで囁かれる不穏な「噂」”–HBOL)

 その後、艦内でのバッテリーの爆発というのが次第に有力説となりつつあったが、それを覆す解明が以下に説明する1枚の写真によって明らかにされるのである。

◆6万7000枚の写真に残されていた「攻撃の痕跡」

 ホルヘ・ボハニック氏によると、「ARAサンフアンは高張力鋼HY80で35ミリの鋼材が使用されており、戦車の口径88ミリの砲弾にも耐える厚みである。ところが、1枚の写真でその高張力鋼が完全に破壊された箇所がある。それはTNT300 トンでもこの破壊度合いは発生しない。即ち、艦内の(バッテリーによる水素ガス発生で生じる)水素爆発や水深による爆発では起きない破壊度だ」、「唯一この度合いの破壊が生じるのは対潜水艦用の機雷あるいは対艦ミサイルによるものだ」と指摘したのである。

 さらに、同氏は「6万7000枚の写真の中でそれに関係した僅か3枚の内の1枚でプロペラの左側に角のようなものが観察される。それは対艦ミサイルのブースターだ。このミサイルは台湾製の雄風(Hsiung Feng)だ。この兵器は追跡が困難なものだ」と指摘したのである。

 そして、告訴の結論として、「エネルギー相のアラングーレンはこの水域で石油企業25社が活動しているのを知っている。その隠密調査をARAサンフアンに担当させたのだ。それを唯一許可できるのは海軍の総指揮官であり、アルゼンチンの大統領マウリシオ・マクリである。アラングーレンがマクリにそれを推奨したのだ。即ち、政府のトップがこの事件に直接関与しているのだ」と述べて、マクリを告訴する理由だとしたのである。

 尚、この水域は石油と天然ガスがアルゼンチン国内のバカ・ムエルタよりも7倍の埋蔵量を有しているとされているのである。そこをアルゼンチンも開発することを狙っている。(参照:「Tiempo Argentina」、「Kontra Info」、「Info Cielo」

 この主張の真偽や告訴がこれからどのように展開して行くは現在のところ不明である。しかし、ARAサンフアンが攻撃を受けたという可能性が1枚の写真によって浮上したのである。この攻撃に至った過程についての解明はまだ憶測の段階にとどまっている。

<文/白石和幸 photo by Juan Kulichevsky via flickr(CC BY-SA 2.0)>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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