無知につけ込まれる外国人労働者。彼らを救うために元難民の支援者が辿り着いた「答え」<岡部文吾氏>

HARBOR BUSINESS Online / 2019年4月25日 8時33分

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◆実習生支援の現場で見た「現代の奴隷制」の現実

 ついに改正入管法が施行された。早くも東京電力が廃炉作業への「特定技能」資格の外国人労働者を受け入れる方針を表明するなど、安倍政権、そして財界がなぜ入管法を改正を急がせたのかが如実にわかる事態となっている。(参照:HBOL)

 まさしく、日本は、外国人労働者を喰い物にしているのだ。

『月刊日本 5月号』では、第2特集として「外国人労働者を喰い物にし続けるのか」と題して、一人の人間としてではなく、人権を無視して使い捨ての「道具」のように扱う日本の問題点を指摘し、共生への道を模索する記事を掲載している。

 今回は、元ベトナム難民という立場から、実習生の支援活動に奔走している「福島外国人実習生・留学生支援ネットワーク」代表の岡部文吾氏へのインタビューを転載し、紹介したい。

◆「警察に被害届を出せ」と言い続ける日々

―― 岡部さんは元ベトナム難民の立場から主にベトナム人技能実習生、留学生を支援しています。

岡部文吾氏(以下、岡部):現在、私は技能実習生の監理団体に所属していますが、かつて福島県で実習生、留学生の保護・支援活動をしていたため、今でも個人的なサポートを続けています。2日に1回は相談の電話がかかってきて、個別に対応している状況です。

 相談内容は会社とのトラブルが大半で、特に暴行を受けたケースが目立ちます。最近は電話に向かってひたすら「まず病院に行って診断書をもらいなさい。次に、その診断書を持って警察で被害届を出しなさい」と言い続ける日々です。この問題は警察とも相談しているので、最近はきちんと対応してくれるようになっています。

 会社から逃げ出した後、行き場がなくて困っているというケースもあります。あるベトナム人の女の子は、実習生同士で喧嘩をしただけで会社側から「解雇する。帰国しろ」と脅され、実習先を逃げ出してきたと電話をかけてきました。真冬の北海道からです。

 しかし「寒い。怖い。早く来てほしい」と凍えながら言われても、名古屋で電話をうけた私には駆けつけることができない。必死にあちこち連絡したところ、知り合いの記者がたまたま北海道に出張中だったため、滞在中のホテルで保護してもらうことができました。一方、喧嘩相手の女の子は同じ日に失踪した後、行方が分かっていません。

―― 昨年来、入管法改正と相まって技能実習生や留学生の問題が盛んに報じられました。その後、何か変化を感じますか。

岡部:メディアの報道に触れた読者、視聴者が行動を起こすようになっています。先日、テレビ東京の番組で外国人実習生の問題が取り上げられた際、取材映像として縫製工場の様子が放映されたのですが、作業中の衣服に特定のブランド名が映りこんでいたのです。すると、それを見た視聴者がインターネット上で不買運動を呼びかけ、ブランド会社にクレームが殺到する事態になりました。

 実際に実習生を酷使している縫製会社は下請けの下請けなのですが、元請けの一流企業にとってブランドイメージに傷がつくのは恐ろしいことです。こういうメディアの報道、消費者運動も企業の不正防止につながっていくと思います。私自身、これまで多くのメディアから取材をうけ、実習生や留学生の現状を伝えられたことに感謝しています。

 ただその一方で、いくらメディアの取材をうけても、この問題を解決することはできないということも痛感しました。これは仕方のないことですが、メディアは問題提起をするだけで、国民は知るだけなのです。確かにその意味は大きい。しかし、それだけで問題解決には至らない。そこから問題解決に責任を持つ人が出てくるわけでもない。

 だから、私は自分の責任としてこの問題を考えに考え、「これしかない」という解決策を見つけました。現在はそれを実現するために活動しているところです。

◆外国人の無知につけ込んで利益を上げる制度

―― その解決策とは、一体どのようなものなのですか。

岡部:まず発展途上国の若者は、日本に制度があろうがなかろうが、その実態が何だろうが、海外に出稼ぎに行かざるをえません。だから、出稼ぎ労働者の受け皿である技能実習制度と留学制度そのものを一概に否定するつもりはありません。

 しかし、その実態は余りに酷すぎる。だからといって、今さら法律や制度の改善を要求する気もありません。それでは時間がかかり過ぎるし、何よりもう行政や企業には期待していません。

 要は法律や制度を改善しなくても、日本に来る外国の子たちが酷い目に遭わなければいいのです。そのためには、彼らが自分で自分の身を守って、他人から助けてもらえる仕組みを作ればいい。

 実習生や留学生が自分で自分の身を守ることができないのは、情報と知識がないからです。ベトナムの場合、政府公認の送り出し機関は291社ありますが、それ以外にも山ほど同じような会社があります。その中には悪徳ブローカーも紛れ込んでいますが、来日を希望する子たちはそれを見分ける情報を持っていない。その結果、ブローカーに騙されて多額の借金を背負うケースが後を絶たないのです。

 来日後も状況は変わりません。実習生が受け入れ企業で酷い目に遭って失踪するケースは増える一方ですが、事前に実習先がブラック起業かどうかを確かめる方法もありません。たとえば、最終的には労基署で解決したのですが、ある実習生は日本に来て最初の給料から住民税が2万円引かれていました。外国人の住民税は2年目以降から発生するので、これは不当な搾取です。しかし、当の本人にはそういう知識がないので、不当なのかどうかすら中々判断がつかない状況です。

 それ以外にも知らない情報が多い。ベトナムの送り出し機関は日本の受け入れ機関と提携しているため、それぞれ実習先の職種や地域にバラつきがあります。たとえば、東京都の最低賃金は985円ですが、鹿児島県は761円です。仮に週5日8時間労働だとすると、東京と鹿児島で同じ条件で働いても年間43万円、3年で129万円の差額が生まれます。これはベトナムでは新築が建てられる金額です。ところが、実習生はこういうことを知らずに来ますから、田舎の実習先から失踪して東京で働こうとする子も出てきます。

 中には、鳶職が何か分からないまま来日して、高所恐怖症のため3日で根を上げる子もいました。それくらい情報がないのです。

◆問題の根源は「情報格差」

 しかし、この状況は実習生以外には好都合なのです。送り出し機関、監理団体、受け入れ企業はそれぞれ実習生の無知につけ込んで利益を上げているからです。

 問題の根源は、この「情報格差」です。それを解消するために必要なものは、総合情報プラットフォームです。だから、インターネット上にベトナム人実習生・留学生向けの総合情報プラットフォームを開設して情報格差を解消すること、これが私の解決策です。

 私はこれを「スマイル・プロジェクト」と名付けました。幸い、ベトナム政府をはじめ多くの方々の賛同を集めています。年内には実現に漕ぎつけたいと思っています。

◆情報格差、言語の壁を打ち破れ!

岡部:ところで、世界的にその国の住民と外国から来た移住者の協力が進まないのは、なぜだと思いますか?

―― そうですね……。他人事だからですか?

岡部:残念ながら的外れです。答えは言語です。日本人と外国人は言語の壁で隔てられているから協力が進まないのです。お互いに言葉が分からないから助けを求めることも、手を差し伸べることもできないのです。

 差別とか偏見とか、もうそういうのはいいんですよ。確かに一部にはそういう人もいるかもしれませんが、良心的な日本人は大勢います。だから、親切な日本人と困っている外国人が言語の壁を乗り越えて連携する仕組みがあればいい。

 私が構想している総合情報プラットフォーム「スマイル」には翻訳機能をつけた上で、SOSに対応するセーフティネットの役割も果たしてほしいと思っています。

 確かに実習生を管轄している「外国人技能実習機構」(OTIT)にも、外国語で対応してくれる緊急ホットラインが用意されていますが、対応時間は月水金の11~19時だけです。緊急ホットメールもありますが、24時間対応してくれるわけではない。実際、私は先ほどの北海道の件で入管やOTITに連絡を入れましたが、何も対応してくれませんでした。行政に頼るよりも、心ある人同士が協力する方が、問題解決の早道だと信じています。

―― 「スマイル」は情報格差を解消して、日本に来たベトナムの青年たちが自分で自分の身を守り、日本人を含む誰かに頼ることができる手段になる。

岡部:その通りです。「スマイル」は渡航前、滞在中、帰国後ごとに必要なあらゆる情報を提供します。たとえば、そこで事前に悪徳ブローカーやブラック企業の情報を知ることができれば、多額の借金を背負ったり、実習先から失踪する状況を避けることができる。

 みんなで情報を共有すれば、自ずと現地のブローカーや日本の受け入れ企業の体質も変わっていくはずです。だから、私は日本で傷ついた子たちに「後輩に同じ思いをさせたくないなら、自分の手でその情報を伝えるんだ。そのための場所は自分が作る」と話しています。

 私はこの問題で自分の無力を嫌というほど思い知らされました。どれだけ個別に相談に乗っても、相談者はどんどん生まれてくる。監理団体に勤めても、目の届く範囲の子たちしか守れない。だから、私も他人に助けを求めます。いまの私の信条は「他力本願」です。「スマイル」が様々な人をつなぎ合わせ、この問題を解決する一助になることを心から願っています。

(4月5日インタビュー、聞き手・構成 杉原悠人)

提供元/月刊日本編集部

げっかんにっぽん●「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

おかべぶんご●「福島外国人実習生・留学生支援ネットワーク」代表。ベトナム・ホーチミン出身で、本名はファム・ニャット・ブン。8歳で難民として来日し、福島県郡山市出身の日本人女性と結婚した。市内でベトナム料理店を経営していた2017年、実習生が低賃金や雇用主からの暴力に苦しむ姿を目の当たりにし、力になりたいと支援ネットワークを設立

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