「脱ビジネスウェア」に舵を切るメンズ百貨店――若者集客に成功した「超意外」な店舗とは!?

HARBOR BUSINESS Online / 2019年4月27日 8時33分

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阪急メンズ東京にある「TENGA STORE TOKYO」。レンガ調のアメリカンな内装が特徴だ。店員氏にことわれば看板の「巨大TENGA」と記念撮影することも可能だという。来店の際にはぜひ

◆リニューアルを果たした2つのメンズ百貨店

 この春、リニューアルを迎えた「新宿伊勢丹メンズ館」(新宿区、2019年3月16日リニューアルオープン)と「阪急メンズ東京」(千代田区、2019年3月15日リニューアルオープン)。

 東京都心における同業態のライバル店としてしのぎを削ってきた両店であるが、今回のリニューアルでは、伊勢丹がオーダー商品を強化しコンシェルジュサービスを導入するなど百貨店の王道ともいうべき「高感度なラグジュアリー」路線を崩さなかったのに対し、阪急は新たにヴィンテージや中古レコードの売場を導入するなど、百貨店の常識を覆した「個性が強いマニアック」路線へと転換。「正反対」ともいうべき改装内容となったのは前回記事で述べた通りだ。

 しかし、両店のリニューアルを詳しく見ていくと、いくつかの大きな「共通点」も見えてくる。

◆両店ともに縮小された「ビジネスウェア」

 両店の改装における最も大きな「共通点」は「紳士服売り場の花形」である「ビジネスウェア」売場の縮小だ。

 その理由の1つとして挙げられるのが「ロードサイド型紳士服チェーン」の台頭であることは言うまでもない。

 かつて、紳士服は長らく百貨店や総合スーパー、個人が経営する「街の紳士服店」が主要販売店であり、バブル期前後までは「就職の際にデパートで紳士服を買う」という経験をした人も多かったであろう。この頃は、百貨店各社が「自社開発スーツブランド」(PB商品)の開発にしのぎを削っていたほどであった。

 しかし、1980年代後半から1990年代初頭にかけて「洋服の青山」、「AOKI」、「はるやま」などといったロードサイド型紳士服チェーンが台頭。高級ブランドスーツのデザインを意識した低価格かつ機能性が高いスーツの登場は国内のスーツ市場を一変させ、「街の紳士服店」は次々と姿を消し、百貨店における紳士服市場も縮小傾向となった。

 さらに、2000年代に入ると、こうしたロードサイド型紳士服チェーンは中心市街地エリアへの出店攻勢を強め、東京都心でも多くみかけられるようになったほか、ユニクロなどファストファッションチェーンによるビジネスウェア参入も相次いだ。近年、これらの紳士服チェーンは青山の「THE SUITS COMPANY」、コナカグループの「SUIT SELECT」に代表されるツープライススーツ専門店や、青山の高級業態「UNIVERSAL LANGUAGE」などのように「都心型業態」「高級業態」の開発も進めており、近年は紳士服チェーンが駅ビルやファッションビル、なかには百貨店自体へと出店することも当たり前となった。

 伊勢丹メンズ館が出店する新宿駅周辺、阪急メンズ東京が出店する有楽町駅・銀座駅周辺においても、こうした大手紳士服・ファストファッション店の旗艦店が数多く出店していることからも分かる通り、今や一般男性にとって紳士服店やファストファッション店のスーツは「無難な選択」「可もなく不可もない選択」として幅広い層に定着している。それに加えて近年は働き方の多様化も進んでおり、必ずしもスーツを着用しなくていい職場も増えてきている。

 こうした状況下においても、多くの百貨店の紳士服売り場は「ビジネスウェア中心」の売場づくりが続いており、とくに伊勢丹は2015年12月に東京駅前・丸の内にビジネスマンをターゲットにビジネスウェアを中心とした品揃えの「イセタンサローネメンズ」を出店させるなど、近年も都心で働くビジネスマンへのファッション提案を怠って来なかった。

 それだけに「東京都心のメンズ百貨店がビジネスウェアを縮小した」ことは、百貨店業界にとって「大きな路線転換」であると捉えられる。

◆百貨店が「ストリート系」重視に舵を切ったワケ

 それでは、こうしたビジネスウェア売場はどういった売場に転換されたのか――その1つは、言うに及ばす「カジュアルウェア売場」である。

 とくに、今回のリニューアルで両店ともに取り扱いが拡大されたとみられるブランドの代表格が「オフホワイト」や「バレンシアガ」だ。

 新興のストリート系ブランドの代表格・オフホワイトとオートクチュールやバッグで知られる老舗ブランド・バレンシアガでは立ち位置が大きく異なると思う人も多いかも知れないが、実はバレンシアガも近年はストリートスタイルの商品を次々にリリースしており、どちらも高級ストリート系ブランド界においてはトレンドとなっている。つまり、これらは両店が「カジュアル強化」に舵を切ったことを象徴するものであるといえる(最も、両ブランドはカジュアルといえどもTシャツでも5万円前後するため「カジュアルウェア」として購入する層は限られてくるのだが)。

 こうした「メンズ百貨店のカジュアル強化」の大きな要因として挙げられるのが、都心における「感度が高いメンズファッション売場の相次ぐ縮小」であろう。

 以前より、百貨店業界に限らずアパレル業界全般において紳士服・メンズウェアの売上規模は小さく、投資優先度の低い市場と言われてきた。総務省統計局が実施した2014年全国消費実態調査によると、単身世帯の被服及び履物に対する消費支出は女性が5.4パーセントなのに対し、男性はその6割に満たない3.1パーセント。日本百貨店協会が発表した2019年1月の商品別売上高においても、婦人服・洋品が約1129億円に対し、紳士服・洋品は約393億円と、なんと3分の1ほどの売上規模しか占めていない。一般的な百貨店やファッションビルが、ファッション分野に対して多額の消費支出を行う女性を主要顧客とすることは経済活動として自然な流れだ。

 そして近年、百貨店やファッションビルを含めた多くの実店舗の多くが通販との競合により効率化を迫られるなか、メンズ売場は店舗運営の効率化による「売場縮小」の対象となりやすかった。最近、百貨店のインテリア売場に大手家具・雑貨店「ニトリ」が出店していることを良く見かけようになったが、それと同様に縮小されたメンズ売場跡についても大型専門店へと転換されることが多く、そこには大手紳士服店やファストファッション店が進出する例も多くある。

 こうしたなか、東京を代表する若者向けメンズファッションビルであった「ルミネマン渋谷」が2017年7月に閉館、「SHIBUYA109メンズ」が2019年2月に業態転換(メンズ専門業態を廃し「MAGNET by SHIBUYA109」に転換)。さらに、B館の大部分がメンズファッションで占められる「西武渋谷店」も再開発が検討されるなど、ファッション感度の高い男性からは「ここ数年で一気に買い物する場所が減ってしまった」と失望の声が聞かれていた。

 つまり今回の両店の改装には、「これまでファッションビルなどを利用していたようなファッション感度が高く比較的若い男性をメンズ百貨店市場に取り込みたい」という思惑も大きいのではないだろうか。

 伊勢丹の発表によると、メンズ館の既存顧客である約265万人の平均年齢は49.5歳であり、開店時より大きく上がっているという。ファッションビルを利用するような「若年層の取り込み」は喫緊の課題だ。

◆「コト消費」「こだわり」重視の戦略

 そしてもう1つ、両店ともに増加したのが「コト消費」に繋がるような体験型・時間消費型の売場や、「自分だけのこだわりの商品」を購入することができるオーダーメイド商品やヴィンテージ商品の売場だ。

 百貨店業界では以前より「モノ消費」から「コト消費」への転換が課題として挙げられているが、今回の両店リニューアルにおいても、趣味的商品の強化といった消費者嗜好の変化、価値観の多様化に応えるような時間消費的要素が強い売場が増えている。

 例えば、伊勢丹ではプロモーションスペースやコミュニケーションスペースを増やし、新たに一部無料体験も可能な男性化粧品・香水のお試しコーナーや日本最大級のオーダーシャツコーナー、そしてアート作品やDJブースまでもが設置されたほか、阪急ではオリエンタルラジオ中田敦彦氏が手掛ける「幸福洗脳」やコンドーム専門店「コンドマニア」の自販機の設置が行われたほか、見るだけでも楽しめるアート作品やヴィンテージアイテムの売場も導入された。これら両店の体験型・時間消費型売場の内容からも、何とかして「若者を取り込みたい」という強い思いが感じられる。

◆「最も若者を取りこめていた売場」は何と……!!

 一方で、実際に今回リニューアルを行った両店へと足を運ぶと、新たな課題も浮かび上がる。

 オープニングセール中の両店では、ともに中高年を中心に縮小されたビジネスウェアのフロアへの来店客が多く、拡大されたカジュアルウェアの売場と比較しても混雑していたのだ。

 まだまだ顧客にとっては「メンズ百貨店=オトナがスーツを買いに行くところ」というイメージが強く、今回の「脱ビジネスウェア依存」はまさに博打のような改装であったことが伺い知れる一方で、両店が取り込みたいであろう20~30代の若者に対しての「カジュアル強化」についてはアピール不足であると感じられた。

 そうしたなか、阪急メンズ東京ではしっかりと若者の「来店導線」を築いている店舗があった。何を隠そう、それこそがアダルトグッズ店「TENGA STORE TOKYO」だ。

 「TENGA STORE TOKYO」が立地するのは6階で、その隣には「ヒステリックグラマー」や「オニツカタイガー」など少し有名ブランド店が出店する場所。先述したコンドーム専門店「コンドマニア」も同じフロアにある。

 もちろん百貨店にTENGAが出店するのは史上初のことだが、店舗はアダルトショップには見えないアメリカンな内装が特徴で入りやすい雰囲気。面積は狭いもののTENGAのみならずTENGAに因んだアパレルや雑貨などが所狭しと陳列されている。

 「百貨店にTENGA」と話題をさらった同店は一見して「イロモノ」と思われるが、他テナントよりもメディアで取り上げられる機会が非常に多く、SNSでの拡散も相まって「生まれ変わった阪急メンズ」の象徴的存在となりつつある。

 取材をおこなったところ、来店客の多くが報道やネットで見て興味本位で「TENGA STORE」を訪れたというが、同店がある高層エリアには若者向けの尖ったアパレルやヴィンテージ、中古レコード店などが出店しているため「TENGA STORE」を訪れたカップルが他店舗への回遊をしている様子もみられた。

 最も、今回「TENGA STORE」が混雑していた要因は報道やSNSによるデモンストレーション効果によるものであることは言うまでもなく、今後も同店が継続して賑わいを見せ、高層階におけるマグネットの働きを果たしていけるかどうかは未知数だ。しかし果たして、阪急にとってこうした「TENGAの吸引力」は「想定内」だったのであろうか。

 2つのメンズ百貨店が挑戦する「脱・ビジネスウェア」。

 果たして今回の改装が吉と出るか凶と出るか――両店の売上高発表に業界全体の注目が集まっている。

 無論、両店にとっての一番大きな課題は「若者が高感度な高級カジュアルファッションを買うお金がない」ことなのであろうが……。

<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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