映画『主戦場』で再び注目の慰安婦問題。12年前の安倍総理答弁を信号無視話法分析

HARBOR BUSINESS Online / 2019年5月4日 8時32分

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映画『主戦場』公式サイト

◆話題の映画『主戦場』に登場した12年前の安倍首相答弁

 慰安婦問題に正面から向き合い、各地の映画館で連日立ち見が出るほど注目を集めている映画『主戦場』。

 この映画は主張が真っ向から対立する関係者へのインタビューを中心に構成されているが、ある国会質疑の映像も紹介されている。

 今から遡ること12年前の第一次安倍内閣時代。2007年3月5日の参議院予算委員会で当時民主党(現・立憲民主党)の小川敏夫議員が慰安婦問題について安倍総理に質問。この質疑には慰安婦問題に関する重要な論点(河野談話、慰安婦は強制連行されたのか、米国議会での慰安婦の証言、吉田清治氏の証言、等)が詰め込まれており、これらの論点に対する安倍総理の認識を垣間見ることができる。

 そこで、本記事では当日の小川議員の慰安婦問題に関する質問全11問に対する安倍総理答弁を信号機のように3色(青はOK、黄は注意、赤はダメ )で直感的に視覚化していく。なお、色分けについては配信先によっては反映されないため、その場合、HBOL本体のサイトでご覧になることをオススメする。

 ただし、以下2つの注意点をご理解頂きたい。

(1)この分析では小川議員の質問に安倍総理が答えたどうかに着目する。つまり、慰安婦問題の真偽には言及しない。真偽については、ぜひ公開中の映画「主戦場」をご覧の上、自ら考えて頂きたい。

(2)これまでの信号無視話法分析のルールと異なり、灰色(不要な言葉、意味不明な言葉、似た言葉の繰り返し)を使わない。「まさに」「いわば」などの不要な言葉や似た言葉の繰り返しが多い安倍総理の答弁を読みやすくする上で灰色は有効だったが、ある理由によって今回は使わない。理由は本記事の最後で説明する。

 また、この質疑で安倍総理は「強制」という言葉を狭義と広義の2つの意味で用いている。

狭義の強制:官憲による強制連行(慰安婦狩り)

広義の強制:経済状況による事実上の強制、業者による事実上の強制

 この2つの違いに留意しながら、質疑の内容を読み進めて頂きたい。

◆色別集計結果。意外なことに「青」多し!?

 この質疑における安倍総理の回答を集計した結果、このようになった。

<色別集計・結果>

●安倍総理:赤信号45%、黄信号9%、 青信号46%

 安倍総理にしては珍しく、青信号が半分近くを占めている。(これまで取り上げてきた安倍総理の答弁では青信号は1割前後でほとんど質問に答えていないケースが多かった)

 どのような質疑だったのか詳しく見ていきたい。

◆安倍答弁1問目、2問目

<1問目> まず冒頭の1問目で小川議員は河野談話(1993年に慰安婦問題に関する旧日本軍の関与を認定した河野洋平官房長官の談話)に対する安倍総理の認識を確認する。

小川議員:

「慰安婦問題。まさにアメリカの下院について、この慰安婦について日本国が謝罪すべきだというような決議案が出るかもしれないというような状況になってございます。総理はこの慰安婦問題について国の責任を認めた宮澤内閣時代のこの河野官房長官談話についてまずどのようにお考えですか。」

安倍総理:

「この談話につきましては先の国会で答弁をいたしましたようにこの河野官房長官談話ということにつきましては基本的に継承していくということを申し上げているわけであります。(青信号)」

 河野談話を「継承していく」と回答しており、青信号とした。

<2問目>

 1問目で河野談話に対する総理の認識を確認した上で、小川議員は論点を安倍総理の「強制はなかった」発言に移していく。

小川議員:

「最近、総理は「強制はなかった」というような趣旨の発言をされましたか。この慰安婦の問題について。」

安倍総理:

「その件につきましても昨年の委員会で答弁した通りでございまして、この議論の前提となる私がかつて発言をした、いわば教科書に載せるかどうかという時の議論について私が答弁をしたわけでございます。

 そして、その際私が申し上げましたのはですね、いわば狭義の意味においての強制性について言えば、これはそれを裏付ける証言はなかったということを昨年の国会で申し上げたところでございます。(赤信号)」

 2つの論点すり替えが行われており、全て赤信号とした。

●1段落目

小川議員の質問:「強制はなかった」発言の有無

↓すり替え

安倍総理の答弁:「教科書に載せるか」の議論

●2段落目

小川議員の質問:「強制はなかった」発言の有無

↓すり替え

安倍総理の答弁:強制を証明する証言の有無

 また、2段落目で「裏付ける証言は無かった」と答弁しているが、あえて狭義の強制(官憲による強制連行)に限定している。

◆安倍答弁3問目、4問目

<3問目>

 安倍総理が2問目に答えなかったため、小川議員は「3月1日」と具体的に日付を具体化した上で再度同じ内容を質問。

小川議員:

「この3月1日に「強制はなかった」というような趣旨の発言をされたんじゃないですか。」

安倍総理:

「ですから、この強制性ということについてですね、何をもって強制性ということを議論しているかということでございますが、いわば官憲が家に押し入っていって人を人さらいのごとく連れていくという、そういう強制性はなかったということではないかと。こういうことでございます。(赤信号)

 そもそも、この問題の発端としてですね、これは確か朝日新聞だったと思いますが、吉田清治という人が『慰安婦狩りをした』という証言をしたわけでありますが、この証言は全く、後にでっち上げだったことが分かったわけでございます。つまり、発端はこの人がそういう証言をしたわけでございますが、今申し上げましたような顛末になったということについてですね、(黄信号)

 その後、いわばこのように慰安婦狩りのような強制性。官憲による強制連行的なものがあったということを証明する証言はないということでございます。(赤信号)」

 1段落目と3段落目は論点すり替えが行われており、赤信号とした。ちなみに2問目と同様に狭義の強制(官憲による強制連行)について述べている。

1段落目

小川議員の質問:「強制はなかった」発言の有無

↓すり替え

安倍総理の答弁:人さらいのような強制の有無

3段落目

小川議員の質問:「強制はなかった」発言の有無

↓すり替え

安倍総理の答弁:強制を証明する証言の有無

 2段落目は質問に関係する背景や経緯(吉田清治氏に関する内容)を述べており、黄信号とした。

 結局、安倍総理は「強制はなかった」発言に関する2回にわたる質問(2問目、3問目)に一言も回答しなかった。

<4問目>

 安倍総理が「証言はない」という趣旨の答弁を繰り返す中、小川議員は米国議会での慰安婦の証言に論点を移す。

小川議員:

「今、『証言はない』と言いましたね。しかし、実際に、このアメリカの下院において、アメリカ合衆国の下院において慰安婦をされていた方がそういう強制があったという証言をしている。だから下院で決議案が採択されるかどうかということになっているんじゃないですか。今、『証言がない』とおっしゃいましたね。実際にそういう体験をしたというふうに証言している慰安婦が現にいるわけですよ。そういう人たちの発言は証言じゃないんですか。 

安倍総理:

「いわば、裏付けのある証言は無いということでございます。(青信号)

 証言といえば、先ほど申し上げましたように、吉田清治氏の証言も証言じゃないんですか。全くこの人の証言はでっち上げだったということでございます。(赤信号)」

 1段落目、米国議会における慰安婦の証言は「裏付けのある証言ではない」という安倍総理の認識がはっきりと確認できる。この発言の是非は別として、質問には回答しているため青信号とする。

 一方、2段落目はあからさまな論点すり替えが行われており、赤信号とした。

小川議員の質問:慰安婦の証言

↓すり替え

安倍総理の答弁:吉田清治氏の証言

◆安倍答弁5~7問目

<5問目>

「狭義の強制(官憲による強制連行)は無かった」という答弁を繰り返す安倍総理に対して、小川議員は5~7問目で実に3問続けて、「どのような強制があったのか」という観点で質問していく。

小川議員:

「一度確認しますがね、そうすると、家に乗り込んで無理やり連れてきてしまったような強制はなかったと。じゃ、どういう強制はあったと総理は認識されているんですか。」

安倍総理:

「この国会の場でですね、こういう議論を延々とするのが私は余り生産的だとは思いませんけれども、あえて申し上げますが、いわば、これは昨年の国会でも申し上げましたように、そのときの経済状況というものがあったわけでございます。ご本人が進んでそういう道に進もうと思った方は恐らくおられなかったんだろうとこのように思います。また、間に入った業者がですね、事実上強制をしていたというケースもあったということでございます。そういう意味において広義の解釈においてのですね、強制性があったということではないでしょうか。(青信号)」

 広義の強制(経済状況による事実上の強制、業者による事実上の強制)はあったと回答しており、青信号とした。

<6問目>

小川議員:

「それは業者が強制したんであって国が強制したんではないという総理のご認識ですか。」

安倍総理:

「これについては先ほど申し上げましたように、いわば乗り込んでいってですね、人を人さらいのように連れてくるというような強制はなかったということではないかと、このように思います。(赤信号)」

 論点すり替えが行われており、赤信号とした。

小川議員の質問:「国」は強制してない(=広義の強制)という認識か

↓すり替え

安倍総理の答弁:人さらいのような強制(=狭義の強制)の有無

 直前の5問目で安倍総理が回答した広義の強制(経済状況による事実上の強制、業者による事実上の強制)について小川議員は質問したにも関わらず、回答内容はまたも狭義の強制(官憲による強制連行)に戻っている。

<7問目>

小川議員:

「だから総理、私は聞いているじゃないですか。家に乗り込んで連れていってしまうような強制はなかったと。じゃ、どういう強制があったんですかと聞いているわけですよ。」

安倍総理:

「もう既にそれは河野談話に書いてあるとおりであります。

それを何回もですね、小川委員がどういう思惑があってここでそれを取り上げられているかということは私はよく分からないわけでありますが、今まさにアメリカでそういう決議が話題になっているわけでございますが、そこにはですね、やはり事実誤認があるというのが私どもの立場でございます。(赤信号)」

 1段落目は事実上の回答拒否であり、赤信号とした。

 続く2段落目は論点すり替えが行われており、こちらも赤信号。

小川議員の質問:どのような強制があったか

↓すり替え

安倍総理の答弁:米国議会の決議

 以上、8問目以降の信号分析は後編でさらに紹介していきたい。

<文・図版・動画作成/犬飼淳 TwitterID/@jun21101016>

いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。最近は「赤黄青で国会ウォッチ」と題して、Youtube動画で国会答弁の視覚化に取り組む。

 犬飼淳氏の(note)では数多くの答弁を「信号無視話法」などを駆使して視覚化している。また、同様にYouTubeチャンネル(日本語版/英語版)でも国会答弁の視覚化を行い、全世界に向けて発信している

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