夢は『ガンダム』のスペース・コロニー!?  Amazon創業者が描く、月開発と宇宙植民の野望

HARBOR BUSINESS Online / 2019年5月16日 8時31分

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ジェフ・ベゾス氏が公開した月着陸機「ブルー・ムーン」の実物大模型 (C) Blue Origin

◆ジェフ・ベゾス、月着陸機を公開

 Amazon創業者で、宇宙ベンチャー「ブルー・オリジン」も率いる、実業家のジェフ・ベゾス氏は2019年5月9日、開発中の月着陸機「ブルー・ムーン」を公開した。さまざまな大きさの科学機器や探査車などを搭載して地球から月へ運べるのが特徴で、人が乗ることも可能だという。

 さらに記者会見では、スペース・コロニーを建設し、宇宙植民を実現したいという展望も語られた。

◆ブルー・オリジンの月着陸機「ブルー・ムーン」

 ブルー・オリジン(Blue Origin)は、Amazon.comの創業者で、ワシントン・ポスト紙のオーナーとしても知られる、ジェフ・ベゾス氏率いる宇宙企業である。創業は2000年で、すでに長い年月が経っているが、長らく秘密主義を貫いていたこともあって、その存在はまだあまり知られていない。

 しかし、ベゾス氏はこの宇宙企業にかなりの”お熱”で、自身が持つAmazonの株式を毎年10億ドル相当売却し、同社の資金に充てている。

 現在同社は、主に人や科学機器などを搭載して高度100kmの宇宙空間まで到達できる小型ロケット「ニュー・シェパード(New Shepard)」と、大型の人工衛星を飛ばせる大型ロケット「ニュー・グレン(New Glenn)」という、2種類のロケットを開発している。

 ベゾス氏はまた、かねてより「月の経済開発をしたい」という展望を語っていた。たんなる月探査ではなく、月に人類が生活する拠点を作り、経済圏を広げようというのである。2017年には、ベゾス氏がオーナーを務めるワシントン・ポスト紙を通じて「将来、人類が月で生活するために、Amazonのような宅配サービスを展開することを考えている」と表明している。

 そのための第一歩となるのが、今回公開された月着陸機「ブルー・ムーン(Blue Moon)」である。ブルー・ムーンは、地球を回る軌道から、月を回る軌道へ飛行し、地表に着陸することができる能力をもつ。打ち上げには、前述した開発中のニュー・グレンを使う。

 運べる貨物の量は3.6トンで、これは従来の月探査機などと比べるとかなり多い。貨物の搭載区画も多く、複数の小型衛星や、観測機器、さらに探査車を同時に搭載することができる。

 ロケット・エンジンの推進剤(燃料と酸化剤のこと)には、液体酸素と液体水素を使う。月には水があるといわれており、その水を電気分解して酸素と水素を取り出し、推進剤として使うことを念頭に置いている。つまり将来的には、月で推進剤の現地調達ができるということである。

 また、この酸素と水素は、燃料電池の燃料としても使う。月は14日ごとに昼と夜を繰り返しており、太陽の光が当たらない期間が長い。さらに月の極地には、1年中ほとんど陽の光が当たらない場所もある。その中で活動を続けるため、太陽電池ではなく燃料電池を採用している。

◆2024年の有人月着陸も可能!?

 ベゾス氏はまた、ブルー・ムーンは宇宙飛行士を乗せて飛行し、月に着陸することも可能だと明らかにした。こちらの詳細はまだ不明だが、想像図からは、標準のブルー・ムーンより大型化しており、また月から離陸し、地球に帰還するための「上昇機」と呼ばれる部分が搭載されているなどの変化がみられる。

 ベゾス氏がいまこの時期に、こうした構想を発表した背景には、もちろん同氏とブルー・オリジンの目標である、月の経済活動に向けた第一歩としての意味合いもあるが、米国航空宇宙局(NASA)やトランプ大統領へのアピールもある。

 NASAはかねてより、「月への回帰」を掲げ、有人の月探査計画を進めると同時に、民間企業を活用して、より低コストかつ効率的に、月に物資や科学機器などを運ぶ計画も進めている。ブルー・オリジンはこうした計画に深く関与しており、ブルー・ムーンのさまざまな機器を大量に運べるという能力は、まさにこれに合わせたものだろう。

◆トランプがぶち上げた月着陸構想

 さらに、トランプ大統領は今年3月、2024年末までに同国の宇宙飛行士をふたたび月に着陸させるという構想を発表した。それまでNASAは、前述のように民間企業と協調しつつ、まず月を回る軌道に宇宙ステーションを建造し、そこを足がかりにして有人月探査や、あるいは有人火星探査を目指すという、2030年代までを見据えた長期的なプランを立てていた。

 しかし、トランプ大統領のこの指令により、それを大きく変更する必要が発生。ロケットや宇宙船の開発は間に合うのか、影も形もない月着陸船はどうするのかなど、現場では大きな混乱が生まれている。

 ベゾス氏はそれに応えるかのように、「有人月着陸に対応したブルー・ムーンは、2024年までに米国人をふたたび月に着陸させるという現在の政権の目標を満たすことができる」と語る。ブルー・ムーンの存在は、NASAとトランプ政権にとって救いの手となるかもしれない。

 もともとベゾス氏とトランプ大統領の関係は最悪で、これまでも政治やビジネス、個人的なスキャンダルに至るまで、さまざまな面で対立を繰り返してきた。それでも、こうしたトランプ大統領に迎合したプランを即座に打ち出せるところをみるに、じつに機を見るに敏な人物といえよう。

◆地球を救うための宇宙植民という究極の目標

 もっとも、ベゾス氏にとってブルー・ムーンの開発や、そもそもブルー・オリジンという会社を立ち上げた本当の目的はほかにある。2024年に月に宇宙飛行士を送り込もうというのも、地球と月間にAmazonのような物資輸送サービスを展開しようというのも、そのための手段、通過点に過ぎない。

 ベゾス氏はかねてより、ブルー・オリジンを立ち上げた動機を「人類が宇宙に進出し、活動の場とするため」だと語っている。つまり、人類の経済圏を宇宙にまで広げようというもので、月の経済開発はまさにそのひとつである。

 ベゾス氏はまた、都市のような巨大な宇宙ステーション、いわゆる「スペース・コロニー」の建設についても言及。もちろん月着陸とは違い、スペース・コロニーは一朝一夕に造れるものではないが、ベゾス氏は「自分の子ども、あるいは孫の世代で実現できるよう、その基礎を造りたい」とし、そのためにニュー・グレンやブルー・ムーンといったロケットや宇宙船などの開発を行っているのだと語った。

 なぜ、人類を宇宙に進出させようとしているのか? その目的をベゾス氏は「地球を守るためだ」と語る。

◆宇宙進出を目指す2人の富豪

 ベゾス氏曰く、地球は人類にとって十分に大きくはなく、いずれ資源やエネルギーを使い果たすと予想。そこで、重工業と鉱業を宇宙に移し、地球には住宅と軽工業のみ残すという形に切り分けることで、地球を守ろうというのである。そしてそのために、人類の経済圏を宇宙に広げる必要があり、その実現のためにロケットや宇宙船が必要だ、と主張する。

 この考え方は、同じ宇宙ベンチャーの「スペースX」を率いるイーロン・マスク氏とはやや対照的である。マスク氏も人類が宇宙へ飛び出していくべきと主張し、そのための宇宙船の開発に勤しんでいるが、その根底にあるのは「地球はいつか、隕石の衝突や伝染病などで生命が死に絶えるかもしれない。それを乗り越えるため、地球以外の天体に住めるようにしておかなければならない」という、いわば恐怖心である。

 動機は違えど、同じ人類の宇宙進出という目標に向かって、私財さえも投じてひた走る2人の富豪。そのその行き着く先の未来には、なにが待ち受けているのだろうか。

<文/鳥嶋真也>

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

Webサイト: КОСМОГРАД

Twitter: @Kosmograd_Info

【参考】

・Blue Origin | Going to space to benefit Earth (Full event replay)

・Blue Origin | Blue Moon

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