世界的ブランド「キャロライナ・ヘレラ」の新コレクション、メキシコ政府から「文化の盗用」と非難

HARBOR BUSINESS Online / 2019年6月16日 15時30分

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Carolina Herreraの新コレクション「RESORT2020」のサイト

◆ベネズエラ出身の名デザイナーのブランドに降って湧いた「文化の盗用」批判

 マリア・カロリーナ・ホセフィナ・ペカニンス・ニーニョという名前が誰のことかと尋ねられても、それに答えられる人は誰もいないであろう。この名前の本人とはベネズエラ出身のファッション・デザイナー「キャロリライナ・ヘレラ(Carolina Herrera)」である。

 ヘレラはベネズエラの首都カラカス出身で、軍人の娘として裕福な家庭に生まれ、13歳の時に祖母から当時世界のファッション界で名を馳せていたスペイン・バスク出身のクリストーバル・バレンシアガを紹介してもらった。幼少の頃から高級ファッションと身近に接していた彼女であった。1981年にファッションショーで自らのコレクションを発表したのを皮切りにラテンアメリカを代表するファッションデザイナーとして成長した。

 彼女がデザインした服を長年好んだ女性にジャクリーン・ケネディー・オナシスがいる。ニコール・キッドマン、アンジェリーナ・ジュリー、メリル・ストリープといったハリウッドのスターも彼女のファッションのファンである。

 また香水・フレグランスの分野においても彼女のブランドがショップコーナーの一角を占めるまでになっている。(参照:Wikipedia)

 現在彼女は80歳で、1年前から32歳のウェス・ゴードンをクリエイティブ・ディレクターに任命して彼女は第一線から退いている。ところが、ウェス・ゴードンが「Risort 2020」と題して発表したコレクションの中に、メキシコ民族の伝統ある服のデザインをモチーフにしたものが「文化の盗用」(*他民族の文化などを無関係の他者が表層的に模倣すること)にあたるとして、メキシコ政府のアレハンドゥラ・フラウスト文化相が5月10日付でキャロライナ・エレラとウェス・ゴードンの両名宛てに正式に苦情の書簡が送ったことが明らかにされたのである。(参照:「El Pais」、「La Vanguardia」)

◆メキシコの伝統的文様を商業的デザインに使用

 その苦情を伝える書簡の中で、フラウスト文化相は「コレクションの一部はメキシコの特定の地方民族の世界観に通じるものだ。そのルーツは明らかな根拠に基づいて発展したもの。それをファッション企業が使用した根拠を公に説明して欲しい」と訴え、更に、「この一連の服を提供した民族共同体が、このコレクションの販売による恩恵を受けるようになるのであろうか」と尋ねたのである。

 そのひとつは、白の下地に光沢ある動物の刺繍に花柄と枝葉模様が混ざっているものはイダルゴ州の人口18000人の小都市テナンゴ・デ・ドリア(Tenango de Doria)に伝わっている刺繍柄から模写したものであると指摘されている。

 次にダークの下地にふんだんな花模様の刺繍はオアチャカ州の複数の都市を囲むテウアンテペク(Tehuantepec)地峡を代表する刺繍柄である。

 さらに、メキシコを代表する模様柄サラペ・デ・サルティーリョ(Sarape de Saltillo)である。ルーツはメキシコ北部のトラスカラ州だとされているが、今ではメキシコを代表する織物となっている。

◆法的には問題ないが……

 しかし、このデザインは、一人のデザイナーの作品からの「盗作」ということではなく、すでに公知されているデザインから模写したということで法的に訴えることはできない。ただ、同文化相は世界的に著名なデザイナーがメキシコの土着民族の文化が表現された民族衣装からヒントを得てそれを自らのコレクションに無断でそれを加えたということを問題にしているようである。

 フラウスト文化相はコレクションRisort 2020の一部の作品はメキシコの土着民族の文化を守る権利という点において議論されるに値するものだとしている。それは倫理面で配慮するという原則について注意を促すべく喚起される必要があるとしている。

◆アムロ大統領政権下の土着民俗文化保護

 これはペーニャ・ニエト前大統領の政権では恐らく取り上げられなかったであろう。ところが、昨年12月就任したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)大統領は社会で差別されている人たちへの配慮を彼の政治の重点の一つに挙げている。その意味で、メキシコの土着民族の文化などを守るということにも関心をはらっているのである。だから、同文化相はキャロライナ・エレラとウェス・ゴードンの両名に対し模写の基本となった民族衣装の所有者である土着民に新しいコレクションを販売した利益の一部を還元する意向があるのか尋ねているのである。

 同文化相の苦情の書簡に対し、その2日後にウェス・ゴードンから回答があった。次のようにゴードンは答えた。「Resort 2020のコレクションを通して、メキシコ文化の豊かさに敬意を表し、また数々の素晴らしい民芸作品を傑出させるものだ」「この国への愛着とそこで作られている信じられないほどの素晴らしい作品を密かに伝えたいと望んでいた」と述べた。そして、「メキシコを旅行した時に見た民芸作品への私からの賞賛は年とともに高まって行った。それをこの新しいコレクションでもってこの素晴らしい文化遺産をより価値あるものにしたいと試みている」と32歳のゴードンが回答として表明したのである。

 しかし、彼女の回答にはそこからインスピレーションを得たことは認めながらも、新作の販売による利益について何らかの形で還元したといういうことには一切触れていないという。37年間デザイナーとして活躍し、72回のファッションショーを行って自らのコレクションを紹介して来たキャロライナ・エレラにファッションの創作を任されたウェス・ゴードン。その彼女からのメキシコ政府フラウスト文化相に宛てた回答としては些か不十分だと同文化相は判断するであろう。

<文/白石和幸>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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