「建造物侵入罪」濫用で狭められる報道の自由

HARBOR BUSINESS Online / 2019年8月16日 8時33分

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菅原一秀衆議院議員

Contents1 国会議員事務所が取材逃れのために刑事告訴2 2年間で3度目の「建造物侵入」案件3 事実を報道させないための立入禁止通告4 前例のない「報道の自由と建造物侵入罪」の争い5 事件化していない類似事例6 菅原一秀議員の問題

◆国会議員事務所が取材逃れのために刑事告訴

 取材の問い合わせを無視する国会議員に取材を申し入れるため、ジャーナリストが事務所を訪問。秘書から「上の者に確認するので待って下さい」とソファに通され待っていたら、110番通報され警察官が押しかけてくる。さらに「建造物侵入」だと言われ刑事告訴までされる--。

 どこに犯罪の要素があるのか全く理解できないが、つい先日、実際に起こったことだ。

 告訴されたのは、私と鈴木エイト氏。ともに、「やや日刊カルト新聞」でカルト問題を取材しているジャーナリストだ。告訴したのは、菅原一秀衆議院議員(自民党=東京9区)の事務所である。

 事の経緯はこうだ。

 2017年、菅原議員が統一教会系の改憲集会に参加したとの情報や、菅原議員の運動員に統一教会信者が動員されているとの情報があり、翌2018年から鈴木エイトが取材を試みていた。その中で鈴木氏は今年5月、菅原議員と運動員が街頭で、カードサイズのカレンダー付きチラシを配布しているのを目撃。Twitterで公職選挙法違反の可能性を指摘した。

 すると6月に入って、鈴木氏のこの投稿が「プライバシー侵害」にあたるとして、Twitterアカウントがロックされた。鈴木氏の異議申し立てを受けTwitter社は翌日にはロックを解除したが、菅原議員サイドがTwitter社に通報した可能性があったことから、鈴木氏は公職選挙法違反疑惑の件と併せて菅原議員の事務所に取材を申し入れる。ところが菅原議員側は秘書が「折り返し連絡する」と言ったまま音沙汰なし。鈴木氏が電話をかけても居留守を使って無視するようになった。

 そこで6月19日、私と鈴木氏の2人で、練馬区内にある菅原議員の地元事務所に赴いた結果が、冒頭で紹介した通りの騒ぎになった。

 もちろん我々は取材を申し入れただけで、一度たりとも声を荒げる場面すらなかったし、事務所側から退去を求められたのは110番通報を受けて警察が到着した後のこと。退去を求められてからは速やかに退去している。

 これを犯罪とされてしまっては、公人に対して自由に取材することなどできなくなってしまう。

◆2年間で3度目の「建造物侵入」案件

 鈴木氏はこれが初めてだが、私自身はここのところ「建造物侵入罪」に問われるケースが続いており、今回で3件目になる。

 1件目は2018年1月のこと。東京・西日暮里にある幸福の科学施設「初転法輪記念館」という一般公開施設に立ち入ったことについて、幸福の科学が警察に被害届を提出。建造物侵入罪とされ起訴され、現在、東京地裁で公判前整理手続が行われている。

 幸福の科学の施設は、教団自身が「どなたでもご利用いただける宗教施設」として、非信者に対しても開放している。実際、初転法輪記念館も建物の1階の外壁に「ご参拝の方は4階にお上がり下さい」との看板があり、受付はなく、4階入り口は無人で誰でも自由に入ることができる状態だ。

 しかし私の場合、2012年に『週刊新潮』で幸福の科学学園について批判的なルポを執筆して以来、幸福の科学広報局から「教団施設やイベントへの立入禁止」を通告されていた。そのため、施設管理者の意思に反した立ち入りであるとして、建造物侵入罪に問われている。

 この裁判が始まった後の2018年10月、2件目の「事件」が起こる。幸福の科学が大学としての認可を得ないまま開設した宗教施設「ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)」で行われていたHSU祭に、私が立ち入ったことが建造物侵入罪にあたるとして、その場から地元の茂原署に連行され取り調べを受けた。警察は書類送検するとしているが、まだ送検されたという連絡はない。

 このHSU祭も、非信者も入場できる一般開放の催しだった。

◆事実を報道させないための立入禁止通告

 施設管理者の意思に反して立ち入れば建造物侵入罪になるというのが、建造物侵入罪の要件だが、そもそも幸福の科学が私に通告した立入禁止通告は、彼らが気に食わない記事を私が書いたことが理由だ。私には、何かを盗んだり壊したり活動を妨害するなどした前科があるわけでもない。

 立入禁止の原因となった『週刊新潮』でのルポは、幸福の科学学園が1億円の損害賠償を求めて民事訴訟を提起したが、週刊新潮と私の側の勝訴が2016年に確定した。週刊誌記事にしては珍しくと言ったら失礼かもしれないが、判決は、記事の内容について問題を指摘する部分が全くない、文字通りの完全勝訴だった。

 つまり幸福の科学は、「正しい記事」を書いた報復として、私を立入禁止にしたことになる。

 宗教法人は公益法人である。しかも幸福の科学は政治活動も行う公益法人だ。それが、気に食わない「正しい記事」への報復として特定のジャーナリストだけを一般公開施設から締め出し、立ち入ったら犯罪だという。これでは、取材の自由も報道の自由も国民の知る権利も全てないがしろになってしまう。

 私が立ち入った初転法輪記念館は、教組・大川隆法総裁が幸福の科学設立後初めて座談会を行った場所で、いまも当時の様子が再現されている。当時は、ステージ上に座談会のタイトルの幕が掲出されるだけの素朴な光景だった。しかし現在は、当時存在しなかったはずの法輪や「RO」(大川総裁のイニシャル)のマークで飾り付けられ、歴史的事実よりも個人崇拝色が強いきらびやかさが重視されていた。

 HSU祭では、大東亜戦争は正しかったとして、韓国人は日本に感謝すべきであるなどとする「愛国展示」などが行われていた。今年、大学としての設置認可を再申請する予定のHSUだが、学校での政治教育や学校による政治活動は教育基本法で禁じられている。

 こうした実態を知り伝えることができるのは、内部を取材するからだ。これが犯罪とされてしまえば、一般公開されている場所の実態すら報道することができなくなる。

◆前例のない「報道の自由と建造物侵入罪」の争い

 すでに立件されている初転法輪記念館の事件については、紀藤正樹弁護士を弁護団調として8人もの弁護団や多くの支援者がついてくれて、私の弁護や支援にあたってくれている。まだ公判前整理手続が続いている段階で公判開始の見通しも立っていないことから、記事として書けないことが多いが、無罪を主張することになりそうだ。

 弁護団の調べによると、建造物侵入罪はこれまで、意思に反して立ち入ったという形式論で扱われてきた前例しかなく、取材・報道の自由との兼ね合いが争われたケースが日本にはないという。私の今回の裁判が初めてのケースだというのだ。

 ジャーナリストが何かしらの事件や問題の現場に立ち入って揉める。ほかにも多くの事例があってもおかしくはなさそうに思える。実際、ほかにも事例はある。しかしそれらのケースでは、起訴されてもジャーナリスト側が略式起訴を受け入れ、裁判で争わずに罰金を払って終わらせてしまっている。罪を認めて罰金を払い、裁判を回避してきたのだ。

 私の場合は、これで処罰されるようでは、この先、幸福の科学に限らずほかのカルトへの取材も思うようにできなくなることから、検察官から略式起訴を打診された際に「裁判所にしっかり判断してもらいたい」として拒否した。そのため、取材・報道の自由との兼ね合いを争う日本初の裁判という運びとなった。

◆事件化していない類似事例

 以上の3件以外にも、私の取材をめぐって事件化していない事例が2つある。

 1つは、昨年、麻原彰晃を始めとするオウム真理教事件の死刑囚の死刑が執行される直前に結成された、森達也氏らによる「オウム事件真相究明の会」のへ取材だ。同会は、麻原の裁判が世論によって歪められ途中で終わってしまったのだというデマ(実際は麻原弁護団が控訴趣意書を締め切りまでに提出しなかったために裁判が終結した)を吹聴して、麻原の刑執行の一時停止などを主張していた。しかし直後に刑が執行されたため、同会の初めての集会が解散集会となった。

 結成当初から同会を批判していた私は、この解散集会を取材しようと事前に申し入れを行った。すると取材は許可されたが、私だけが動画の撮影とネット中継を禁じられた。ほかのメディアには許可されていた。

 メディア差別に従う必要を感じなかったので、私は会場で動画撮影と中継を行ったが、会側からカメラを遮るなど実力行使の取材妨害を受け、退去を要求された。「不法侵入だ」「警察を呼ぶ」とも言われた。

 実際には警察は来なかったし、後日、警察から連絡が来ることもなく、事件化はしていない。

 一般公開でメディアの取材も入れている、オウム事件という社会的に重要なテーマを扱う集会において、特定のジャーナリストにだけ不当な取材制限を課し、従わないと「不法侵入だ」と主張する。「オウム事件真相究明の会」がやったことは幸福の科学と同じだ。

 もう1件は、オウム真理教の後継団体のひとつ「ひかりの輪」(いわゆる上祐派)の本部施設への取材をめぐるものだった。

 ひかりの輪の本部がある世田谷区・烏山では、年に2回、団体の解散を求める地域住民にのデモが行われている。ひかりの輪本部前で住民側が抗議文を読み上げるが、ひかりの輪側は受け取りに出ては来ない。

 昨年5月、このデモを私が取材した際も同様だった。私はひかりの輪関係者が不在なのか、いるのに出てこないのかを確認するため、デモの数時間後にひかりの輪本部を訪ねた。

 本部が入るマンションには、ひかりの輪と無関係の一般住民も入居している。共同の玄関から入り、共同ポストを確認すると、デモ隊が投函した抗議文はポストに残されたままだった。しかし教団幹部が住む部屋のインターフォンを鳴らすと、教団幹部が出てきた。不在だったのではなく、部屋にはいたが抗議文の受け取りに出てこなかったというわけだ。

 後日、この取材に関してひかりの輪側から抗議を受けた。地元警察に対しても申し入れを行ったという。抗議の理由はほかにもあったが、マンションへの立ち入り自体については、私は「取材目的での立ち入りだから問題ない」として抗議を受け入れなかった。警察側も同じ理由で、ひかりの輪の申し入れを相手にしなかったようだ。

 するとひかりの輪は、マンションの一般住民の管理組合に働きかけ、共同玄関のドア付近に「報道目的での無断入館厳禁」という張り紙を掲出させた。ご丁寧にその写真まで送りつけてきた。今後は報道目的で立ち入っても「意思に反した立ち入り」ということになり、建造物侵入罪の要件を満たしてしまうぞ、という牽制のメッセージだ。

 「オウム事件真相究明の会」にしろ「ひかりの輪」にしろ、その主張は正当な取材をやめさせる利己目的にすぎない。それでも建造物侵入罪が「意思に反して立ち入ること」という形式論だけで成立する限り、テロ集団として団体規制法に基づく観察処分の対象となっている団体について当たり前の取材をするだけで、取材する側が犯罪者にされてしまう。

 事件化していないケースを含めると私自身、ここ1年半ほどの間に計5件もこうした場面に出くわしているのだ。

 「カルト」や「カルトに利する者たち」が「建造物侵入罪」という刑法の規定を活用し、実際に事件化させることはできなくても、それをほのめかして取材者を萎縮させようとする。裁判で報道の自由や取材の正当性を争ってもなおそれがまかり通るということになれば、今後いっそう、こうした傾向は強まるだろう。

 言うまでもなく、カルトに限ったことではない。都合の悪いことを取材されたくないと考える者であれば誰でもやる。

◆菅原一秀議員の問題

 幸福の科学施設の一件で立件された際、私は「これがまかり通るなら、たとえば自民党が朝日新聞の記事が気に食わないから記者会見に立入禁止だとして、立ち入った瞬間に朝日の記者を犯罪者に仕立てるということも成り立ってしまう」と警鐘を鳴らしてきた。冒頭で示した菅原一秀議員の件は、まさにこの危惧が現実のものになった事例と言える。

 菅原議員の事務所の場合、そもそも「立入禁止」といったたぐいの事前通告もなく、「意思に反した立ち入り」という建造物侵入罪の形式的要件すら満たしていない。これを敢えて刑事告訴するのは刑事訴訟の制度を意図的に濫用するものと言わざるを得ない。明らかにSLAPP(恫喝訴訟)の刑事訴訟版だ。

 自らに都合の悪い取材を回避するために、犯罪の要件を満たしていない行為について刑事告訴する。幸福の科学以上の悪質な行為を、国会議員という公人がやってのけている。

 日本における「報道の自由」は、大手メディアの報道のあり方や記者クラブ制度の弊害、記者会見のあり方、政権に対する忖度や政権サイドからの圧力や威嚇など、さまざまな側面で問題が見られる。もちろんそれらも重大な問題だ。

 しかし、たとえば官邸記者会見で彼らの気に食わない質問をしたとしても、それだけで犯罪者に仕立て上げられることは、いまのところまだない。それが起こっているのが、こうした取材現場での「建造物侵入」をめぐる問題だ。

 もちろん、言うまでもなく「報道」を名乗れば何をしてもいいなどということはありえない。建造物侵入罪として罰すべき悪質な取材というものもあるだろう。だからこそ「線引き」が必要だ。

 少なくとも取材・報道の自由や国民の知る権利という側面を度外視した形式論だけで取材者を犯罪者に仕立て上げることができてしまう現状は、報道の自由や国民の知る権利にとっての脅威だ。それがいま、机上論ではなく現実の事例として立て続けに発生している。

<取材・文/藤倉善郎>

【藤倉善郎】

ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼被告人 Twitter ID:@daily_cult3。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)

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