8050問題を巡る、社会・親子の「認識のズレ」。大切なのは「ゴールを設定しない対話」

HARBOR BUSINESS Online / 2019年8月27日 8時32分

写真

春日武彦氏

 深刻化する8050問題。家族や周囲、そして社会はどう対処すべきか。引きこもり問題を20年以上にわたって取材を続けてきたジャーナリストの池上正樹氏と、多数の引きこもり患者の診察を行ってきた精神科医の春日武彦氏に、引きこもり中年問題の課題と対処法を論じてもらった。

Contents1 「曖昧な定義」は危険2 欠けている家族間のコミュニケーション3 ゴールを設定せずに子供の話を聞いてあげてほしい4 病院に行くことで手当を受け取れるようになることも

◆「曖昧な定義」は危険

春日:まず僕が懸念するのは、現在「引きこもり」の定義が非常に曖昧な点です。かつての引きこもりといえば思春期の挫折が長期化、または統合失調症などに罹患しているケースでした。でも、現在話題になってる引きこもり中年は、むしろセルフネグレクトであり、文脈が違います。原因や対処法も異なるのに、一括りに「引きこもり」と認識するのは危険だなと思います。

池上:おっしゃる通りです。引きこもり中年は、不登校の延長でなく会社や仕事の危機から起こるケースが多い。非正規雇用による将来への閉塞感や、ハラスメントなどの過酷な労働環境から自分を守るために、引きこもらざるを得なくなる人も増えています。本質は安心して相談できる場や居場所づくりの問題なのに、行政は就労支援ばかりで、適切に対処できていないことが、8050問題の元凶だと思います。

◆欠けている家族間のコミュニケーション

春日:引きこもり本人のケア以上に、家族のケアももっと必要なんですけどね。「川崎殺傷事件」と「元農水事務次官事件」以降、当事者の家庭で「我が家もこうなるのではないか」と不安を抱く人が増えていると思います。

池上:私のところにも相談がかなり来ていて、親だけでなく子の側も「自分も親に殺されるかもしれない」と、怯えていますね。

春日:両事件で共通するのは、家族間でコミュニケーションが取れていないこと。交流があれば支援できたこともあるはずです。

池上:「元農水事務次官事件」にしても、会話ができていれば、「事件を起こすのでは」という強迫観念に囚われて、息子を刺すことにはならなかったんじゃないかと。「川崎殺傷事件」では、行政の助言で叔父夫婦が、加害男性に手紙を送っています。手紙の内容はわかりませんが、仮に「引きこもりをやめて」などと書いたなら、相手を追い詰めるトリガーになってしまった可能性があります。

春日:手紙という手段自体は悪くないですが、否定的なことを書くのは逆効果ですよね。

◆ゴールを設定せずに子供の話を聞いてあげてほしい

池上:まず子供の話をよく聞いてあげてほしいです。親側はよく「ちゃんと聞いている」と言うんですが、「外に出て働くこと」をゴールに設定して話してしまっていたら、子供は「何を言っても無駄だ」と諦めます。結果、家は安住の場ではないと思い、コミュニケーションの断絶や家庭内暴力につながりかねません。あとは否定せず、褒めることも大事です。「元事務次官事件」の息子のネットゲームにしても評価するべきでした。強みになる可能性があって、実際、開発中のゲームのデバッグ(実際にプレイしてバグを探すこと)の人材を求めている大手企業もありますからね。

◆病院に行くことで手当を受け取れるようになることも

春日:働いて自立してくれるのがベストでも、長期間の引きこもりから一気にそこまでいくのは困難ですからね。生活費などの経済的な問題については、セーフティネットとして障害者年金や生活保護など公的機関に頼りながら、段階的に就労する手段もあります。その受給資格を得るためにも、本人抜きの家族だけでもいいから早めに病院に行き、医師に相談してほしいです。

池上:あとは、公的機関の相談窓口や、家族会に行くのも手です。実例でも「名士の親が、子どもの引きこもりを隠して孤立し、悪化する」というケースが多いですが、場に行けば、いろんな当事者家族に出会えます。意外と地元の名士のご家族も多いので安心できるはず。「うちだけが変なのではないか」と思い詰めず、ぜひ積極的に外部に相談してほしいですね。

【春日武彦氏】

精神科医、作家。都立中部総合精神保健福祉センター、都立松沢病院部長、墨東病院精神科部長などを経て、成仁病院院長を務める。近著に『猫と偶然』(作品社)

【池上正樹氏】

ジャーナリスト、日本文藝家協会会員。KHJ全国ひきこもり家族会連合会事業委員としても活動する。近著に『ルポ ひきこもり未満』(集英社新書)などがある

― 引きこもり中年の衝撃 ―

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング