脳裏に響くモラハラ夫の声! 支配する夫の思考を内在化してしまう妻<モラ夫バスターな日々26>

HARBOR BUSINESS Online / 2019年8月28日 8時33分

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<漫画/榎本まみ>

◆弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々<26>

 事務所で、離婚に向けての打合せの際、既に夫と別居している妻(40代)が、ふと、述べた。

 「スーパーで商品を手に取ると、夫の声がするんです。

 いえ、近くにはいないんですが、『そんなぜいたくな物いらないだろう』とか、『もっと安いのにしろ』とか聞こえるんです。

 怖くて、手に取った商品は棚に戻します」

 これは、生霊の話でも、怪談でもない。心の中で、夫の声が聞こえてしまう妻は決して少なくない。私は、このような現象を脳内モラ夫(有葉えにさんの命名)と呼んでいる。

◆昭和のモラ文化「私が悪いときはどうぞぶってね」

 私がまだ子どもだった昭和40年代、モラ夫が当たり前で疑問もなく受け入れられていたように思う。当時、大人たちは、結婚生活の苦労から疲れている既婚女性を所帯やつれと呼んでいた。所帯やつれの妻たちは決して少なくなかった。モラ夫から日々ディスられ、いろいろと我慢し苦労を重ね、疲れていたのだろう。

 当時は、モラ夫の妄想をそのまま歌詞にしたような歌謡曲が流行していた時代でもあった。その代表格は、「恋の奴隷」だろう。コケティッシュな奥村チヨさんの持ち歌で、「あなたと遭ったその日から恋の奴隷となりました」で始まり、「…悪いときはどうぞぶってね。あなた好みのあなた好みの女になりたい」と歌い上げる。

◆そして、モラ文化は平成の時代を生き延びた

 平成の時代は、昭和の時代に比べると、ハードモラ夫が減って、ソフトモラ夫が増えてきたように思う。しかし、日本では、女性の地位向上は一向に進まず、2018年に至っても、男女平等の世界ランキングでは、110位と最低グループに留まっている。

(参考)

 性差別を受けている女性たちの意識は、日本でも、変わりつつあるが、日本の男性は、どうだろうか。

 はっきり言おう。日本の男たちは、非難を恐れてソフトにはなったが、男尊女卑の価値観は、昭和の頃と大差はない。

 現に、ツイッターなどでは、「女尊男卑」などと、著しく認知の歪んだツイートや、女性を揶揄し、消費の対象とする下品なツイートに「いいね」が数多くついたりする。家庭だけでなく、通勤電車でも、会社でも、性加害(男性による女性に対する支配)が蔓延っている。男尊女卑のモラ文化は、依然として根強く、平成の時代をしぶとく生き延びたのである。

◆モラ夫の思考を内在化してしまう妻

 さて、先日、私の事務所に相談に来た女性(30代)は、「私、主人といるのが辛くて、もう耐えられません」と言った。耐えられないんだったら、離婚したらどうかと水を向けると、「(離婚を言い出すなんて)怖い」と怯える。今まで、辛い日々を送ってきたんですねと問うと、小さく頷いて、目に涙がたまる。そして、女性は、「(私が辛いことが)わかりますか」と訊く。実際、表情や顔に苦悩が出ているので、それを伝えると、ポロポロと涙が頬を伝わって、落ちていく。

 私があなたの代理人として、離婚の交渉をしましょうかと訊いても、夫が怖くて決断できない。そして、何か月か悩んだ末に決断して、別居、離婚へと進んでいっても、夫に対する恐怖症は消えない。家裁の待合室から、廊下を歩いている夫の姿が見えただけで、パニックを起こしたり、恐怖のあまり嘔吐したりする妻までいる。

 婚姻生活中、妻はモラ夫の怒りに怯え、怒らせまいと努力する。日々、その努力を重ねると、心の中で、先回りして夫の思考を考えるようになる。これが習慣化すると、「夫の思考」が妻の心の中に内在化し、いわば、「スーパーエゴ」(超自我)化する。(参照)

 そして、このスーパーエゴが、妻自身の日常を監視し、支配するようになる。脳内モラ夫の誕生である。

 離婚すると、多くの妻に平穏が訪れる。妻たちは、自由になり、伸び伸びとして、輝きを取り戻す。しかし、夫と別居しても、脳内モラ夫と別れることは容易ではない。冒頭で述べたように、スーパーでモラ夫の声が聞こえたりする。リビングで休んでいても、部屋の隅の埃が目に入ると、「ソウジシロ、ソ・ウ・ジ」とモラ夫の声が聞こえる。

◆モラ男は、もはや日本では結婚できなくなるだろう

 離婚後数年経っても、夢の中にまでモラ夫が出てきて、なぜか車に同乗することになる。

 モラ夫は、例によって、急発進、急ハンドル、急ブレーキ等の妻を怖がらせる乱暴な運転をする(私は、「モラ運転」と呼んでいる)。「こ、怖いからやめて」と懇願しても、モラ夫は妻をガン無視して、ますますモラ運転をする。例えば、そんな悪夢にうなされたりする。モラ被害の後遺症は、しばしば、長期化する。

 モラ夫たちの多くは、妻をここまで痛めつけ、追い込んでいることに無頓着で、全く気にしていない。問題にされると、妻も専門家も本人にはモラの自覚がないと騙される程、とぼける術に長けている。妻に逃げられても、なお妻の気持ちを推し量ることも、自らの言動を顧みることもしない。

 このようなモラ夫が溢れた日本では、女性たちは、年々、結婚に希望を持てなくなっていき、生涯未婚率の更なる上昇は止まらないだろう。このままでは、日本の少子高齢化はますます進行し、日本の衰退は加速していく。

※JASRAC申請中

【大貫憲介】

弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。著書に『入管実務マニュアル』(現代人文社)、『国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし~モハメッド君を助けよう~』(つげ書房)。ツイッター(@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中

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