稚拙な外交とメディアの嫌韓煽りが崩壊させる日本のミサイル防衛

HARBOR BUSINESS Online / 2019年9月12日 8時32分

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Image Rodong Sinmun.

◆日韓関係悪化は弾道弾防衛に何を及ぼすのか?

 前回までに北朝鮮(DPRK)による新型短距離弾道弾(SRBM)KN-23の試射成功が、日本に与える影響について主にKN-23の性能を取りあげて解説しました。

 今回は、安倍、河野外交の失敗によって悪化する一方の日韓関係がもたらす弾道弾防衛への影響についてとくに対KN-23迎撃に絞って解説します。

◆対西日本SRBMの軌道を見る

 ここではまず、KN-23の現在確認されている最大射程によって萩イージス・アショア、玄海原子力発電所、島根原子力発電所を攻撃する際の軌道を図示します。但しKN-23は、軌道の後半では弾道軌道ではなく、低高度滑降・跳躍型飛行軌道をとりますので、厳密にはやや異なる可能性があります。

 各図には、現在在韓米軍が烏山(オサン)空軍基地に展開中のTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)の射程距離円*を書き込んでいます。

<*THAADの射程距離は200kmとされている。但し、迎撃可能範囲と射程距離円が必ずしも一致するわけではなく、前者はやや狭くなると思われる。またTHAADは、高度40km以上の大気圏外で迎撃するため、KN-23への接敵機会は乏しい>

 図示したように、島根県へ飛行する軌道は、韓国の領海、領空を通りませんので洋上で対処することになります。しかし現時点で高度50km未満での長射程弾道弾迎撃兵器を日本は保有していませんので、射程20kmの拠点防空兵器であるPAC-3でしか対処できず、PAC-3が事前配備された地点以外では何もできませんし、PAC-3でKN-23を迎撃することは困難と考えられています。

 山口県の萩イージス・アショア基地になりますと、飛程の半分が韓国領海、領空内を飛行します。従ってここでKN-23を撃墜すると韓国領内に落下します。尤も、やはり日本にはこの領域で迎撃する兵器はありません。強いて言えば在韓米軍のTHAADで迎撃できる可能性がありますが、韓国領内の飛行時間は打ち上げ1〜3分後と思われますし、典型的な側方迎撃となりますので烏山空軍基地から間に合うかについて私は悲観的です。

 九州が標的の場合、飛程の2/3が韓国領内(飛程の400kmまでが韓国陸上部)となります。烏山基地のTHAADの反応時間が間に合うならば多少の会敵可能性があります。

 予想されるKN-23の軌道を見ると、島根県は、洋上で何らかの手法によって対処するほかありませんが、山口県と九州は、韓国の江原道や慶州北道にTHAADやSM-6(陸上配備になる)*を展開すれば弾道飛行中に迎撃できる可能性はあります。もちろん将来は、韓国近海に弾道弾迎撃対応型のSM-6搭載艦を配備しても迎撃可能性はあります。いずれにせよ迎撃は韓国の領空、領海内ないし、防空識別圏内で行われる可能性が高く、自衛隊が戦闘行動を行うためには韓国との協力や承認が必須となります。これは日本海の公海上、日本領海・領空内で迎撃が行われるMRBM、IRBMの迎撃と大きく異なる点です。

<*SM-6は、合衆国が開発し、海軍艦艇への配備を開始している対空・対艦汎用ミサイルで、近年弾道ミサイルのターミナルフェーズでの迎撃実験に成功している(但しこの手の試射は、初期段階では大高下駄を履いている)。日本も2018年度(平成30年度)予算にて試射用途での調達を21億円で開始している。SM-6については情報がいまだに乏しく、性能も未知数である。SM-6の弾道ミサイル防衛(BMD)用途での戦力化は、相当先になると思われる>

◆日韓協力の崩壊

 昨年末に生じた日韓軍事的インシデント(レーダー問題)による日韓関係の悪化は急激に進行し、あくまで韓国の司法判断である徴用工判決*について日本政府による韓国政府への干渉**と、それに続く徴用工判決への報復である対韓経済制裁によって韓国政府は、日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)の破棄(不延長)を日本政府に通告しました***。日本政府は大いに狼狽し韓国政府へ罵声を浴びせていますが、これは当然起こってしかるべき事であり、日本政府、とくに安倍晋三氏と河野太郎氏の稚拙な見込み違いです。外交での失敗においていくら相手に罵声を浴びせても負け犬の遠吠えに過ぎません。全く同じ事を、日本政府は81年昔の1938年に近衛声明という形で行っています。

<*徴用工問題は解決済みではない。日本の主張の問題点とは!? 志葉玲HBOL 2019.04.29>

<**三権分立(権力分立)の原則から、行政府である韓国政府は、司法に干渉できない。これは近代国家の大原則である。日本政府は、長年合衆国政府からの司法への干渉に従い、自らも司法に干渉し続けてきたてきたのでこの根本的な大原則が理解できない。国連の拷問禁止委員会で日本の刑事司法は中世並みと酷評された(参照:上田秀明大使、国連で「シャラップ!」 2013/06/10安藤健二 ハフポスト)理由の一つである>

<*** 韓国、GSOMIA破棄を日本政府に通告 11月に失効2019/08/23毎日新聞>

 北朝鮮から日本へ飛来する弾道弾は、まず韓国で探知されますし、そもそも北朝鮮国内の動向をSIGINT(SIGnals INTelligence:電子情報による諜報活動)やHUMINT(HUMan INTelligence:対人諜報活動)によって事前に動きを掌握していることは必須です。

 小泉政権時代から安倍晋三氏が主導してきた、日朝外交チャンネルの断絶によって日本は北朝鮮に対する外交チャンネルをほぼ失っています。これは対北朝鮮HUMINTも機能を失っていることを意味します。結果としてHUMINTおよびSIGINTでの韓国からの情報提供は、たいへんに重要となっています。

 GSOMIAによって韓国の握る情報は合衆国から得られると嘯く人も見受けられますが、人づてでは情報は著しく劣化しますし遅延もします。そもそも合衆国が韓国から得た情報を日本に渡すという確証はありません。韓国にとって日本の偵察衛星情報が得られなくなることは痛手と嘯く人が居ますが、合衆国からある程度得られますし、精度はやや劣りますが民間衛星もあります。そもそも日本の偵察衛星は軌道が完全にバレており、性能も大きく劣るとされています。さらに、衛星情報分析官の育成が最大のカギですがこれも歴史が短く、実績も分かりません。

 SRBMが発射から5分前後、MRBMが発射から8〜10分程度で着弾しますので、迎撃するにせよ市民を避難させるにせよ対応時間はきわめて限られます。カギとなるのは早期警戒衛星ですが、これは合衆国に情報をもらっているのが現状です。近年、安倍自公政権は早期警戒衛星の開発と配備を主張していますが、早期警戒衛星の配備は、核武装の疑惑を誘致する為、周辺国との良好な意思疎通は必須となります。

 例えば過去4回発令されたJアラートによるミサイル警報は、初回6分、二回目以降は4〜5分程度の反応時間を要しています。ただでさえ早期探知の難しいSRBMは、発射から5分前後で日本国内に着弾しますので、Jアラートが発令された時には、すでに着弾していることすらあり得ます。迎撃行動についても「探知」、「追跡」、「軌道分析」、「脅威判定」、「意志決定」、「命令」、「命令伝達」、「迎撃」という行程に使える時間は数分しかなく、それをできるだけ多く確保するためには、韓国と密接に連携した情報交換、情報伝達は必須と言えます。

 とくに中四国九州向けSRBMの場合は、韓国領内での撃墜が効果的ですが、その場合は韓国近海ないし韓国国内からの迎撃となりますし、迎撃に成功すれば、残骸は韓国国内に落下します。そして何より、韓国と協力と信頼関係は必須です。

 日韓軍事的インシデント(レーダー問題)から激化した日韓政府間の不和は、すでに経済制裁を仕掛けた日本が一方的に深刻な経済的打撃を受けるという大間抜けな様を露呈しています*が、弾道弾防衛においても弾道弾の通過国である韓国からの情報が途切れるという深刻な事態に陥りつつあります。もちろん、このような状態では、韓国近海でのミサイル防空護衛艦の活動は難しくなりますし、韓国領内で弾道弾を撃墜するなど不可能となります。

<*例えば九州では、観光地が壊滅的打撃を受けている。”日韓関係悪化で、観光客激減。窮地に追い込まれる対馬、そして九州経済” 昼間たかし2019.09.05 HBOL>

◆ハードウェアを揃えても弾道弾防衛は機能しない

 日本政府は、莫大なお金を払って弾道弾防衛兵器を合衆国から買い集めつつあります。その中には、SM-3BlockIIAの大量導入*など、弾無し自衛隊の悪弊を解消するものもありますが、イージス・アショアのような日本防衛には無意味なものが多くを占めますし、韓国との情報交換、協力関係というたいへんに重要なものを自ら捨ててしまっています。そもそも安倍晋三氏による”生肉演説”**にもかかわらず、再三再四にわたる安倍晋三氏と河野太郎氏による外交上の稚拙な失態によって、もはや朝鮮半島からの有事における在留法人保護は、日韓関係の急激な悪化によって完全に画餅となっています***。

<*但し、対日売却価格は前例がないほどの高額になる見込み>

<**安倍首相、みんなのニュース生出演 国民のギモンSP FNNsline 2015/07/20公開

<***海上自衛隊と韓国海軍の相互訪問、交流は昨年から事実上途絶えている>

 弾道弾防衛は、「探知」、「追跡」、「軌道分析」、「脅威判定」、「意志決定」、「命令」、「命令伝達」、「迎撃」を迅速且つ確実に行うために事前の情報収集と情報分析がきわめて重要です。また縦深性はきわめて重要な事ですが、今回示したようにとくに中国、四国、九州の場合は韓国がその縦深空間の過半を占めるために日韓連携、連帯が出来なければ縦深性の過半を失います。

 安倍・河野外交の稚拙さから、日韓間は異常に冷え込み、日本は弾道弾防衛における縦深性を自ら捨ててしまいました。対北情報源として重要であった韓国との関係をGSOMIA失効という形で失う事がほぼ確実となった今、日本の弾道弾防衛システムはカタログスペックだけのガラクタになりかねません。まさにカタログ自衛隊*です。

<*これはとくに旧帝国海軍からの宿痾であり、カタログスペックだけの欠陥兵器や弾無し兵器を集めて喜ぶ深刻な悪弊がある。結果、犠牲になるのは将兵(幹部と隊員)であり、市民である>

 次回より、最近の情勢も含めて今回の結びへとすすみます。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』ミサイル防衛とイージス・アショア15

※なお、本記事は配信先によっては参照先のリンクが機能しない場合もございますので、その場合はHBOL本体サイトにて御覧ください。本サイト欄外には過去13回分のリンクもまとまっております。

<文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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