安倍「社交」が日本にもたらした、周辺国対日軍拡と領土喪失と役立たずな兵器の支払い

HARBOR BUSINESS Online / 2019年9月20日 8時32分

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◆北朝鮮の新型ミサイルKN-23の衝撃

 前回までに、北朝鮮(DPRK)の最新鋭SRBM(短距離弾道弾)であるKN-23試射の連続成功が日本に及ぼす影響について論じました。

 このSRBMは、トランプ氏の「どこにでもある普通のもの」や、安倍晋三氏の「わが国の安全保障に影響を与える事態でないことは確認している」*という発言に反して、きわめて大きな影響を日本に及ぼすものと考えられます。

<*SRBMの日本海での試射実験そのもので日本に影響があるわけではないので、Jアラート含め日本政府および安倍晋三氏の表面上の対応そのものは誤っていない>

 SRBMそのものは、定義上射程1000kmまでの弾道弾ですが、米露間のINF(中距離核戦力)全廃条約のために事実上、射程500kmまでに制限されていました。しかし、すでにINF全廃条約は、今年2月1日に合衆国による一方的破棄通告によって効力を失い、8月2日に失効しています。今回一連の北朝鮮によるKM-23試射はそういった過去32年間の歴史的軍縮が崩壊したという政治環境の中で行われました。

◆KN-23が軍事的パラダイムシフトをもたらす

 KN-23の原型である9K720イスカンデルは、700km程度の射程をINF全廃条約準拠のために500km未満にデチューンされたもので、弾頭の軽量化などで1000kmまでの射程延伸も可能であるとされてきました。

 今年7月24日のKN-23の試射では、二発試射して二発ともINF全廃条約を逸脱する600kmを飛行し、その軌道は弾道軌道では無く、イスカンデルの特徴である、合衆国式MD(ミサイル防衛)を無効化するとされる低高度滑降・跳躍型飛行軌道をとりました。このKN-23の試射は、北朝鮮による従前の新型弾道ミサイル試射と異なり、たいへんに高い成功率を示しています。

 従ってこのKN-23の実戦配備は、それほど遠くない将来に行われることが予想されますし、さらなる射程延伸もあり得ます。これまで想定されていなかったSRBMによる対日弾道弾攻撃は絵空事ではなくなったと言えます。これが火星9号(Scud-ER)でしたら単純な弾道飛行ですし、イスカンデル系SRBMに比して隠密性と機動性、何より命中精度に劣りますので、従来の火星7号(ノドン)と変わりませんし、実際に対日弾道弾戦力は、MRBMである火星7号のままとされています。

 しかし現在推測されているKN-23の命中精度=半数必中界(CEP)5〜7mを実現するMaRV(機動再突入体)とすでに実証された低高度滑降・跳躍型飛行軌道による飛行、そしておそらく近い将来600kmを超えるであろう飛距離によって、西日本の一部または全域を、量産性、即応性、機動性に優れかつ迎撃が困難なSRBMによって作戦圏内に含められる可能性があります。

 これは、繰り返し述べてきたようにCEP5〜7mという飛躍的に改善したその命中精度によって、あらゆる固定目標を通常弾頭によって、せいぜい二発で確実に破壊することが可能になったことにより、KN-23は従前の弾道弾とは全く異なる性格を持つ兵器であることを示しています。

 また、同じく固体燃料推進式である北極星シリーズの開発難航に比して異様と言えるほどに開発が順調であることから、既述のようにロシアによる開発への支援も考えられています。可能性の範疇を超えるわけではありませんが、ロシアによる対米巻き返しの一環である可能性すらあります。

 合衆国は、すでに北朝鮮を核保有国と見做していますので、短距離弾道弾による通常弾頭精密攻撃に対しては、報復への政治的ハードルがたいへんに高くなっています。これは根本的な環境変化と言えます。

◆ロシアから見たイージス・アショア配備とは

 欧州イージス・アショアは、合衆国が宿敵と見做すイランからの合衆国本土へのICBM(大陸間弾道弾)迎撃用の地上配備型ミサイル防衛(GMD)システム配備計画がその原点です。その計画は、オバマ政権時に、無意味=イランに合衆国直撃の可能性無しと判断されて、対欧州IRBM(中距離弾道ミサイル)迎撃用として縮小された経緯があります。その結果が欧州イージス・アショア配備です。

 これに対してロシアがINF全廃条約違反であると強く反発してきました。これは当然の反応です。イージス・アショアは、洋上艦のイージスシステムをそのまま陸にあげたもので、洋上艦のイージスシステム同様の汎用性を持っています。とくにMD用のSM-3は大型のためにこれを装填するMk41VLS(垂直ミサイル発射機)ではトマホークなどの巡航ミサイルが運用できます。

 合衆国の巡航ミサイルは、射程距離が500〜3,000kmに達し、INF全廃条約失効後は、再び核の搭載も可能となります。そのため、ロシアはスプートニクなどを介して、きわめて強い懸念と憂慮を宣伝しています*。

<*米、トマホーク配備用インフラを欧州で復元=ロシア外務省 2018年06月28日Sputnik 日本、新型イージスレーダーは日本にとっての巨大リスク 2018年07月07日 ドミトリー ヴェルホトゥロフSputnik 日本、ロシアが日本の陸上イージス配備を好まない理由 2018年08月30日 アンドレイ イルヤシェンコSputnik 日本、 ロシア「日本への迎撃システム売却は条約違反」 米を非難 AFP 2017/12/31 >

 図示するように、イージス・アショアは、巡航ミサイル運用能力があるが故*に、ロシアにとっては東西冷戦が最も激しかったとき以上の脅威と見做され得ます。

<*このことはロッキード・マーティン社自身が認めている。参照:“陸上型イージスの長所は「12人で動かせること」 ロッキード マーティン担当副社長、ヒックス氏に聞く井上 孝司2018年2月26日:日経ビジネス電子版>

 この疑惑は、イージス・アショア基地がロシアなど影響を受ける国による査察を随時受けない限り、対露核戦力と見做され、ロシアによる先制核攻撃の対象になり得ます。もちろんですが、ロシアや中国によるイージス・アショアの査察など合衆国が認めるわけがありません。

◆ロシアが極東に対日INFを再配備する可能性も

 すでにINF全廃条約は、合衆国による一方的な脱退により失効しましたので、かつてのように対日INF=SS-20がズラリと極東に配備された悪夢が再び起こりえます。

 当然ですが、ロシアだけで無く中国他にとっても脅威となりますので、その脅威度に応じた対日核戦力が配備され得ることとなります。これは、イロハのイに相当するきわめて基本的なことであり、日本は、合衆国の軍産複合体に多額のお金を貢いだ挙げ句、自らの身を核の炎に投じることになります。

 これは、北方領土二島返還論で最終解決の兆しがあったものが安倍自公政権による不用意な発言がもとで完全に絶たれたことと根を同一にしています。

 歯舞諸島と色丹島のいわゆる「二島返還」での最終決着を提示したロシア側が、この二島に合衆国の基地を造らない事への確約を求めたところ、日本は拒否しました。これによってロシアは、日本は主権を部分的に持たない合衆国の衛星国であって全く信用できないと断定しています。

 これは外交と社交を取り違えた「安倍社交」最大の汚点と言えます。これにより日露首脳会談が安倍政権において27回も執り行われた*と誇示する安倍晋三氏の発言に反して、実際は朝貢国の社交であって、全く何も意味が無くただ数千億円のお金を貢ぎ、プーチン氏に面会してもらえるだけというのが実態です。日本はその見た目の派手さに反してありとあらゆるものを失ったといえます。

 そもそも、外交であるならば、全権大使や実務者による交渉の積み重ねの上で、決断を要するときのみ数回に限って首脳会談を行い、最後に調印を行うのが常道であって、首脳会談27回*など、誇り得るどころか個人的社交と外交を取り違えた世界への恥さらしに過ぎません。

<*【外交安保取材】首脳会談27回、安倍首相はプーチン氏の真意をつかめているのか2199/09/11 産経新聞>

 そしてこれが、金正恩氏が安倍晋三氏を靴の裏に付いたガム扱いし、全く相手にしない理由です*。また中国も冷ややかな目で安倍社交と合衆国の中距離戦術核基地としてのイージス・アショア配備を見続けていることになります。

<*無条件会談「厚かましい」 北朝鮮、安倍氏方針に反発2019/06/03日本経済新聞>

 対露安倍社交によって、日本が今や主権を放棄した対米属国であることを露呈した今、佐藤栄作氏によるかつての対米核密約*同様に日本が自国内に合衆国による核配備を隠蔽する可能性があると見做されているわけで、もはや何と言い繕ったところで信用されることは無いでしょう。従って、日本にとっての北方領土は消滅したわけです。勿論、安倍自公政権は、「北方領土」という日本語をなくすことで対処していることは記憶に新しいことです。

<*沖縄に核「貯蔵」、米が当初要望 国務省が「密約」公開2018/06/23朝日新聞、核密約文書、佐藤元首相邸に…初の存在確認 2009年12月22日読売新聞 (リンク切れ)>

◆半島デタントから脱落した安倍社交の日本

 昨年9月に本連載のイージス・アショアシリーズ第7回で論じたように、現在半島はデタント(Détente,戦争の危機にある二国間の対立関係が緊張緩和すること)に向けて大きく進んでいます。そして今年6月30日、G20直後に合衆国大統領ドナルド・トランプ氏は、電撃的に板門店に入り、金正恩氏と歴史的首脳会談を行いました*。

<*板門店での米朝首脳会談たたえる北朝鮮メディア-「劇的な転換」 Jihye Lee 2019/07/01 Bloomberg>

 虚を突かれた安倍自公政権、安倍晋三氏は、この事実の前にTwitter会談と称して右往左往するのみでしたが、勿論このような会談は、米朝実務者間で時間をかけて慎重に準備されてきたわけであって、Twitter会談などは来年の合衆国大統領選を視野に入れたトランプ氏による演出に過ぎません。

 はっきりしていることは、米朝デタントは、来年の合衆国大統領選へ向けた政治ショウとなったわけで、安倍晋三氏が叫んできた対朝封鎖・圧力政策など、歯牙にすらかけられていなかったということです。更に、合衆国共和党政権の対外超強硬派であるジョン・ボルトン氏は、政権から追放されました*。

<*トランプ大統領、ボルトン大統領補佐官を解任-外交巡り意見対立2019/09/11 Joshua Gallu Bloomberg>

 これによってG20という安倍社交の晴れ舞台は人々の記憶からきれいさっぱり消え去りました。少なくともこれから一年あまりの間、半島デタントが崩れることはないでしょう。

 今となっては雲散霧消てしまった、合衆国の対北圧力政策に便乗するだけの安倍社交、便乗するものはなくなってしまい、残されたものは安倍社交の一環である大量の役に立たない兵器の支払いだけとなったわけです。

◆日本が取り損ねることになった「平和の配当」

 本来デタントはお金儲けを意味します。かつての米ソデタントにおいても、日本は政経分離のもと対ソ、対東欧貿易で一山も二山も儲けていたと記憶します。その後デタント崩壊に対応しきれずに東芝機械事件などでサンドバッグにされました。

 本来、日本は北朝鮮にとっての最も重要な外交、経済上のパートナーでしたが、安倍晋三氏が主導してきた対北封鎖政策によって今では北朝鮮への影響力は皆無です。日本は、金正恩氏にとって路傍の石ころどころか道に捨てられた噛み捨てのガムに過ぎません。

 北朝鮮を巡る外交は、かつては米中露日韓朝の六カ国協議を中心に行われてきましたが、今では日本抜きの五カ国協議に移行しつつあり*、日本は外交の場から脱落した形です。

<*朝鮮半島問題、5カ国協議の必要性で一致=ロシア2018/10/10ロイター

 本来、軍事や力による外交は、外交の一環ではあってもごく一部に過ぎません。勿論、社交は外交の道具ではあっても外交ではありません。

 本連載のイージス・アショアシリーズ第7回で指摘したように、今の日本がとるべき道は、安倍社交によって完全に崩壊した外交の立て直し以外にありません。外交によって半島デタントに加わり、平和の配当を得る。これはもともと日本が最も得意としてきたことです。

 2004年5月22日第二次小泉訪朝の失敗以後、安倍晋三氏主導で行われた対朝封鎖政策は、何ら成果も挙げず15年あまりの時間を浪費した挙げ句完全に行き詰まっています。そしてその失敗した外交政策は、ビジネス右翼など寄生虫の依り代となっています。

 外交政策が5年も成果を出さなければ、政策は変更されるべきものです。15年あまりの失敗は、もはや怠惰と無能だけでは済まされない事です。

 再度指摘しますが、外交の再建こそが日本のとるべき道であって、軍拡ではありません。

 本連載は、今回で17回です。ここでいったん結びとします。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』ミサイル防衛とイージス・アショア17

<文・一部図版制作/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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