12年前は安倍首相へのヤジも排除されていなかった!<短期集中連載・政治家ヤジられTIMELINE・Part2>

HARBOR BUSINESS Online / 2019年10月2日 8時32分

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◆政治家への「ヤジ」排除はヤバすぎる!

 こんにちは。学生ジャーナリストの日下部です。周りの人たちからは「ひもっち」と呼ばれています。

 今年の7月15日、札幌で行われた安倍首相の街頭演説において、「安倍やめろ」「増税反対」とヤジを飛ばした聴衆2人が、警察官によって排除される事件が起こりました。とても恐ろしい世の中になってしまったと思うと同時に、この事件に関する報道の多くが、法律論に終始し、事の重大さがあまり伝わっていないとも思いました。

 そこで今回は、表現の自由が危機に瀕しているという現実を、もっと多くの人に、もっと分かりやすく伝えるために、過去と今を比較し、現在の異常さを可視化していきます。今回はPart2、80年代から2000年代です。

 日本で初めて選挙が行われた1890年から現在までの129年間に、政治家の演説中に国民が飛ばしたヤジを紹介していきます。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞のデータベースで、『ヤジ 排除』『演説 ヤジ』などと検索しヒットした1707件の記事から、立会演説会や街頭演説でのヤジを本記事では取り上げています。

◆1989年1月29日『自民党 竹下登首相』

【時代背景】「ウィッシュ」で知られる、タレントDAIGOのおじいちゃん。高齢化を見据え、新たな財源である消費税を導入。リクルートの政界での地位を高めるため、同社の江副会長が政治家たちに未公開株を賄賂として譲渡したリクルート事件に関与。竹下首相も未公開株を受け取っていた。

 贈収賄事件であるリクルート事件と、消費税を導入したことへ対し

ヤジ1「まず自分が辞職しろ」

ヤジ2「消費税のうらみは忘れんぞ」

ヤジ3「竹下さんが来ると票が減るぞ」

竹下「いろいろヤジをなさる人がおりますが、自分だけが正しいという人を相手にするのはやめようではございませんか」聴衆からまばらな拍手

読売新聞「ムキになって反論する場面もあった」

 この5ヶ月後に、竹下首相は辞職した。

<出典:「参院福岡補選、「リ疑惑・消費税」の陣」1989年2月1日 朝日新聞 朝刊、「参院福岡選挙区補選の応援の竹下首相に政治不信の逆風」1989年1月30日 読売新聞 朝刊>

 まさしく、お金大好き~ウィッシュ!!! といったところ。

 奇しくも「消費税」という点で一致する竹下氏と安倍総理。竹下氏の「反論」は、いまの安倍総理と大差ない感じではあるが、聴衆が野次を飛ばす自由はあり、新聞も変に政権側に忖度するような報道ではない。

◆1989年6月18日『自民党 宇野宗佑首相』

【時代背景】宇野首相が芸者の女性との間で、月額30万円で事実上の愛人契約を結んでいた。金額交渉の際に、三本指を立て月額300万円を匂わせたにもかかわらず、実際は月額30万円だったため、「ケチ」と批判された。在任期間69日。

宇野「(消費税について)近々、政府税調に勉強してもらって、見直すべき所は見直します」

ヤジ「信用できないぞ!」

プラカードを持った主婦十数人「(プラカードに)女性は怒っているんだ」「(プラカードに)スキャンダル首相が応援なんて」

<出典:「参院補選応援で全国第一声 前途は多難…宇野首相の遊説」1989年6月19日 朝日新聞 朝刊>

 関係ないけど、在任期間も「卑猥」な感じだな!このスケベ!

◆1989年12月5日『民社党 田中慶秋氏』

 JR大船駅で、朝の街頭演説をしていた田中議員へ、2人の酔っ払いがヤジった。

ヤジ「政治家は何をやっているのかわからない。演説をやめて、(車から)降りて来い」

 ヤジを止めようとした秘書と、酔っ払いが揉め合いになり、さらにそれを止めようと田中議員が参戦し、秘書、ヤジの二人、田中議員で揉み合いに。その後、田中議員がヤジの一人を背負い投げ。

田中「秘書の首を絞めるなど嫌がらせをしていたので、演説の後、私が注意をした。すると私の上着のえりをつかんできたので、とっさに体をひねったところ、背負い投げをしたような格好になった。投げようとして投げたのではない」

 田中議員は「体をひねっただけ」と容疑を否認。なお田中議員は、柔道5段。その後、酔っ払いが「酒に酔っていたこちらも悪かった」と話し、被害届を提出せず。

<出典:「演説ヤジった通行人投げる? 柔道5段の田中慶秋代議士 朝の大船」1989年12月5日 朝日新聞 朝刊>

 マジで車から降りてくるなよ……アスファルトに背負い投げはいてえよ。

◆1993年7月4日『自民党 宮沢喜一首相』

【時代背景】リクルート事件などがあり、政治家の腐敗が問題になっていた。国民の信頼回復を計るために、政治資金規制などを盛り込んだ政治改革関連法案を今国会で成立させると宣言したが失敗に終わった。そして野党が不信任決議を提出し、現内閣に不満を持っていた自民党議員の一部が賛成票を投じ、不信任決議が成立し宮沢首相は衆議院を解散した。この選挙において自民党は過半数を取れず。日本新党をはじめとした3党連立政権(細川内閣)が発足し、自民党が野党に。55年体制の終結。

宮沢「(先の国会で政治改革関連法案が成立しなかったことについて)政権政党の責任者として申し訳ない」

ヤジ「だったら辞めろ」

宮沢「何とか再び挑戦したい」

ヤジ「ウソをつけ」

<出典:「一党支配の是非熱く 総選挙、舌戦幕開け」1993年7月5日 朝日新聞 朝刊>

 ヤジとも対話する姿勢。立派です。現在では考えられない。

◆1998年7月11日『自民党 橋本龍太郎首相』

【時代背景】55年体制を終わらせた細川内閣は一年を満たずに退陣、次の羽田内閣も短命で終わった。そしてこれまで38年間、与党と野党の関係だった自民党と社会党が手を組み村山連立政権が発足。村山内閣退陣後の選挙で自民党が大勝し、自民党単独の橋本政権が発足。

橋本「自⺠が勝つことで゙政治の安定を」

ヤジ1「お前(首相)が悪いんだ」

橋本「私だけが悪けりゃそれで済む」

 橋本首相が自分の子供の話から教育問題を語ろうとすると

ヤジ「景気が悪いのに何言ってんだ」

橋本「あなたのような人がいるから子供がよくならない」

 この発言へ対し「人をバカにしたような話し方」「慇懃無礼」など厳しい声は少なくなかった。

 この顛末を紹介する記事内で、なぜか人材派遣会社の社長がコメントを出している。

人材派遣ザ・アール 奥谷禮子社長「はっきりいって、接客に一番向かないタイプ。ヤジられても、うまく切り返して笑いでも取れれば、雰囲気も和むのに。機転もきかない。採用面接なら、即、不採用です」

<出典:「訴え、お願い…党首走った 参院選きょう投開票」1998年7月12日 朝日新聞 朝刊、[98参院選]きょう投票 東京・新宿で応援演説「首相はお呼びでない!?」1998年7月12日 毎日新聞 朝刊、「独断分析 自民党大敗に学ぶ経営術 」1998年7月18日朝日新聞 夕刊>

 よっ!不採用!俺と一緒だな!

◆2004年4月10日『自民党 小泉純一郎首相』

【時代背景】2001年に「自民党をぶっ壊す」をスローガンに総理大臣に就任し、国民から高い支持を得ていた。「聖域なき構造改革」を掲げ、郵政民営化など多くの規制緩和を行った。また、「100年安心の年金」をアピールした年金改革を行った。「100年安心の年金」のその後は周知の通り。

小泉「高齢者と若い世代が支え合っていく!」

ヤジ「年金が減るじゃないか」

聴衆「(小泉)いいぞ!」の声の波にヤジはかき消された

<出典:「思い託し、さあ一票 期待と不安、主張見極め 参院選きょう投票」2004年4月11日 朝日新聞 朝刊>

 まあ、この人と竹中平蔵さんが、今の日本の惨憺たる状況の発端とも言えるんですが……。自民党だけでなく日本までぶっ壊しやがって。

◆2004年7月某日『無所属 辻元清美氏』

 秘書給与詐取事件で有罪判決を受け、執行猶予中の辻元氏へ対し、

辻元「覚悟もいりました。怖かった。大げさかもしれませんけど….、命がけで立ってます」

ヤジ1「説得力ないで」

ヤジ2「詐欺はええのんかい!」

辻元「ご意見ありがとうございます」

 辻元氏は本選挙で落選した。

<出典:「[選挙]参院選 中盤情勢・毎日新聞調査(その1)」2004年7月5日 毎日新聞 朝刊 「[特集WORLD]参院選・大阪選挙区 辻元清美さんはなぜ敗れたか」2004年7月13日 毎日新聞 朝刊>

 ヤジの人と以下同文。

◆2007年7月13日『自民党 安倍晋三首相』

【時代背景】長期政権だった小泉内閣の後を受け、第一次安倍内閣が発足。スローガンは「美しい国、日本」。閣僚による不祥事ラッシュや、消えた年金など、「美しいとは何か?」と考えさせてくれる内閣だった。

安倍「経済政策の成功で失業率は下がり、豊かな国づくりに成功した」

ヤジ「それでも庶民はぜんぜん豊かになっていないぞ」

<出典:「7氏が論戦火ぶた 各党が力、党首級続々 参院選、スタート/埼玉県」2007年7月12日 朝日新聞 朝刊>

 安倍総理らしくないですよ。ヤジなんて警察に排除させちゃって下さいよ!

◆2007年9月16日『自民党 福田康夫氏』

福田「(東京五輪構想について)開催地です、東京都は」

ヤジ「まだ決まってないぞ」

 この6年後2013年9月7日、東京に決定した。

<出典:「自民党総裁選、渋谷ジャック 聴衆、福田さん安心・麻生さん共感」2007年9月17日 朝日新聞 朝刊>

 五輪の開催地が東京って、預言してるじゃん。おめえすげーな。

◆2007年9月19日『自民党 福田康夫氏・麻生太郎氏』

【時代背景】安倍首相が突然の辞任を発表し、福田氏と麻生氏の間で自民党総裁選が行われた。福田氏が勝利し、総理大臣に就任。

福田「東京は大きなビルがある。この高松は裏に行けばそういうビルはない」

ヤジ1「そんなことはない」

福田「けなしているんではないんです。一般的に言うと、都会が発展し、地方はよくない。でも都会は世界と闘っている、東京は発展せざるを得ない」

ヤジ2「一極集中しとって、なんや」

福田「小泉改革が悪かったのではない」

ヤジ3「現場を荒廃させて何を言うか!」

麻生「さぬきと言えば?」

聴衆「うどん!」

<出典:「特集ワイド:総裁選を見に行った 気になる聴衆の反応は…まるで、花火大会みたい」2007年9月19日 毎日新聞 朝刊>

 まっとうに政策を語ろうとした福田氏への野次に比べ、麻生氏への「お約束」な反応……。

 さ、さすが、うどん県!

◆Part2のまとめ

 Part2では、80年代から2000年代までを取り上げた。Part2の注目点は、政治家のヤジへ対する対応の違いだ。竹下首相と橋本首相は、ヤジへ対しムキになって反論している。また、田中慶秋氏は、「体を捻っただけ」と容疑を否認しているが、ヤジを背負い投げしたとされている。その一方で、宮沢首相は、ヤジに対し反論するのではなく対話のような形で話しかけている。

 このようにヤジへ対する対応は様々だが、ヤジを飛ばした人を警察官が排除した事例は存在しなかった。2007年に安倍首相がヤジられたが、現在と違って安倍首相にヤジを飛ばした人が、警察に排除されることもなかった。この時代は、現在に比べて表現の自由が比較的守られていた時代だと考えられる。

◆短期集中連載・政治家ヤジられTIMELINE

<文/日下部智海 a.k.a.ひもっち イラスト/kame>

【日下部智海】

明治大学法学部4年。フリージャーナリスト。特技:ヒモ。シリア難民やパレスチナ難民、トルコ人など世界中でヒモとして生活。社会問題から政治までヒモ目線でお届け。

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