「人は絶対に更生する」と信じた人々。彼らを表彰する賞を知っている?

HARBOR BUSINESS Online / 2019年10月7日 8時31分

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今年の受賞者と審査委員たち

◆犯罪防止と少年の更生に尽力した精神科医

 犯罪防止と、罪を犯した人たちの矯正・更生に尽力した個人・団体を表彰する「作田明賞」という賞がある。

 筆者が取材を続ける北洋建設(北海道札幌市。建設業)の小澤輝真社長(44歳)は「脊髄変性小脳症」という難病に罹患し、余命3年という状況にありながら、刑務所や少年院の出所者を積極的に採用している。

 この小澤社長から「作田明賞の最優秀賞をいただくことになりました」との連絡を8月にもらったことで、筆者は初めてその賞の存在を知った。

 作田氏は犯罪防止と少年の更生などに尽力した精神科医で、テレビのコメンテーターとしても活躍していた。2010年、自分と同様の活動を行っている個人・団体を称え表彰するために、私財を投じて「作田明記念財団」を設立。「作田明賞」を創設した。

 ところが、作田氏自身が作田明賞の授賞式に臨んだのは2010年の第1回目だけで、翌年に逝去する。享年60。だがその意思は今も引き継がれ、今年はその第10回授賞式が行われた。今回受賞した3人について紹介したい。

◆「仕事があれば再犯しない」との信念で出所者を採用

 今回の最優秀賞受賞者は北洋建設の小澤輝真社長だ。おそらく日本でもっとも多く刑務所や少年院からの出所者を雇用している。

 1973年創業の北洋建設は、初代の小澤政洋社長(現社長の父)の時代から刑務所や少年院の出所者を積極的に雇用してきた。その数、この45年間で500人以上。現在、社員約60人のうち20人近くが出所者だ。

 政洋社長の頃は、どちらかというと人材確保のための出所者採用だったが、2013年に社長に就任した小澤社長は「仕事があれば再犯しない」「絶対に更生させる」との信念で出所者を採用している。

 法務省政策評価企画室の『再犯防止対策の概容』(2017年10月)によると、2016年の検挙者23万9355人のうち48%の11万4944人が再犯者。その再犯者の約72%が逮捕時に無職だった。

 出所者は刑務所を出ても、所持金も少なく、身元引受人がいない場合は住所を持てず、働きたくても働けない。結果、その多くが3度の食事と雨風をしのげる住処を求めて、微罪を犯して刑務所に戻るケースが後を絶たない。

 小澤社長が出所者に仕事を与えるのは、この背景があるからだ。小澤社長は社長就任の前年の2012年に、「脊髄変性小脳症」という体の機能が衰えていく難病に罹患し、余命10年を宣告された。

 今、移動は車椅子となり、発声も不明瞭になった。指の震えでペンをもてない。ちなみに父の政洋氏も同じ病気に罹患し、50歳で他界している。そのため当初は相当に落ち込んだが、「自分が生きている証を残すためにも、出所者採用をライフワークにする」と決めた。

◆刑務所面接をするための法務省予算があまりにも少ない

 北洋建設には毎日、全国の刑務所受刑者から「御社で働きたい」との手紙が届く。小澤社長は、そこに更生への強い意志を見出せば、全国どこの刑務所にも赴く。そして、受刑者の就職面接を行う。

 内定を出した受刑者には社員寮を用意し、仮釈放であれば小澤社長が身元引受人となり、出所直後で衣服や金銭がない彼らに衣服を与える。さらには給与のほかに、本人が「もういいです」と言うまで2000円札を毎日手渡している。

 とはいえ、この活動はいろいろな意味できつい。「まず資金が足りない」と小澤社長は訴える。

「法務省には、僕たちのような会社が刑務所面接をするための交通費などの予算があります。しかし、その額があまりにも少ないため(今年度で約1100万円)、年度途中で底をつく。だから僕は、面接のための交通費を自腹負担しています。これまでマンションも売り払い、約2億円を使いました。今、個人の土地も売りに出しています」

 もう一つきついのは、こうまで尽力しても、約9割の出所者が就労後に突然姿を消すことだ。筆者は「がっかりしませんか?」と尋ねたが、小澤社長は「それでも残る1割が確実に更生する。それを見るのが嬉しい」とサバサバと答えた。

 小澤社長は、授賞式で、作田明賞は以前から知っていたので、その最優秀賞に選ばれたことを「本当に嬉しいです」と語った。

◆出所者に住居と仕事だけでなく、社会復帰のための教育も

 優秀賞の受賞者は2人。その1人が福岡市のリサイクル業「ヒューマンハーバー」の副島勲社長(78歳)だ。

 ヒューマンハーバー社も北洋建設と同様に、出所者に「住居と仕事」を与えている。副島社長は受賞スピーチで、「それだけでは足りない。教育こそが必要なんです」と強調した。

「出所者に共通しているのは、長期間狭い空間での生活をしてきたことでの社会常識の欠落です。挨拶ができない、約束を守ることができない、自分で責任を取ることができない。これらができないと、仕事だけ与えても社会復帰はできないんです」

 そこで副島社長が実践しているのが、出所後の半年間から1年間、社会復帰へのリハビリ期間として、出所者に寮生活をさせることだ。その間、礼儀や約束履行、責任を取ることなどを教えている。副島社長が言うところの“心のスポンジ作り”だ。

 加えて、副島社長はヒューマンハーバーを“出所者にとっての就職先”ではなく、“修行の場”だと位置づけている。つまり、心のスポンジを作りながら、自分が携わりたい仕事に就く前のリハビリとしての就労体験をさせるのだ。

 こうして、一般常識と仕事への心構えを習得した出所者は、やがて自らが選んだ道へと巣立っていく。その再犯率はゼロだという。

 

 小澤社長もそうだが、これは人間を信じなければ絶対にできない事業だ。副島社長は「宇宙最大の資源は人間です!」と、受賞式でのスピーチを締めた。

◆非行少年たちを肯定し、地域の犯罪防止や清掃活動を担わせる

 もう1人の優秀賞受賞者は、鹿児島県奄美市のNPO、奄美青少年支援センター「ゆずり葉の郷」の三浦一広所長だ。

 少年非行の元凶の多くは、家庭環境(両親の離婚やDV)や地域社会の崩壊。ここから多くの子どもが、非行、不登校、シンナー依存などになり、居場所がなく生きている。

 三浦所長は「おせっかいおじさん」として彼らの相談に応じ、彼らの「自立・共生」を目指す「ゆずり葉の郷」を2001年に設立。非行少年たちを排除するのではなく、「奄美市青少年警護隊」として地域の犯罪防止のためのパトロールや清掃活動を担わせた。

 この警護隊計画に「ワルがつるむと暴走族になる」と、地元警察は大反対したという。だが、三浦所長はこれを敢行した。特に、札付きのワルに隊長職を任せると、みるみる心を開いて任務に勤しみ、警察がマークしていた非行地域が安全地域へと変貌した。

「彼らの共通点は、小さいときから誰にも認められず、励まされなかったこと。だから彼らを肯定し、ほめれば絶対に更生します」

 ある中学校の番長は、三浦所長に存在を肯定されて2代目警護隊長を務めた。ある日、アパートの5階から飛び降り自殺を図った中学生女子を、走って下でキャッチして助けた。

 その衝撃で彼は大腿骨骨折をしたという。三浦所長はこれを誇りに思っている。三浦所長は、2010年には、家庭崩壊で居場所をなくした若者を受け入れる青少年自立援助ホーム「さざ波の家・奄美」も開設している。

◆「人は絶対に更生する」という強い信念

 3人の受賞者に共通しているのは「人は絶対に更生する」との強い信念だ。受賞にあたっては6人の審査委員が審査をするのだが、その一人である飛松五男(いつお)氏(元警察官)はこう述べた。

「僕は日本でいちばん罪人を捕まえたと思います。その人たちは出所日には僕のところに来て、一緒にご飯を食べて『おやじさん、今度こそ絶対にやり直します』と誓うのですが、すぐにまた捕まってしまう人も多かった。一人でもいいから、出所後の彼らと向き合う人がいれば、違う結果になったと思います。暴力は悪いですよ。でも、彼らはいい心はもっている。それを信じてあげたい」

 今回、受賞した小澤社長、副島社長、三浦所長はそれを実践している人たちだ。特に、副島社長と三浦所長には改めて取材をしたい。そう思った。

<文・写真/樫田秀樹>

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