<激震>山口組No.2の“現場復帰”で塗り替わるニッポンの地下経済

HARBOR BUSINESS Online / 2019年10月16日 15時30分

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六代目山口組のNo.2である高山清司・若頭

◆山口組大物がいよいよ出所

 日本最大の暴力団である山口組が分裂してから、4年が過ぎた。本家である六代目山口組は4400人。割って出た神戸山口組は1700人、さらに分派した任侠山口組は400人(いずれも2018年末の警察発表)の構成員を持つとされているが、ここにきて勢力図がガラリと塗り替えられつつある。トリガーとなるのは、六代目山口組のNo.2である高山清司・若頭の出所だ。

 知人の建設会社社長を脅迫したとして、2014年より府中刑務所に服役していた高山若頭。その出所予定日は10月18日とされる。

「高山若頭がいない隙を突いて本家を割って出た神戸山口組の重鎮たちは、いよいよ苦しい。社会不在時に力を蓄えられなかった。それどころか、いまや仲間割れと責任の押し付け合いに終始している。神戸山口組が消えてなくなるのは間違いないが、その過程で一波乱、二波乱が必ず起きるでしょう」

 そう語るのは、山口組に近しい実業家だ。事実、8月22日の夕刻に高山若頭が拠点とする神戸市内の事務所を何者かが襲撃。六代目山口組系組員が重症を負った。そして出所を目前に控えた10月10日、今度は高山若頭の出身母体である弘道会系組織の幹部が神戸山口組の中核組織・山健組の事務所を急襲。2名の死者を出す事態に発展した。

 事態を重く見た警察当局は、兵庫・大阪の暴力団事務所に使用制限の仮命令を出している。

◆大阪万博利権が最後の“命綱”

 追い詰められた格好の神戸山口組の中枢では、収集がつかないほどの内紛が起きているーーとする情報もある。前出の実業家が語る。

「9月に入って、山健組の中田広志組長が姿を見せなくなりました。高山若頭の復帰を見越して地下に潜伏でもしたのか? と噂になりましたが、実情は違いました。親である井上邦雄・神戸山口組組長に顔面を殴打され、顎の骨を折ってしまったのです。原因は井上組長が目をかけていた人物の処遇をめぐるもので、激しい暴行を受けたようなんです。中田組長といえば、山健組の跡目を譲った一番の腹心。それなのにこの状況ですから、迷走ぶりがうかがえます」

 それでも井上組長が神戸山口組を解散しないのには、経済的な理由があるという。

「2025年に開催されることが決まった大阪万博に唯一、山健組の企業だけが指名をもらっています。莫大な金額が動くため、それを手放したくない一心で井上組長はヤクザを続けていると見透かされてしまっている。関西ヤクザ業界は暴排条例で干上がっており、みかじめやショバ代といった伝統的なシノギは絶滅寸前。それゆえ、大型の公共事業が命綱となるのもわかるのですが、万博で恩恵を受けるのが井上組長だけとなれば、周りの士気があがるはずもない」(同前)

◆これからは「裏構成員」が社会に台頭する

 高山若頭という大幹部の出所によって、水面下で火花を散らす両組織。一般市民からすれば遠い世界の勢力争いに聞こえるかもしれない。ところが、暴力団対策にあたる警察庁のある幹部は懸念をこう口にする。

「ここから神戸側が巻き返すシナリオは、さすがに残っていない。2,3の有力組織が切り崩されたら、後は雪崩を打ったように消滅するでしょう。ただ、問題は山口組の再編成後に起きる“暴力団の組織形態の変化”です。これまでは一部の例外を除いてほとんど見られなかった『裏盃』が横行し、実態が掴みづらくなってしまう。いわゆる暴力団のマフィア化です」

 従来のヤクザ社会では、親―子、あるいは兄―弟といった疑似家族の縁組を「盃事」として催し、広く周知していた。暴力団はそれぞれ「●●組」「☓☓総業」などと看板を掲げ、一般企業が立ち入れない分野で猛威を奮っていた。

「それでも警察の立場からすれば、名乗りを上げているぶん、組織の実情は把握しやすかった。データベースに照会をかければ、犯罪者のつながりが可視化できたからです。ところが、今回の分裂からの再統合で盃を隠した形態が主流になってしまうと、誰がどこで何をしているのかが非常に見えづらくなる。一般市民は知らないうちに暴力団と密接な関係を持ってしまう、そんな事態が今まさに増えている。近年起きた仮想通貨バブルがまさにそれで、投資に不慣れな層が暴力団が実効支配する投資セミナーなどに足を運び、資金を吸い上げられていった」

◆「半グレは衰退し、全グレに変わる」

 現役の暴力団員からも、「ヤクザのマフィア化」が進行している証言が得られた。語るのは、ある広域指定暴力団の二次団体幹部のX氏である。

「盃を交わすのは当事者だけで、周りには伏せる『裏盃』は、実際に増えています。我々のような正式な組員が若くて知恵のある者に、事務所当番や義理事への参加を免除する代わりに、暴力面でのバックアップを担保する。すると、警察に認定されない裏構成員は自由に動けるので、表の経済にどんどん進出していける。裏構成員というと、皆さんはスカウトやキャッチ、風俗、裏カジノあたりを想像するかもしれないが、シノギの幅ももっと広い。ゲーム、IT、アパレル、飲食、不動産からコンタクトレンズの販売まで、儲かるならばなんでもやります。高山若頭が現場復帰したら、このような流れは加速するでしょう。それを期待している若手は、六代目だけでなく神戸側にもいると思いますよ」

 裏盃を受ける側は、半グレと呼ばれる不良集団が主だ。ヤクザ社会に属していないからこそ、奔放に暴れまわっていた彼らは社会の脅威とされてきた。だが、そんな半グレもいまや存続の危機にあるという。

「地下経済の顔役はあくまでヤクザで、これは今も昔も変わりません。半グレなんて言葉が流行して、たしかに一時期は世間を騒がせましたが、現在、そのほとんどはヤクザの統治下にある。東京で悪名を轟かせていた関東連合という半グレ組織だって、いまやほとんどが住吉会系の組織や山口組系の組織に組み込まれ、実働部隊と化している。私から言わせれば裏構成員化した全グレですよ。看板を背負って立つ正規の組員は1~2割もいればよくて、あとは裏構成員でいいと思っています」(X氏)

◆香港マフィアが示す“悪しき前例”

 反社会的組織のマフィア化が社会にもたらす影響を測る事例として、香港に拠点を置く三合会という組織が挙げれられる。1997年、香港の中国返還に伴い、組員が続々と地下に潜伏。中国共産党の弾圧を受けた三合会はマフィア化していき、実業に進出したり、海外で成功をおさめ新たなコネクションを開拓。結果的に組織は拡大していった。それと同じことが、日本でも起きかねないというのだ。

「高山若頭が服役していたこの5年間に井上組長は盃を割って出たわけで、ヤクザの“掟”を形骸化する行為でした。盃という秩序を壊す大きな出来事ではありましたが、一方で暴排条例によって既存の組織形態をヤクザ社会は維持できなくなっている。警察としてはこれで暴力団を壊滅できる、と踏んでいたが、いなくなるのは力のない者だけ。むしろ、新たな勢力が形態を変えて台頭してくる予感がある」(前出の警察庁幹部)

 日本の地下社会で進行する、権力闘争と再編成。その行方から目が離せない。

<取材・文/根本直樹>

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