総理のためだけに動く「官邸官僚」。今井補佐官の正体<森功氏>

HARBOR BUSINESS Online / 2019年11月21日 8時33分

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安倍晋三首相(中央)に続いて自民党本部に入る今井尚哉氏(右) 時事通信社

◆国家を私物化する安倍晋三・国民を裏切り続けた七年間

 11月20日で桂太郎(第11・13・15代内閣総理大臣)を抜き、憲政史上最長の在職日数となった安倍晋三総理。この間、安倍総理は官僚人事を壟断し、自身の手駒として動く忠実な下僕を主要ポストに据え、自身の「身内」に利権を分け与え、嘘を嘘で糊塗し、法や民主主義を踏みにじり、公文書を捏造させ、国家を私物化してきた。

 安倍総理は「政治は結果」というが、その結果は、粉飾だらけのアベノミクス、失敗だらけでカネをばらまく外交とろくな成果も見られない。

『月刊日本 12月号』では、総特集として、長期政権の驕りと緩みが噴出しまくっている安倍政権を批判する「国家を私物化する安倍晋三 国民を裏切り続けた七年間」を掲載している。

 今回はその特集から、ジャーナリストの森功氏の論考を転載し、ここに紹介したい。

◆国家・国民ではなく安倍首相のために働く官邸官僚たち

── 第二次安倍政権では、首相秘書官兼首相補佐官の今井尚哉氏を中心とする「官邸官僚」が突出した力を持ち、霞が関を牛耳っています。森さんは『官邸官僚』(文藝春秋)で、この官邸官僚の弊害を指摘しています。

森功氏(以下、森):今井さんをはじめとする官邸官僚は、決して古巣の省庁のトップを走ってきたわけではありません。安倍さんの絶大な信頼を獲得し、思いのままに権勢を振るっているのです。その権勢は安倍さんの威光なしには成り立ちません。

 本来ならば、国の政策を決める際に、各省庁の幹部が総理に対して直言しなければならないはずです。ところが、官邸官僚に抑え込まれて、各省庁がまともに政策を提示できなくなっています。「内閣人事局」によって省庁の幹部人事を握られている恐怖もあり、官邸の意向には逆らえなくなっているのです。

 各省庁はそれぞれの専門分野に精通しています。問題点を総理にきちんと説明し、それを整理した上で政策を練るべきです。ところが、そのプロセスがなくなってしまっているのです。霞が関システムの崩壊と言ってもいいでしょう。

 首相が掲げる政策を、官邸官僚が経産省に丸投げし、経産省が政策を作っています。その政策に他の省庁が従わざるを得ない状況です。安倍政権が「経産内閣」と呼ばれる所以です。

── 今井氏らは、総理の分身であると同時に、総理の振付師とも呼ばれています。

森:「一億総活躍社会」というスローガンを作ったのも今井さんやそのブレーンたちです。今井さんは古巣の経産省のブレーンを使って政策を作っています。その一人が、最近タレントの菊池桃子さんと結婚した新原浩朗・経済産業政策局長です。彼は、内閣府政策統括官として、働き方改革や幼児教育の無償化などの目玉政策を進めてきた人物です。

── 今井氏の頭の中には安倍内閣の支持率をいかに上げるかしかないと指摘されています。

森:今井さんの危うさはそこにあります。確かに彼らは安倍さんのために必死に働いています。しかし、国家、国民の利益のために働いているように見えないのです。

 今井さんは、ひたすら安倍さんを守るということに徹し、そのためには手段を選びません。9月の内閣改造で今井氏が首相秘書官に加えて首相補佐官を兼務することになったのも、安倍さんを守ってきた論功行賞でしょう。

 第一次安倍政権の崩壊を教訓として、彼らは内閣支持率低下を極端に恐れています。とにかく、国民受けする、耳障りのいい政策を打ち上げることばかり考えています。ところが、国民受けを狙った政策はことごとく失敗しています。

── 今井氏はなぜ安倍総理の信頼を得られるようになったのでしょうか。

森:今井さんが特別優秀なのかどうか私にはわかりませんが、安倍さんは「今井ちゃんはなんて頭がいいんだ。本人の頭の中を見てみたい」と語るほど、高く評価しているようです。

 もともと今井さんは経済産業省で主に産業政策・エネルギー畑を歩んできましたが、第一次安倍政権が発足すると内閣官房に出向し、総理秘書官に就任しました。

 今井さんは経団連会長を務めた今井敬さんの甥に当たりますが、敬さんの兄が通産事務次官を務めた今井善衛さんです。安倍さんのお祖父さんの岸信介が商工大臣だったときに、その秘書官を務めていたのが善衛さんです。安倍さんはそのことを知り、それから二人は急接近していったようです。

 2007年9月に第一次政権は幕を閉じました。安倍さんは潰瘍性大腸炎に悩まされ、誰もが政界での再起を危ぶんでいました。そんな中で、同じ経産官僚の長谷川榮一さんとともに安倍さんを励まし続けたのが、今井さんでした。長谷川さんの発案で、今井さんは安倍さんを高尾山登山に誘い、三人で山道に挑戦したといいます。こうして、今井さんは安倍さんと特別な関係を築くことになったのでしょう。

◆支持率アップのために歪められた外交

── 今井氏は経済政策だけではなく、外交政策にも介入しています。

森:官邸が外交を主導すること自体は批判すべきことではありません。しかし、外交においては、外務省の情報や経験の蓄積をうまく活用しなければいけません。問題は、今井さんが外務省に無断で動いていることです。

 もともと経産省にはジェトロがあるので、国際的なパイプがあるのは事実です。今井さんはそれを利用して、外務省と異なるルートで外交を動かそうとしました。最も象徴的なケースが、日露外交です。北方領土の解決は難しいことは今井さんにもわかっているはずです。しかし、あたかも二島が返還されるかのように演出し、支持率アップにつなげようとしたのでしょう。

 2015年11月に、プーチンの盟友とされ、ロシアのエネルギー産業に絶大な影響力を持つ石油大手「ロスネフチ」社長のイーゴリ・セーチンが来日した際、今井さんは彼を官邸に招待しています。こうした人脈を使って、安倍政権は日露による北方領土の共同経済活動を華々しく打ち上げました。日本側からカードを切って、ロシア側にお願いする格好です。これでは、ロシアに足元を見られただけです。今井さんは、通常の外交でやってはいけないことをやってしまったのです。

 プーチンには、日本から援助を引き出す狙いはあっても、二島の先行返還など認めるつもりはありません。結局、日露関係は動きませんでした。

── 2017年5月には、安倍首相が、訪中する二階俊博幹事長に託した習近平主席宛ての親書を、今井氏が書き換えたとも報じられています。

森:そもそも、首相の外交親書は外務省が草案を書き、外務省出身の官邸の事務秘書官を通じて首相に確認を求めます。そして、最終的に外相の決裁を経て、首相が了承することになっています。ところが、今井さんは外務省や国家安全保障会議(NSC)とのすり合わせもなく、日中関係改善に前向きな内容を付け加えたのです。今井さんにインタビューした際にも、「一帯一路についても可能であれば協力関係を築いていきたい」との文言を付け加えたことを認めました。

 しかし、これは外務省やNSCの顔をつぶすことになり、なにより従来の政策、方針の変更ですからもっと慎重であるべきです。国家安全保障局(NSS)局長(当時)の谷内正太郎さんが激怒し、「なぜ書き換えたんだ」と今井さんに詰め寄ったそうです。このとき今井さんは、例によって「総理の意向です」と言い返したそうです。今井さんの親書書き換えは、アメリカの不興を買っただけだったと思います。

◆官邸主導にはチェック機能が必要

── 今井氏は、安倍政権の原発輸出も主導しました。

森:安倍さんと今井さんの関係は持ちつ持たれつという関係だということです。今井さんにとっては、安倍さんを支えることで、自分が温めて来た政策を実現できるということです。原発輸出はその象徴です。もともと、貿易経済協力局時代の今井さんは、中東への原発輸出に最も力を入れていました。

 第二次安倍政権成立まもなく、今井さんは安倍さんを連れてトルコを二度訪問しています。2013年5月には、日本はトルコと原子力協定を締結しました。しかし、結局原発輸出も失敗に終わりました。

── 森友学園への国有地売却をめぐる財務省の決裁文書改ざんをめぐり、理財局長(当時)の佐川宣寿氏が刑事告発されましたが、安倍夫妻を守ろうとした今井氏が佐川氏に改ざんを指示した疑いが指摘されています。

森:今井さんと佐川さんはともに1982年入省の同期で、仲がいいとされています。また、今井さんは秘書官という立場上、安倍ファミリーの面倒も見ていました。昭恵夫人が雑誌のインタビューを受けるときも、そばについていました。さらに、昭恵夫人付き秘書を務めていたのは、今井氏の経産省の後輩である谷査恵子さんです。だからこそ、野党議員たちは「今井―谷─昭恵ライン」に注目し、今井さんの証人喚問を要求してきたのです。

 昨年4月、今井さん本人から文藝春秋の担当編集者に「しっかり説明にうかがいたい」との連絡が入り、彼にインタビューしました。その際、彼は疑惑を否定しましたが、疑惑は払拭できていないと思います。

── ポスト安倍政権の時代にも、今井氏のような官邸官僚が政権を支えることになるのでしょうか。

森:実は官邸官僚には二種類あります。一つは安倍さんの特別な信頼を得ている今井さんたちの官邸官僚です。もう一つは菅官房長官に近い首相補佐官の和泉洋人さんや官房副長官の杉田和博さんらの官邸官僚です。

 仮に菅さんが安倍さんの後継者になれば、異なる顔ぶれの官邸官僚が跋扈することになるでしょう。目まぐるしい情勢変化に対応し、スピーディーな政策立案が求められていることは否定できません。しかし、官邸主導の政権運営に対するチェック機能が健全に働かなければ、権力の暴走を招くことにしかならないと思います。

(聞き手・構成 坪内隆彦)

森功●もりいさお。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。出版社勤務を経て、2003年フリーランスのノンフィクション作家に転身

【月刊日本】

げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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