震災が変えた子どもたち・教職員の意識 福島の教育現場で何が起きたのか

HARBOR BUSINESS Online / 2020年3月9日 15時31分

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福島県教育センター研究・研修部長・味原正美氏(右)とモチベーションファクター株式会社 代表取締役社長・山口博氏

 シニアと若手のコミュニケーションギャップが埋まりません。「最近の若い者は根気がない」「俺たちが若い頃は、生易しいものではなかった」というセリフが語られ続けられています。しかし、教育現場は激変しています。今回はその最先端にいる福島県教育センターの味原研究・研修部長に、本連載「分解スキル反復演習が人生を変える」でお馴染みの山口博氏が迫ります。

◆震災に襲われた教育現場

山口博氏(以下、山口):「数年前から福島県の小・中・高等学校の校長マネジメント講座、教頭マネジメント講座を担当させていただいています。理屈や理論の解説を全く行わない、コアスキルを反復演習するだけのプログラムです。福島県教育センターが、このプログラムをいち早く取り入れること自体、アクティブラーニングを先駆的に推進されている証左のように思います。教育改革に先進的に取り組まれている背景からお聞かせいただけますか」

味原正美氏(以下、味原):「福島県教育施策の骨太の方針である『頑張る学校応援プラン』の主要施策4の中には、『課題先進地であるからこそ、地域に根ざしたふくしま発の未来創造型教育を推進し、持続可能な開発目標などグローバルな視点に立ち,課題解決能力や社会的実践力を育成』することが示されています。課題先進地であるからこそのアクティブラーニングの推進が必要であるとの考えです」

山口:「課題のひとつが震災からの復興ですね。味原さんご自身は、震災の際は、どちらに勤務されていたのですか」

味原:「福島県立相馬東高等学校の教頭として勤務していました。太平洋から4km海側にある学校で、当日は約100名の生徒が部活動で校舎外にいました。入試の合格発表準備をしており、生徒は校舎内立入禁止でした。

 津波が学校まで来ることを予測し、生徒を校舎2階に入れ始め、部活ごとに人数確認やけがの確認。その後、教員も含めて3階に移動しました。ラジオによると最初は3mの津波とのことでしたが、10mを超える大津波と予想が変更されたためです。幸いに津波は学校までは到達せず、保護者と連絡をとりながら、教員とともに自宅まで送り届ける対応をしました。管理職は、学校で一夜を明かしました」

◆復興から主体性が生まれた

山口:「震災は、児童・生徒にも、その父母をはじめ、地域社会の人々に、これまでにない衝撃をもたらし、生活も激変しました。復興に取り組む生活が日常化しました。他県にないこの状況は、児童・生徒の教育には、どのようなことをもたらしたのでしょうか」

味原:「震災後、まず行ったことは、生徒の安否確認でした。教師と生徒がともに生きて再度言葉を交わすことができたうれしさが伝わってきました。生きているのは決して当たり前ではありませんでした。

 校長が『我慢し、助け合い、しっかりと勉強する』との目標を掲げ4月18日に始業し、20日に入学式を行いました。県立高等学校の中で最も遅い入学式でした。5月には『小高商業高等学校』『小高工業高等学校』の生徒あわせて300名をサテライト校として受け入れ一緒に学校生活を送っていました」

山口:「他校の先生方、生徒のみなさんが合同で取り組まれたのですね」

味原:「当時の生徒会長は便りの中で『それぞれに不安や不満、悩みもあっただろうが、サテライト校の導入がこれだけスムーズに進んだのは……各校の生徒一人一人が大人としての認識を持っていただろうと思う』と書いてくれました。

 そこには、校訓である『自律』『共生』『創造』を見事に具現化した生徒たちの姿がありました。その当時はまだ『アクティブラーニング』という言葉はありませんでしたが、まさに『主体的、対話的で深い学び』を実践し、地域に貢献する意識が以前にも増して高まり、生徒たちが実践していたと振り返ることができます」

山口:「私が、校長・教頭マネジメント講座で実施させていただいていることも、まさにアクティブラーニングです。研究・研修部長として、アクティブラーニングをどのように授業に取り入れていらっしゃるのですか」

◆「教える」から「学ぶ」への転換

味原:「『何を学ぶか』『どのように学ぶか』『何ができるようになるか』『その成果をどう評価するか』が大事ではないかと考えています。生徒自らが獲得できることまで、教え込もうとしていないか。『「教える」から「学ぶ」へ授業づくりはじめの一歩』と題したリーフレットを発行し、『生徒の学ぶ姿』を大切にした単元構想を提案しています。具体的には次の4つです」

 ・課題に興味・関心をもつ

 ・まず自分なりに考える。考えを表現する

 ・自分の考えを多角的に問い直す

 ・自分の考えや学んだことを振り返る

山口:「なるほど、トップダウンではないボトムアップの巻き込み型の教育ですね。それは、とりもなおさず、校長先生、教頭先生といった管理職のあり方の変革にもつながる話ですね」

味原:「山口先生にお世話になり始めた2016年度は福島県では『教職員人事評価制度』が本格実施になった年でした。人事評価は、評価結果にばかり目がいきがちですが、教職員の能力開発という視点を特に大切にしなければならないという意味の考え方が示されています。

 

 『校長のためのマネジメント講座』の閉会の挨拶では、モチベーションの向上、合意形成・対立解消手法・ハンドリング力などの演習を行いながら、主体的に動くからこそ身につくことがあるというメッセージを送っていました。『教員が主体的に動くよう「心に火をつける」ための有効なスキルですよ。教員に限らずどの職場でも共通ですよ』と山口先生の講義・演習を振り返っていました。管理的なことの他に、教員を巻き込む力、教員を育成する力が必要ではと考えています」

山口:「校長先生、教頭先生と演習していますと、率先して発言されたり、モデル話法を発表されたり、まさにアクティブラーニングに慣れ親しんでいらっしゃることが伺えます。アクティブラーニングが児童・生徒にどのような変化をもたらしましたか」

味原:「『ふくしま高校生社会貢献コンテスト』が『福島の高校生が日本を元気にする』と題したパンフレットを作成し、ボランティア、復興、国際交流、まちおこし、製品開発など予選を通過した12グループによるプレゼンテーションが行われました。

 また、福島県地域学校活性化推進構想を2019年に県教育委員会が発表し、教科書だけではなく、地域と連携した教科横断的な学習を取り入れながら、社会に開かれた教育課程を編成することを目指しています。

 

 これらのように、児童・生徒ともに、地域を学びのフィールドと捉え、地域の課題を知ることを通じて、子どもたちが自分にできることを主体的に考え実践していることが多くなってきました」

◆教職員の働き方にも変化

山口:「今回、私が是非、お伺いしたかったことがあります。普通の状態でも忙しい教員という職務にあって、震災・復興に直面してきた、福島県の先生方は多忙を極めていらっしゃるのではないかと拝察しています。マネジメント講座の参加者からもそのような声を聞きます。一方で、働き方改革を実現し、先生方もさらに生産性を高める取り組みをされていることと思います。働き方改革の取り組みについて、是非、お聞かせください」

味原:「2019年の『学校における働き方改革に関する取組の徹底について』の通知をふまえ、福島県教育委員会でも『教職員多忙化解消アクションプラン』が改定されました。それぞれの職場で何ができるかを話し合い、合意形成し、職場全体を巻き込んでボトムアップで解決しようとすることが、大切なのではと考えています。

 日本の強みは『人的資本』である日本人そのものであり、そのために『教職』は、志す価値のあるやりがいのある仕事であることを、児童生徒に伝えていきたいと思っています」

◆ <対談を終えて>

 さまざまな業種、職位、職務、地域のビジネスパーソンに集まっていただき、リーダーシップ実践力発揮のための演習プログラムを実施した。いわばスキル訓練の他流試合で、とかく印象評価にとどまりがちなスキルレベルや成長性、能動性などの能力要素をスコア化する。参加者のひとりだった味原さんは、日本を代表する企業グループの役員や管理職を上回るトップクラスのスコアをはじき出した。

 とかく教員は浮世離れしていると言われるが、福島の先生方は違う。味原さんのスコアに、震災、復興に立ち向かう中で、アクティブラーニングを実践してきた証をみた。(モチベーションファクター株式会社 山口 博)

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第179回】

<文/山口博>

【山口博】

(やまぐち・ひろし)

モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社新書)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社+α新書)、『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)がある

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