被収容者に手錠をかけて拘束。密室で行われる入管の暴力

HARBOR BUSINESS Online / 2020年3月31日 8時31分

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職員に制圧されているデニズさん

◆デニズさんは仮放免されると絞り出すように泣いた

 3月24日。出入国在留管理庁(以下、牛久入管)に延べ4年も収容されていたデニズさん(トルコ国籍のクルド人)が仮放免(収容を一時的に解く措置)された。迎えに来ていた日本人妻さんをハグすると、デニズさんは絞り出すような声で泣いた。

 すでに昨年、長期収容による「拘禁反応」との診断も受けていたデニズさんは、今年2月になってからは約10回の自殺未遂を起こすほどに精神状態が乱れ、関係者の誰もが近いうちに未遂では済まないと心配しただけに、そのハグを見て筆者はほっとした。

 昨年1年間だけでも、デニズさんは入管職員による暴力的な制圧を受けたり、仮放免を求めての集団ハンストに参加したり、その結果として仮放免はされるがわずか2週間後には再収容されるという奈落の底に突き落とされるような処遇を2回も経験した。

 今回の仮放免は1か月間という普通の仮放免であり、今後はその更新(延長)が重ねられると思うが、それでも、デニズさんが負った心の傷を癒すには長い時間がかかる。

 デニズさんが牛久入管でどんな経験をしてきたのかを、2回に分けてリポートする。

◆職員に常備薬を求めたところ、うつ伏せにされ手錠をかけられる

 その映像は衝撃的だった。

 デニズさんを6~7人ほどの日本人が床にうつ伏せに組伏せ、後ろ手にした両手に手錠をかけ、両足を抑え、首も羽交い絞めのように固定する。呼吸ができないように口を押えて、喉の痛点を親指で押す。

 デニズさんは「やりすぎ!」「痛い!」「助けて!」「殺される!」と苦しそうに叫ぶ。警察の逮捕劇ではない。牛久入管のなかで、被収容者に対して入管職員が行った行為である。

 牛久入管には、難民認定をしたが不許可となったことで、もしくは、オーバーステイや事件を起こしたために在留資格を失った外国人男性が、「いつかは本国に送還する」ことを前提に収容されている。その数、2019年6月末で316人。

 2019年1月18日の夜。デニズさんは眠ることができず、居室からインターホンを使って常備薬の精神安定剤を職員に求めた。この求めに対し、職員は「入管の診療室が処方した薬があるはずだから、常備薬は出せない」と提供を拒否。

 だがデニズさんはかつてその処方薬を服用して体調不良を招いたことがあるだけに、とっくに処方を断っていた。だからこそ、職員の回答に「すぐに常備薬を出して」と大声を上げて居室のドアを叩いた(入管側の記録では『蹴った』になっている)。

 するとこの行為に対して、入管職員は「生活指導のため」に6、7人が居室に入り、その体を拘束。このときの痛さで身をよじったデニズさんの足が副看守責任者の腹部に当たった(入管記録では『足で蹴る暴行に及んだ』)。

 そして体を確保されたままで別室に連れられたデニズさんは、そのまま床にうつ伏せにされると、職員のAが他の職員に「ワッパかけろ、ワッパ!」と手錠の施錠を命令した。

◆「私は薬を飲みたいだけ。なんでこんな暴力を使うの?」

 仰向けにされたデニズさんは、激痛に「痛い! 痛い! 腕痛い! やりすぎ!」と叫んだ。Aは「はい、うるさいな」と、後ろから抑えられて首を固定されたデニズさんの喉に、親指を数秒間突き刺した。「痛いよ~!」と叫ぶデニズさんにAは「抵抗しないか!」と声を上げた。

 デニズさんは「なんで、私は薬を飲みたいだけ。なんでこんな暴力を使うの? なんで私を殺したい!?」と必死に訴えた。

 すると、職員の誰かが腕をねじ上げる。「ぎゃあ~、腕痛い! 腕、痛い! 殺さないで!」とデニズさんは苦痛の声を上げた。

 その後、デニズさんは「懲罰房」と呼ばれる個室に移され、そこで5日間を過ごすことになる。

 この扱いに納得のいかなかったデニズさんは、1月21日、「不服申出書」を提出し入管側に暴力行為があったことを認めるよう求めた。すると2月4日、意外にも入管側はその回答である「判定書」に「理由あり」との文字を載せた。これは、デニズさんの言い分に確かに理由がある、つまり入管側に暴力行為があったことを認めたということだ。

 だがそれだけでは、具体的にどういう暴力行為を認めたのかは書かれていない。デニズさんが説明を求めても回答はない。

◆「入管の暴力行為は許せない」と、国家賠償請求

 そこでデニズさんは、入管の暴力行為は許せないとの思いから、8月10日に大橋毅弁護士を介して国家賠償請求を起こしたのだ。

 そしてその裁判のために、大橋弁護士が入管側にデニズさんが制圧された時の撮影映像の提供を求めたところ、これまた意外にも入管が映像を提出した。さらには、牛久入管総務課がAに制圧時の様子を尋ねた「電話記録帳」も提出された。

 この2つの記録を見ると、入管側の暴力の実態が浮かび上がってくる。

 電話記録帳によると、総務課の「親指で首の顎下部分を強く推したのは、制圧時の何か決められた方法なのか」との質問に対し、Aは「首の顎の付け目には2カ所痛点があり、話をまったく聞こうとしない場合に使用する」と回答している。

 だが、映像を見ると、そのときデニズさんは後ろ手に手錠をされ、複数の職員に体を確保され身動きできない状態だった。その無抵抗な状態での暴力だったのだ。

 また映像では、職員がデニズさんの口をふさぎ10秒ほど呼吸困難の状態にしているが、これについてもAは電話記録帳で「制圧時における混乱もあり、一瞬その職員が鼻と口をふさいだ形になったため、直ぐにやめさせた」と回答している。だが映像では、やめさせた指示はない。



◆この暴行事件は「氷山の一角」!?

 

 裁判は今まで2回の口頭弁論が行われただけだが(デニズさんは外出許可がもらえず出廷できない)、2回目の12月19日、裁判後に大橋弁護士が集会を開催し、そこで初めて筆者らは映像を目の当たりにしたのだ。その衝撃的な映像に、大橋弁護士は「このままでは、入管の収容施設はアブグレイブ刑務所のようになってしまう」と語った。

 アブグレイブ刑務所とはイラクにある刑務所で、イラク戦争で米軍が捕虜にした旧政権側関係者に対し、看守役の米兵数人が、複数の捕虜を裸にしてピラミッド状の山を作ったり、犬をけしかけたりなど、肉体的、精神的な虐待を行ったことで世界を震撼させた。

 少なくとも入管施設は密室であり、誰が何をしようともそこからの情報が出てくることはめったにない。だが今回、それが明るみに出たことで、関係者は「これは氷山の一角に違いない」と思っている。

 映像が公開されたその夜には、早速共同通信が編集した映像をネット配信した。

 これを見た一人がデニズさんの日本人妻であるHさんだ。実は筆者もHさんも、デニズさんとの面会で幾度も暴力を受けたことは聞かされていた。だが正直、あそこまでの人間の尊厳を壊されるほどの暴力とは思ってもいなかった。

 翌日、Hさんから電話が入った。Hさんは相当なショックを受けていた。

「映像を見ました。見ている途中で、私の愛する人がこんなひどい目に遭っていたのかと思ったら、体がブルブル震えて、昨夜は一睡もできませんでした。今も、メールしようにも指が震えて文字を打てないので電話しました。彼は大声を出して薬を求めただけ。それが、ああいう扱いになるのでしょうか」

 ただ、筆者もHさんもある共通の感想を抱いていた。それは、デニズさんがあの複数の職員の暴力に屈しなかったことだ。もし筆者ならあの場でおとなしくなり、「はい、はい」と指示に従うと思う。だがデニズさんは制圧されているときでも、何度も「なぜ、あなたたちは私に暴力をふるった!」と声を上げ、ひるまなかった。怒鳴り返されても質問をやめなかった。

 Hさんは電話の最後にこう言った。

「あの映像を見て、私は彼を誇りに思いました」

◆入管「不当行為ではあるが、違法行為ではない」

 デニズさんの勇気があったから、裁判を起こし、映像提出も実現したのだ。これで入管の姿勢が少しでも改まれば、デニズさんの行動に価値はある。

 一方の牛久入管は、今回の事件については以下の見解を表明している。

「不当行為ではあるが、違法行為ではない」

 そのどちらかは裁判所が判断することになるが、筆者には素朴な疑問がわく。それは、牛久入管がなぜ裁判に不利となるこの映像を敢えて提出したかである。内部にも、このままの体制ではよくないとの良心が働いたのだろうか?

 12月26日。筆者は牛久入管総務課を訪ね職員にそれを尋ねた。だが職員は「裁判はどちらも公平な立場で行うものです。だから、資料提供を求められれば、資料がある限りは提出する。それだけです」と回答し、資料提出には総務課の判断も入っているのかと尋ねても「詳細は申し上げられません」と回答するだけだった。

 ただ、筆者が信じたいのは、制圧映像では横柄な態度を取る職員もいたが、あのような非人道的な対処を行うことで心を痛めている職員も必ずいるはずだということだ。

 入管制度は改めなければならない。被収容者、そして職員の尊厳を守るために。

<文・写真/樫田秀樹>

【樫田秀樹】

かしだひでき●Twitter ID:@kashidahideki。フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。

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