「次亜塩素酸水」の消毒薬としての評価に厚労省と経産省で食い違いの謎

HARBOR BUSINESS Online / 2020年5月23日 8時31分

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artswai / PIXTA(ピクスタ)

◆次亜塩素酸の殺菌効果

 次亜塩素酸(HClO)は、弱酸性で電離していない次亜塩素酸分子HClOが水に多く溶存し、電離した次亜塩素酸イオンClO-は余り存在しません。

 次亜塩素酸類が最も強力な酸化力=消毒能力を示すのは、HClOの状態であるとされ、実際にプールの消毒においてはアルカリ性になると殺菌力が下がるので中性から弱酸性に水質を維持するようにされています*。

〈* プールの塩素臭とされる臭いは、実はアンモニアと塩素による化合物であるクロラミン類の臭いで、要するにプールの中ではずいぶんオシッコをする人が居る〉

 従って、HClOそのものである次亜塩素酸、「次亜塩素酸水」は、非常に強力な消毒薬であると考えられてきています。実際に食品産業における消毒用食品添加物として次亜塩素酸ナトリウムと共に「次亜塩素酸水」は認められてきています。ここで誤解していけないのは、食品添加物であるから食べても安心ではなく、その食品を出荷する時点で次亜塩素酸類は残留しないことが義務づけられています。

「次亜塩素酸水」は、食塩水か塩酸の電気分解によって得られるものを指し、次亜塩素酸ナトリウムを酸で中和することで得られる高濃度の次亜塩素酸は、行政上の定義から「次亜塩素酸水」と名乗ることはできませんが、化学的には製法と濃度などに違いがあるだけでおなじものです。

「次亜塩素酸水」、高濃度次亜塩素酸ともに化学的に不安定で時間の経過と共に分解し、塩酸、塩素、酸素になってしまうという弱点があり、製造後有効塩素濃度が下がって行くという大きな問題があります。とくに「次亜塩素酸水」は、有効塩素濃度が10〜80ppm*とたいへんに少ないため、製造後時間が経過したものは水と変わらないという致命的な弱点があり、一般に流通させるのはかなり難しい物質です。

〈*水道蛇口最高残留塩素濃度の10〜80倍である。これだけ有効塩素濃度が低いにもかかわらず「効果はバツグン」であることが「次亜塩素酸水」の長所であるが、自然分解が早いために逆に商品としては大きな短所となる〉

◆次亜塩素酸の厚労省による評価

 次亜塩素酸とくに「次亜塩素酸水」は、比較的安価かつ潤沢で使いやすいために、殺菌効果が強いという前提において食品業界などで食品や器具の洗浄に使いたいという要望が長くありました。結果、所轄官庁である厚生労働省による殺菌・消毒薬としての評価が行われてきています。とくにノロウィルス問題では2015年に報告書が出ています。

 まず細菌とカビに関する評価結果を引用します。詳しくは原典をご参照ください。

 評価結果は驚くべきもので、新鮮な53ppmの「次亜塩素酸水」は、ずば抜けた効果を示しています。とくに枯草菌、カンジタ、カビへの効果は目を見張るものがあり、53ppmですと皮膚にも悪さをしにくいためにたいへんに魅力を感じます。

 これならば次亜塩素酸が食品添加物として採用されたのも分かります。但し、そうであっても次亜塩素酸ナトリウム(キッチンハイター)に比してかなり高価であり使用条件も限定的であるために次亜塩素酸ナトリウムを置き換えるには至っていません。また食品添加物と認められてはいますが、最終食品の完成前に除去され、出荷時点で残留しないことが条件となっています。ここ、大切なところです。

 次にウィルスへ効果についての評価を探すとノロウィルス問題に関して評価資料が公表されています。

 2015年の国立医薬品食品衛生研究所による報告を見る限り、ノンエンベロープウイルスではありますが、「次亜塩素酸水」はウイルスに十分な効果が無いと考えるほかありません。一方で高濃度次亜塩素酸は、同濃度の次亜塩素酸ナトリウム希釈液に準ずる効果があると考えて良いと思います。

 但し、コロナウイルスはエンベロープウイルス、ノロウイルスはノンエンベロープウイルスの違いがあります。従ってこの厚労省の結果がコロナウイルスにそのまま当てはまるものではありません。

◆経産省による評価

 厚労省が次亜塩素酸水について新たな見解を出さない中、経済産業省が外郭団体の独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)に委託し、NITEが更に5箇所へ再委託した評価結果が2020/05/01に公開*されました。

〈*新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について、第2回検討委員会を開催しました。2020/05/01製品評価技術基盤機構、(資料3)検証試験の結果について2020/04/30 NITE)

 この資料を見るると、「次亜塩素酸水」は、エンベロープウィルスであるインフルエンザウイルスに対して絶大な効果を見せています。それではこの結果を採用できるのでしょうか。答えは否です。

 個々人で「自己責任」で意思決定するのならばNITEの資料を意思決定材料にすることを止めることはできません。しかし、そうでないのならこの資料はTake noteする(参考にする)ことで精一杯です。

 理由は、この評価の正確性と正当性が分からないためです。まず、同時に公開された資料には非公開箇所があります。また四つ評価機関について名前は公開されていますが、A,B,C,Dとの組み合わせが分かりません。更にD機関だけ実験条件が統一されておらず代用ウィルスのインフルエンザ型も違います。極めつけは、次亜塩素酸だけD機関のみでの評価です。おいおいおい……。

 また厚労省の報告書と異なり、所詮はpdf化しただけのパワーポイント資料です。考察等、子細は全く分かりません。これで学術的に合意を得ることは無理です。

 この結果そのものは、明るいものですが、この程度の資料に個人と集団の生命と健康に大きく関わる判断を委ねることは自殺行為と言うほかありません。やはり経産省は、経済振興省官庁であって、厚労省とは根本が違うと考えるほかありません。

 筆者は、厚労省による評価または、厚労省による評価基準に則った評価を待ちます。とくに統一した条件下、再現可能な公開条件下でのコロナウイルス(代替エンベロープウイルスで良い)に対する評価と、次亜塩素酸水の品質維持条件・期間について厳密な評価が公開されることは必須です。

 これらの課題さえ解決されれば「次亜塩素酸水」は、堂々と市中に流通できるようになります。逆に現在、経産省主導で行っているような「次亜塩素酸水」だけを特恵的に扱う危険な評価は行政が行って良い事ではありません。何か不幸な事故が起きれば、次亜塩素酸という見込みのある物質の商品としての命脈を永遠に絶つことになります。

◆エチルアルコールは何処にありや 何処にありや。全世界は知らんと欲す

「エチルアルコールは何処にありや 何処にありや。全世界は知らんと欲す(WHERE IS RPT WHERE IS ETHYL ALCOHOL RR THE WORLD WONDERS)」

 消毒用エチルアルコール(エタノール)が市中から消え失せてすでに5ヶ月目に入ろうとしています。このために医療機関、介護・福祉機関だけでなく市民も困り果てています。

 本シリーズ第5回と第6回で解説したように、エタノール自体は、国内に大量に存在するにもかかわらず、薬機法(厚労省)、酒税法(財務省・国税庁)、アルコール事業法(経産省)の制約と省庁間の利害調整のために年間81万キロリットルが流通するエタノールが目詰まりを起こし、市中に出てきません。とくにエタノールの大部分、55万キロリットルを管掌する経産省が何もしていないようにしか見えません。あの国税庁ですら医療機関向けに消毒用のお酒について非課税扱いを始めたというのに、事業法アルコールの酒税相当加算額1リットルあたり1,000円も相変わらず特定アルコールには課税されたままです。

 医療機関や介護・福祉機関だけでなく、市民が消毒薬不足に困り果てて右往左往する理由は経産省にあると筆者は指摘します。

 そういった中、経産省は関連外郭団体のNITEに、以前からその市中での流通には解決すべき課題が山積している「次亜塩素酸水」について厚労省を差し置いて代用消毒薬として流通することにお墨付きを与えようとしてます。

 経産省にはもっと大切なやることがあります。さっさと事業法アルコールのなかで非課税扱い(酒税相当加算額免除)である一般アルコールを「高濃度エタノール製品」として非課税のまま流通させれば良いのです。

 消毒薬については、国によるプッシュ型支援の一環か、医療機関に消毒薬を送付し始めましたが、医療機関側は求めもしない製品が、本来の価格の数倍という「極めて高額」かつ「代引き」で送付されるため、詐欺と判断して受け取り拒否する事例が生じていると報じられています*。

〈*国あっせんの高額消毒液 県内60診療所が購入拒否2020/05/21神戸新聞〉

 アベノマスクやマスクチーム、消毒薬などやっていることはかつてのブレジネフ末期以降のソ連邦における流通の大混乱と全く同じ失敗です*。

〈*ソ連邦は、計画経済によって物流も中央統制のプッシュ型流通であった。そこには需要側の都合は一切考慮されず、長期間の欠品、突然の大量供給の繰り返しであった。結果、ソ連邦市民は、老若男女を問わずアヴォーシカ(もしかしたら!)と呼ばれる網袋を必ず持ち歩き、行列を見つけたらとにかく並ぶ習慣となった。何を売っているかは並んでから聞く。パンでもラードでもバターでもウォトカでもハムでも靴でも何でも、アヴォーシカと行列と幸運で手に入れた。(価格は、国営商店の2〜3倍とかなり高いが市場は別)〉

 経産省は、火事場泥棒とみられても仕方ないような不完全な消毒薬評価などせず、アルコール事業法、とくに一般アルコールの特例的な消毒向け解放を行うことが第一です。

 そうすれば、エタノールと次亜塩素酸ナトリウムの潤沢な流通で、消毒薬不足など「パパッと解決」することは間違いありません。内閣支持率アップに大貢献です!

◆どうしても次亜塩素酸を使いたい方へ

 どうしても次亜塩素酸を使いたい方は、死なないために次のことに留意して下さい。

1)高濃度次亜塩素酸

 アルカリ性でないことを除けば、次亜塩素酸ナトリウム(キッチンハイター)の同濃度希釈液と注意点は変わりません。そして、品質維持期間がたいへんに短いので冷暗所保存(冷蔵庫推奨)ののち早く使い切りましょう。

 最も大切なことは、飲んだり、吸い込んだり、食べたり、注射したりして人体に取り込まないことです。胃で塩素ガスが発生する、血中に入り込むとメトヘモグロビン血症等で悶絶することになり、最悪死にます。皮膚に付いたら直ちに洗い流しましょう。

2)次亜塩素酸水

 有効塩素濃度が50ppm程度と極めて低く、化学的に不安定なために短時間で水と変わらなくなります。遮光条件で冷蔵庫保管ののちにすぐに使い切りましょう。時間がたてばただの水です。無料配布の新鮮な「次亜塩素酸水」でも一月は持たないと思われます。

 毒性は無いといわれますが、単に濃度が薄いだけで胃にはいれば塩素ガスが発生しますし、血液に入ればメトヘモグロビンが発生します。塩素酸類は、飲んだり、食べたり、吸い込んだり、注射して体に入れてはいけません。皮膚に付いたものは、作業後に洗い流しましょう。

 次亜塩素酸には耐性菌は存在し得ないという報告がありますが、筆者にはその主張が理解できません。塩素系薬剤には緑膿菌が耐性を持ちますし、どのような薬剤でも濫用すればすぐに耐性菌が発生します。従って、必要なときに必要なだけ使うようにすることを強くお勧めします。

 次亜塩素酸ミスト常時発生装置については、筆者はその使用に同意できません。消毒薬の失敗の歴史にこの手の装置は瓦礫の山を築いています。

 次亜塩素酸は、有力な第三の消毒薬と評されますが、商品としては留意点が多く、「正しい使い方」に合意が形成されていません。くれぐれもその点に細心の注意を払ってください。そして忘れてはいけないのは・・・・・

混ぜるな危険

 次亜塩素酸類については以上です。

◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ10

<文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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