微笑み外交の象徴、金与正はなぜ豹変したか? 北朝鮮が本当に怒る、韓国の背後で南北融和を阻害した「アメリカ」

HARBOR BUSINESS Online / 2020年7月3日 8時31分

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金与正同党中央委員会組織指導部第1副部長(写真/時事通信社)

◆北朝鮮微笑み外交はなぜ瓦解したのか?

 平昌冬季オリンピックを機に急速に和解へと傾いた朝鮮半島情勢。大阪サミット後に米・トランプ大統領と金正恩委員長との電撃対話が実現した時には、60余年に及ぶ朝鮮戦争の完全終結と平和体制の構築が現実味を増したが、2018年の南北首脳会談から2年、韓国と北朝鮮の関係は一気に冷却期間へと突入した。

 日本のメディアでは、北朝鮮の「微笑み外交」の象徴でもあった、金正恩委員長の側近で実妹の金与正朝鮮労働党第一副部長の豹変がセンセーショナルに報じられているが、この北朝鮮の豹変の理由について正確に報じているものは極端に少ない。ほとんどのメディアは脱北者が北朝鮮に飛ばした政権批判のビラが理由かのように報道している。

 しかしそれは違う。この数週間の北朝鮮の怒りの根源は何なのか。北朝鮮がいう韓国の「落ち度」とはなんだったのか。2018年4月と9月の南北首脳会談と南北合意、その履行状況から現在の南北関係について検証する。

◆アメリカによる、南北コミュニケーションの徹底的な破壊

 今回の南北関係の破綻は、脱北者団体が北朝鮮に飛ばしたビラが、引き金になったことは否定しないが、メディアが連日報じているような内容では無いはずだ。より本質的な部分において、北朝鮮の怒りは、2018年4月の南北首脳会談以降、「何もしてこなかった」韓国側の過去の2年間のすべてに向けられている。そしてその背後にあるアメリカに向けられている。

 一気に南北融和へと突き進んだかに見えた南北関係の裏側には、アメリカによる、南北コミュニケーションの徹底的な破壊が行われていたからだ。

 韓国の民間団体が発表した資料には、今回の南北関係の破綻の主因としての「韓米ワーキンググループ」が具体的に解説されている。この韓米ワーキンググループは、韓国・文在寅大統領と北朝鮮・金正恩委員長の2回目の会談(2018年9月19日)直後の同年11月に発足している。

◆米韓ワーキンググループの構成とは

 まず、このワーキンググループの構成員はどのようになっているのか。

 韓国側からは青瓦台(大統領府)、外交部、統一部、国防部、国家情報院の南北関係に関わる主要組織がすべて網羅されており、アメリカ側からはホワイトハウス、国務部、NSC(アメリカ国家保障会議)が参加している。

 この米韓ワーキンググループ設置以降、南北間の議案はすべて事前に本ワーキンググループの承認(=アメリカの承認)が必要となっており、ワーキンググループ設置以前に南北間で合意をしていた、5つの事案(金剛山観光と開城工団再開、道路及び鉄道の連結、防疫・保健・医療協力、離散家族の再会、漢河河口の共同利用等)についてもすべて白紙化された。

 ワーキンググループ発足前の2018年10月に、米・トランプ大統領は「韓国はアメリカの承認無しには何も出来ない」と発言しており、その直後、文在寅大統領は「(南北関係は)国際的な制裁に反しない範囲で始める」と南北関係改善のトーンを一気に落とした。

 以降の文在寅大統領の「金剛山・開城工団再開には米国との協議が必要」、「南北の意思だけでは進められない。国際社会の同意を得なければいけない」等の南北関係に関連する発言を見ても、米韓ワーキンググループの決定による制約を強く受けていることが窺える。

◆米韓同盟に堪忍袋の緒が切れた!?

 本来であれば、韓国・文在寅大統領から「民族の意思を優先して」と伝える事によって始まった南北の関係改善が、アメリカの介入により完全に転向してしまった。米韓同盟に韓国の主権が完全に絡めとられてしまったのだ。

 北朝鮮の立場から言えば、2年間も我慢してきたが、韓国がまったく動かないどころか後退している状況。南北共同事務所の爆破は、単に脱北者によるビラが原因ではない。南北間のすべての合意に対して、「実行の伴わない南北融和は必要ない」という北朝鮮の韓国に対する強烈なメッセージとなっている。

 またコロナ禍による混乱の極みのなか、勝算が日々薄まる大統領選に向け足掻き続けるトランプ政権への強烈なくさびにもなっている。

 北朝鮮が壊したのは南北共同事務所であるが、壊したいのは米韓(日)の同盟である。

 一連の北朝鮮報道に接する際は、この点に軸足をおいて見るべきだ。そうすればワイドショー化したニュース報道では語られない東アジア情勢の姿が浮かび上がってくるはずだ。

<文/HBO編集部>

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