「生活が苦しい。助けて欲しいけど周りに知られたくない」……公的支援から取り残される親子をサポートする「こども宅食」の取り組み

HARBOR BUSINESS Online / 2020年7月9日 15時32分

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◆困窮家庭の8割がコロナによる生活苦を実感

 経済的に苦しい家庭に対し、食を通じた支援活動を行う「こども宅食応援団」(※)は今年5月、こども宅食を利用する家庭に対し、「新型コロナウイルスの影響に関するアンケート」を実施。同調査に協力した約1000世帯のうち約8割が「生活が苦しくなった」と答えた。

 回答者の属性は「年収300万円未満」が約9割と突出しており、世帯構成では「ひとり親」が目立つことから、経済基盤が脆く、育児の担い手が少ないこれらの層がコロナ禍の打撃を特に受けている状況が浮き彫りになっている。

 生活に困ったとしても、行政は様々な支援制度を整えている。しかし、「自治体の窓口で相談している」と答えた人の割合は19.6%にとどまっており、制度は活用されていない。苦しい思いをしている人たちが「助けて」と言わない理由は何か。こども宅食応援団としてそうした人たちにどのようなアプローチを取っているのか。事務局の今井峻介さんに聞いた。

(※)こども宅食は、経済的に厳しい子育て家庭に食品のお届けを通じて繋がりをもち、必要なときには支援に繋げる見守り支援。こども宅食応援団は、全国各地にこども宅食を広めるためノウハウ提供や実施団体のサポートを行う団体。

◆ひとり親の不安「感染や失業に怯え、夜も眠れない日がある」

 調査によると、収入減よりも支出増によって生活が苦しくなっていることがわかる。休校や休園の影響で食費・光熱費が上昇したためと思われる。支出増または増加見込み額の割合では「2~4割」が一番多かった。これは仮に月20万円で家計をやりくりしている世帯の場合、ひと月あたり4~8万円に当たり、家計への影響は大きい。

 今井さんは「これまでなんとか乗り切ってこられた家庭に新型コロナウイルスによる収入減や支出増が加わり、苦しい状況を生み出している」と現状を見る。

 回答者からは「生活が苦しい」といった悩みのほか、「ひとり親」ゆえに直面する不安も寄せられている。

「たとえば、『ひとり親なので感染したり、濃厚接触した場合には仕事を休む必要があり、生活費が足りるのか心配です。また隔離場所はどうするのか、誹謗中傷の対象にならないか不安です』といった声が挙がっています。こういった悩みは、ふたり親には想像しにくい面があります」(今井さん)

 新型コロナウイルスによる失業に怯え、経済的な不安を一人で抱えこみ「夜も眠れない日がある」と答えた人もいたという。

◆「生活に困っている」と言いにくい

 このように強い不安を感じながらも、冒頭で触れたように、行政に助けを求めるアクションを取った人は2割ほどにとどまる。

 今井さんはその原因を以下の4つに分類する。

「心理的な障壁」:自分が困っていると認めたくない、行政への抵抗感

「周囲のまなざし」:支援を求めたことを周りに知られないか不安

「物理的な制約」:窓口の開所時間が生活と合わない

「情報の届け方」:どんな支援があるのかわかりにくい

 今何も困っておらず落ち着いた精神状態にある人からすると、助けを求めることへの心理的な障壁や周りの目を気にすることが不可解に思えるかもしれない。だがもし経済的に厳しい状態が続き、生活不安を抱えながらの暮らしが常態化していたらどう感じるだろうか。自分を恥じたり、現状を認めたくない、周りに迷惑をかけそうで言いにくい、などと思ったりしてもおかしくない。支援をしてくれる人はたくさんいるし、制度もある。だが行政からのサポートを受けるには、自分で窓口に出向き「困っています」と伝えなければならない。

 これを「申請主義」と呼ぶが、「助けて」が言えない人にとってはプレッシャーになる。苦しさを誰にも打ち明けられず自分だけが抱えてしまった人は、公的な支援の輪から取り残されてしまう。

 申請主義に対して、支援が必要な人が窓口に相談に来るのを待つのではなく、サポートをする人が支援を受ける人と関係を作って適切な援助をすることをアウトリーチと言う。こども宅食はこのアウトリーチ型の支援だ。

 親の心境に配慮し、申し込みはネットでも可能。こども宅食を利用しているとわからない工夫をして食品が配達されるため、親が感じる「周りに知られるのではないか」との不安を解消してくれる。

 各地のこども宅食の実施には、実施するNPOや社会福祉法人等の他に、自治体や企業など、複数の団体が関わる。困りごとを見つけたときの支援活動は、自治体の支援窓口や相談支援をおこなっている民間団体等、専門窓口につなぐ。

◆生活不安を抱えた30代シングルマザー。看護学校に進学し、「生活が一変した」と喜びの声

 こども宅食は申し込みをした家庭に食品を届けるだけではなく、利用者との関係づくりを通じて継続的なサポートに繋げる。毎回の配達時にスタッフが利用家庭の様子や会話から「困ったことや変わったことがないか」を確認し、必要に応じて専門窓口に繋ぐ。

 支援をする側と受ける側との間に関係性が築かれているかどうかの影響は大きい。たとえばひとり親が行政に支援を申し出に行くと、離婚理由や家庭環境について職員から質問される。それ自体は必要なことなのだが、何の繋がりもない初対面の職員にプライベートを話すことに抵抗を感じるのは当然だ。こうした状況を不快に感じ、初めから行政を頼りたがらない人もいる。だが相手が顔見知りや信頼関係を築いている人であれば、話しやすくなる。

「過去にはこのような事例がありました。ご利用者は、小学生のお子さんと二人暮らしの30代シングルマザー。失業したため失業保険と貯蓄で生活することに不安を覚え、申し込みされました。その後女性が仕事で悩んでいることを知り、ひとり親の経済的自立を支援する高等職業訓練給付金制度を説明しました。女性は看護学校へ進学し、『始めは食材をもらうつもりで申し込みましたが、生活が一変しました』と喜ばれています」(今井さん)

◆経済的に厳しい家庭の子ども支援に31億円の予算案。国が動く

 利用者との関係性構築では、佐賀県での取り組みが面白い。一斉休校のため週に2~3回、子どもだけで留守番をしている家庭にお菓子を配送する「見守り宅食」を実施した。玄関先で子どもにお菓子を渡しながら簡単な会話を交わし、おうちでの様子を保護者にLINEで知らせる目的がある。

「最初はぎこちない会話でも、数回会うと『わあー!お菓子の人だ』と嬉しそうにしてくれるようになりました。また『退屈だから早く学校に行きたい』や『宿題あるけどやってない』など、自分の状況や気持ちも話してくれるようになりました」(今井さん)

 こども宅食に似た支援として、地域住民や自治体が食事を無償あるいは安価で提供するこども食堂もある。後者は食事を摂る場としてだけでなく、居場所としての機能も果たし、子どもが家庭や地域から孤立してしまうことを防ぐ役割も担う。

 経済的に苦しい家庭で育つ子どもを支援する動きは国を動かし、2020年度の第二次補正予算に組み込まれることが決まった。事業名は「支援対象児童等見守り強化事業」で、予算案は31億円だ。

「同プランの取組を一層推進するため、子ども食堂や子どもに対する宅食等の支援を行う民間団体等が、要保護児童対策地域協議会の支援対象児童等として登録されている子ども等の居宅を訪問するなどし、状況の把握や食事の提供、学習・生活指導支援等を通じた子どもの見守り体制を強化するための経費を支援する」(厚生労働省資料より引用)

 今井さんは、「今はやっと予算に入ったというだけで、まだまだやることがたくさんあります。こども宅食事業のビジョンに共感し、チャレンジしてくれる自治体の方と繋がりたい。勉強会の開催や伴走支援などを提供し、全国での実施事例を増やしていきたいです」と意気込みを話した。

<取材・文/薗部雄一>

【薗部雄一】

1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。

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