欧州ではサッカーに次ぐ人気!? 車上の格闘技「スピードウェイ」の魅力

HARBOR BUSINESS Online / 2020年8月30日 15時32分

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 ブレーキのないバイクで砂煙を上げながら、時速100km以上のスピードで、肘や膝で押し合いダートトラックを突っ走っていく……。映画『マッドマックス』の話ではない。欧州でサッカーに劣らぬ人気を誇るオートバイ競技「スピードウェイ」だ。

◆過去には日本製マシンも日本人ライダーもいた

 日本のモータースポーツファンにはあまり馴染みのない競技だろう。かくいう筆者も初めて動画を観たときは、「NASCARのバイク版みたいなもんでしょ」というのが正直な感想だった。スピードウェイは260〜425mのトラックを約1分程度で4周する競技で、素人目にはドリフトをしながらグルグル回っているようにしか思えない。

 しかし、欧州では冒頭で述べたとおりサッカーに次ぐ人気を誇るスポーツで、ファンの熱狂っぷりはそれ以上とも言えるほどだ。実際の試合における迫力、技術性、戦術性においても同じだ。

 スタジアムに漂う純メタノール燃料、そして巻き上げられたトラックの砂煙の匂い……。残念ながら、これらを正確に伝えるには筆者の筆力では表現しきれない。そこで今回は、ポーランドの強豪チームのひとつであるアパトル・トルンの監督で、元スピードウェイ・レーサーのトマシュ・バイェルスキ氏に、スピードウェイの魅力について語ってもらった。

「一言でスピードウェイを知らない人に伝えるなら、『アドレナリン』だ。今はほとんど見ないけど、前にはヤマハとかホンダみたいな日本車も走ってたし、日本人の選手もいたね」

◆100年近い歴史でサッカーに次ぐ人気

 日本では知られていないため新興スポーツと思ってしまいがちだが、初のスピードウェイの大会は1923年に行われており、実に100年近い歴史がある。アパトルがプレーしているアリーナも、1962年に建設されている。

「強いのは、ポーランド、スイス、デンマークあたりだね。ポーランドではサッカーの次に人気があるスポーツだよ。一部リーグ(エクストラ・クラサ)所属のサッカーチームがある大都市以外は、スピードウェイのほうが人気なことも少なくない。選手にイケメンが多いから、女性客も多いしね(笑)。俺がスピードウェイの選手になったのも、女にモテたいからさ(スタッフから、『監督、本当のことを話してください……』との声が)。柄の悪い連中もいるサッカーより、家族で楽しめるスポーツだよ」

 基本的にはグルグルとトラックを回っていくわけだが、他のモータースポーツとは、何が大きく違うのだろう?

「似てると言われるのはNASCARだよね。ただ、スピードウェイはトラックを準備するのが難しい。トラックの路面にはいろんな成分が混じっていて、それが大きく勝敗を左右するんだ。選手が特に気を遣わなければいけないのは、スタートと最初のコーナーだね。ただ、一流と言われるいい選手は、そこで出遅れても取り戻せるものさ」

 細かくされた頁岩、花崗岩、煉瓦、ドロマイトなどが敷き詰められたトラックの調整は、ホームチームの大きなアドバンテージとなる。相手チームには試合前に2名のみ試走が許されるが、グリップの効く位置や加速ポイントを見極めるのは容易ではない。

◆指が折れたまま走り続ける猛者たち

 また、バイェルスキ氏の言うとおり、選手たちのカリスマ性も観るものを惹きつける。命知らずな競技だけに、ファンからはロックスターのような存在として崇められているのだ。

「選手は相当『ワル』だよ。指の骨が折れていたりしても、平気で出場するしね。ただ、“怖がること”はスゴく大事だ。自分のできること、できないことをしっかり理解したうえで、どこまでが限界なのか見極めなきゃいけない。スゴく集中力が必要になるよ」

 意外にも、選手にとっては技術的な面よりも精神面が重要になるのだという。

「多くのレースは1分間で終わってしまうからね。技術的なことは練習をとおして、体に染みついているんだ。走っている間はものすごく長く感じるけど、バイクの走行テクニックなどについて考えることはないね」

◆もっとも重要なのはメンタル

 当然、個人とチーム戦でもスピードウェイは大きく変わってくる。チーム戦では相手選手をブロックしつつ、味方の選手にコースを作るといった戦術が重要となる。そして、ここでも心技体の「心」が勝敗を左右する。

「言ったとおり、スピードウェイで重要になるのは、トラックの作り方とスタートだ。だから、選手、監督、スタッフ間の意思疎通が重要になってくる。俺は選手同士で話し合わせて、自分からは選手が『聞きたいこと』を話すことが多い。まったくバラバラな人間が集まって、好き勝手言うのに、最初にクビになるのは監督だからな(笑)」

 そう冗談めかすバイェルスキ氏だが、スタジアムを包むエンジン音のなかでも、「ファンの応援や野次は聞こえるし、選手に届いている」と語るように、スピードウェイとは単にマシンの性能だけで決まるスポーツではないのである。

「俺が思う美しい・理想のスピードウェイは、4周ずっと『戦える』スピードウェイだ。スタートが一番大事だと言ったが、たとえビリでも、レースのなかで戦いがあり、チャレンジすることが大事なんだ」

 もし日本のマシンや選手がいれば、「是非試してみたい」と話すバイェルスキ氏。アパトルのホームタウンであるトルンには、日本からの観光客も多く訪れるだけに、いつか日ポがスピードウェイを通して繋がる日が来るかもしれない。

「今はエクストラ・クラサから一部に落ちちまったけど、もしトルンに来る機会があれば、日本の人にも是非応援に来てほしいよ」

 現在、リーグ戦無敗を続けているアパトルが最高峰の舞台に復帰するのは時間の問題だ。

 モータースポーツファンの多い日本でも、まだまだ知られざる存在のスピードウェイ。興味を持った人がいれば、ぜひ動画サイトなどで検索してみることをお勧めする。そして、機会があればエンジンの轟音、飛び散るトラックの砂、選手たちの強靭な心を体験しに、スタジアムに足を運んでみてほしい。

<取材・文/林 泰人 撮影/Róża Koźlikowska>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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