「叩き上げの苦労人」という虚像。新総裁に手をかけた菅義偉、利権のために恩師も裏切る素顔

HARBOR BUSINESS Online / 2020年9月14日 8時33分

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9月2日、総裁選出馬会見を行う菅官房長官

◆記者クラブメディアの質問で“苦労人”をアピール

 自民党総裁選で主要派閥の支持を取りつけて総裁就任が今日午後にも決まろうという菅義偉官房長官(神奈川二区=横浜市西区・南区・港南区)が、記者クラブメディアと連携して「たたき上げ」を“売り”にしようとしている。

 9月2日の出馬表明会見でも安倍政権継承を訴えた後、故郷・秋田から上京、横浜で代議士秘書を経て市議から国会議員へと上り詰めたことを振り返り、ともに世襲議員である岸田文雄・政調会長と石破茂・元地方創生大臣とは違う“苦労人”だということをアピールした。

 すると、これにテレビや新聞などが飛びつき「ミスターたたき上げ」と呼ばれるような報道を行った。そんな質問が続いていた。

 菅官房長官に声をかけたのは、2日の会見で司会者が「あと3問程度で会見を終了します」と告げた直後。「こんなの出来レースじゃないですか。フリーランスにも質問させてください。公文書を捨てないでください!」と叫んだフリー記者・志葉玲氏に続いて、筆者はこう問いかけた。

「菅さん、横浜をカジノ業者に売り渡すのですか? (安倍政権の)米国べったりの政治を引き継ぐのでしょうか? 米国の腰巾着政治と言われますよ。藤木(幸夫)会長を裏切るのですか?」

 菅官房長官は無言のまま、会見場が騒然となったのを受けて司会者は会見継続を宣言した。それでも筆者は結局指名されず、二度目の会見終了後に再び声掛け質問をした。

「横浜にカジノを持ってきていいのですか。(第二の)故郷を裏切るのではないですか?」

 菅官房長官はこの時も、一言も発することなく、一礼をして会見場を後にした。

◆“横浜のドン”を平気で裏切った菅官房長官

 政界を渡り歩いて都知事のポストを手にした小池百合子知事と同じく、菅官房長官は最高権力者にひたすら仕えることで総理のポストを確実にした。両者に共通するのは、お世話になった人たちを平気で裏切ることだ。

 地盤も看板もカバンもない横浜で、菅官房長官が市議時代から支援を受けてきた大恩人が、“横浜のドン”と呼ばれる港湾荷役業「藤木企業」の藤木幸夫会長だ。横浜港運協会会長を今年6月まで長年務め、林文子・横浜市長のカジノ誘致表明に対しては去年8月23日、カジノ推進の急先鋒の菅官房長官を「安倍首相の腰巾着」だと一刀両断、「命を張ってでも反対する」と徹底抗戦を会見で宣言した人物だ。

 ここで藤木氏は「顔に泥を塗られた。泥を塗ったのは林さんだけど、塗らせた人がいる」と切り出し、その背後にいるカジノ推進勢力を「ハードパワー」と称した。そこで、筆者は次のように聞いてみたのだ。

――(そのハードパワーは)地元選出で影の横浜市長とも呼ばれている、林市長にも大きな影響力を持っている菅官房長官としか考えられないというふうに聞こえたのですが。

藤木会長:それはあなたの自由。

――菅官房長官は秋田から出てきて、横浜が「第二の故郷」で、若いときからよくご存知かと思います。横浜にお世話になった菅官房長官が、横浜を米国カジノ業者に売り渡すような行為の推進側に回っていることについて、どう思われるのですか。

藤木会長:いま菅さんという名前をあなたが言うから申し上げるけど、とても親しいですよ。いろいろなこと、昔から知っているし、彼もオレを大事にしてくれるし、ただ今、立場がね。(菅官房長官は)安倍さんの腰巾着でしょう。安倍さんはトランプさんの腰巾着でしょう。そこで国家安全保障という大きな問題があるでしょう。今の安倍さんも菅さんもトランプさんの鼻息をうかがったり……。寂しいよ。寂しいけれども現実はそうでしょう。いずれにしても個人的な名前は省いて、いまハードパワーが横行している。

◆トランプの走狗として米国益を優先させてきた安倍政権の継承

 9月2日の会見で筆者が「米国の腰巾着政治」と叫んだのは、この藤木氏の発言を一部引用したといえる。藤木氏は「菅官房長官がハードパワーとしてカジノを横浜に持ってこようとしている」という断定は避けたものの、米国言いなりの安倍政権が横浜へのカジノ誘致を引き起こしたと言い切ったのだ。

 菅官房長官の「たたき上げ」人生とは、大恩人の藤木氏を裏切り、第二の故郷で受けた恩を仇で返すような足取りでもあったのだ。藤木氏の盟友の小此木彦三郎・元建設大臣の秘書を10年以上務めた後、横浜市議を経て国会議員から官房長官にまで登り詰めた菅官房長官にとって、藤木氏は「後見人(育ての親)」のような存在であったからだ。

 しかし菅官房長官は、藤木氏が反対するカジノ誘致の旗振り役となり、横浜を海外カジノ業者に“献上”する姿勢を崩していない。

 菅官房長官が支えてきた安倍政権はトランプ大統領の要請に沿ってカジノ関連法案を成立させ、横浜などへのカジノ誘致を進めることで、間接的にトランプ大統領のスポンサー役となろうとしてきた。そして菅官房長官もまた、米国益を優先させてきた安倍政権の継承を宣言しているともいえる。

 第二の故郷・横浜にカジノ業者が参入してくることに大恩人が猛反対していても、“米国腰巾着政治”の安倍首相に盲従することで総理ポストを射止めた「ミスターたたき上げ」こと菅官房長官。お世話になった恩人や地域を平気で切り捨てながら、無表情のまま権力の階段を登り詰めていく彼には、冷徹非情な「鉄仮面」という呼び名がぴったりなのかもしれない。

<文・写真/横田一>

【横田一】

ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数

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