菅政権による日本学術会議への人事介入は近代社会の破壊行為。著述家が官邸前で単身抗議のハンストを始めたワケ

HARBOR BUSINESS Online / 2020年10月4日 8時33分

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官邸前で抗議のハンストを行う著述家の菅野完氏

“ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった 私は共産主義者ではなかったから

社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった 私は社会民主主義者ではなかったから

彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった 私は労働組合員ではなかったから

そして、彼らが私を攻撃したとき 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった“ (反ナチス運動で知られるマルティン・ニーメラーの言葉として有名な「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」。Wikipediaより)

◆始まった菅政権の言論弾圧

 10月1日に「しんぶん赤旗」が報じた、菅政権による日本学術会議の人事介入。

 「学問の自由」の危機と報じるメディアも少なくないが、ことはもっと重大で深刻な問題である。

「これほど直球のファシズムはない。既存の法やこれまでの国会答弁に違反する明確な違法行為であると同時に、「学問の自由」「思想信条の自由」「言論の自由」などの、近代を形成する諸原則を踏み躙る、極めて野蛮かつ危険な行為であり、近代国家に対するテロリズムとさえ言えます」

 そう語るのは、本サイトで「草の根保守の蠢動」を連載していた『日本会議の研究』著者である著述家の菅野完氏。

 彼は、この報道のあと、10月2日19時から、官邸前にて「ハンガーストライキ」を行うことを決断し、1人、首相官邸前に座り、抗議活動を始めた。

 彼はなぜハンガーストライキに入ったのか? その理由を直撃した。

◆日本学術会議への人事介入に抗議する

「菅は羈束(=行政の自由裁量が認められない)行為とされていた学術会議の任免権を勝手に裁量行為としました。これは明確な違法行為です。そして金曜日に行われた野党合同ヒアリングでの内閣法制局の返答をみると、どうやら、違法であることを知りながら今回の人事介入を行っているようです。つまり、菅政権は、違法上等で『学問の自由』『思想信条の自由』『言論の自由』などの、近代を形成する諸原則を踏み躙る、極めて野蛮かつ危険な行為に出たわけです。これは到底看過しえません。」

 菅野氏は、この菅政権による暴挙を「第二の滝川事件」だと指摘する。

「滝川事件」とは、1933年に京都帝国大学(現京都大学)の教授である刑法学者の滝川幸辰の講演や著作を「危険思想」だとして、当時の文部大臣である鳩山一郎が京大総長に辞職勧告を行うように命じ、京大がそれに従ってしまったことに端を発する思想弾圧のことだ。

「中学の歴史の授業で習ったはずの滝川事件の名前を聞いてもピンとこない残念な人に向けて説明するなら、『菅義偉のやっていることは、北京の中共政府が、香港の言論人や香港の大学人に対して行っている弾圧や、チベット、ウイグル、内モンゴルなどで行っている中共政府の暴虐と、本質的になんらかわらない』ということです」

 今回の事件を、政権による弾圧事件と規定する菅野氏は、こう言葉をつないだ。

「安倍政権の誕生から7年半、我々は、さまざまな場所で、政権による弾圧を目撃してきました。おそらく私もその最初期事例の被害者の一人でしょう。あの時、私や私の仲間や私と同じような立場の人々が被った弾圧を、弾圧だと見抜ける人は多くありませんでした。また、弾圧だと見抜けた人でも、その弾圧と戦おうとする人は多くありませんでした。『あのタイミングで、弾圧を放置したから、日本学術会議の人事に政権が介入するなどという野蛮な行為が当然のように行われる社会になってしまったのだ』としか言いようがありません。事態は、ニーメラーの格言通りに動いている」

◆「声をあげる者が誰一人残っていない」未来が来る

 7年半の間、菅野氏が目の当たりにしてきた弾圧。それは、菅野氏自身や、その他の政権批判であり人種差別批判的な論者が何度もくらっているSNSのアカウント凍結や、世間的にはさして知名度が高くない菅野氏のスキャンダルを何時間も晒し続けるツイッターの「トレンド」であり、現在もハンスト中の菅野氏を揶揄するような「飯テロ」行為のハッシュタグとなった「#菅野完を殺すな」が、その拡散規模では考えられない「トレンド入り」を果たす嫌がらせのような事象だ。

 あの時、属人的な考えだけで、その問題の本質を敢えて見ようともしなかった行為のツケがいまになって回ってきたとも言えるのだ。

「ただ、僕にはいまそれをもってして『ザマみろ』などとは言いませんし、言っている暇もないほど緊急事態だと思っています。『一国の政権が、学問の自由に、あからさまに介入した』のです。学術に関与するもの、言論に関与するもの、いや、社会の各層あらゆる人々が、この暴挙に対する痛烈な批判の声をあげ、徹底して、この政権と戦うべき問題です。そうでなければ、ニーメラーの格言『…そして、彼らが私を攻撃したとき 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった』という未来が、遠からずやってくるはずです」

◆野党議員の失言は記者総出で批判も、菅の暴挙に沈黙するWebメディア

 さすがにその危機感も波及し、野党議員は追及を行い、大手新聞も報じ始め、WEBメディアもハフポストなどが報じ始めた。しかし、それでもなお、テレビメディアは沈黙を続けるか、報じるものの問題点をきちんと指摘していない。

 また、野党議員である石垣のりこ氏の失言を報じ、所属記者がSNSの個人アカウントでそれを積極拡散までしていたBuzzFeed JAPANは、本稿執筆時点で菅政権の日本学術会議人事介入問題について、はたちこうた氏による署名記事が2日に公開されているが、その記事もいち早く過去答弁との矛盾を報じた優れた記事にも関わらず、本稿執筆時点ではトップページでも下の方に埋没し、続報がない。また、石垣発言のときのような複数記者による積極的な「拡散活動」は見られない。(※10/4日20時:当初、記事が見られないとしておりましたが、はたち氏の記事があるとの指摘を受けて修正いたしました)

「そういうことなんですよ。そもそも学者もメディアも戦い方を忘れてしまっている。日本学術会議の、今回の6人以外の人は何をしているのか? 主義主張思想信条に関係なく、今回の一件は『学問の自由』への侵害であり危機感を持つべきものなのに、誰1人として辞職を表明もしない。本来であれば、『日本学術会議のメンバーが総辞職し、抗議の意思を示す』のがもっとも有効な抗議だと思っています。そして、メディアも、BuzzFeedのような露骨なメディアはさておき、何が問題かも明確にわからないから、両論併記や伝聞だけの記事で、自社の意見がない記事が多い。これでは止められない」

 香港民主化運動への中国共産党による弾圧は、本サイトも何度も批判してきた。この件はリベラル陣営だけでなく、日本の右派も批判的だったはずだ。しかし、今回の菅政権のことについては、右派陣営は沈黙どころかむしろ相変わらずのリベラル叩きで喜んでいる始末だ。

「先ほども言いましたが、政治が学問に介入し、しかも人事権行使でそれを行うことは、本質的に、中国共産党政府が、今現在、香港の知識人や大学人に行っている弾圧と全く同じなんです」

◆応援はいらない。「お前も戦え」

 そうして声を上げるに至った菅野氏だが、依然としてネットには彼を揶揄するような声が少なくない。それは、属人的な判断しかできないリベラル陣営からさえも聞こえてくる。

 

「Facebookでも『言論人なら言論で対抗すべきだ』としたり顔でコメントしてくる輩がいましたが、『ちったぁ頭使って考えろ』と申し上げたい。

 自分の行為が、中国共産党政府の弾圧となんら変わらないことに気づけない愚物であり、教養と知性の欠如した程度の低いテロリスト紛いのおっさんに届くような言葉で原稿を書きたいとも思わない。テロ行為に対抗するのに、通常の言語で対抗するわけにいかないでしょう。相手が肉体言語でくるなら、こちらも肉体言語で対応するしかありません。肉体言語を用いるしかないというものの、肉体言語の一環である暴力の矛先が、他者に向かうことは慎まなければいけません。なので、肉体言語の矛先を自分自身に向けるハンガーストライキを採用したのです」

 菅野氏は、菅政権は次の国会が始まる頃にはどうせみんな忘れるはずと思っているだろうと推測する。本サイトも同じ見方だ。「日本学術会議の人事介入」は切迫した弾圧事件であり国家の根幹を破壊する野蛮な行為だが、一般的な市民にはその危険性を切実に感じることは難しい。まさしくニーメラーの言葉通り、大半の市民は「自分に関係ない話」としてしまうだろう。菅政権はそこを巧妙に突いている。国会の開会が予定されているのは10月28日。まだ3週間も先だ。そのカレンダーを眺めつつ、菅政権は「どうせそこまで、学者たちの怒りは持続するまい」とタカを括っているはずだ。菅政権の狡猾さを感じずにはいられない。

 菅野氏は最後にこう語った。

「言論人や学者がちゃんと戦い始めるまで座り込み続けるつもりです。あ、あと『応援します』とか、いりません。応援する暇あったら、お前が戦え」

<取材・文・撮影/HBO編集部>

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