日本学術会議問題。官邸前で可視化される法治国家の崩壊

HARBOR BUSINESS Online / 2020年10月14日 8時33分

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警察に目をつけられた人以外は誰もが自由に渡れている、首相官邸前の横断歩道

◆もはや法治国家ではない

 菅義偉政権による日本学術会議会員の任命拒否問題。これに抗議して著述家の菅野完氏が首相官邸前で抗議のハンガーストライキを開始して、配信時点で足掛け13日目に突入した。

 私はこの間、4度、ハンスト現場に足を運び、取材をした。4度のうち3度、官邸前に到着する前に路上で警察に道を塞がれ往来を妨害されている。残りの1度も、現地到着後にやはり妨害された。全て、他の通行人は警官から一切妨害されず自由に歩いている歩道や横断歩道でのことである。

 私だけではない。菅野氏も、菅野氏とは別に官邸前でプラカードを掲げ静かに抗議活動をする人も、往来を妨害されたり荷物検査をされ言いがかり的に連行されそうになったりしている。

 そもそも菅野氏が官邸前でハンストを続けている最大の理由は、菅政権による日本学術会議への法に反した人事介入だ。それに対する抗議の現場で、警察が、これまた法に反して人々の行動や人権を制限している。

 法治国家の危機どころか、すでに法治国家としての日本は崩壊済みなのではないかと感じさせられる。現場の状況をリポートしつつ、その実情について考えたい。

◆日本学術会議への違法な人事介入

 菅野氏は自身のツイキャスでの中継やラジオ出演などを通して、こういった趣旨のことを繰り返し語っている。

「任命拒否は学問の自由の侵害という側面もあるが、それ以上に、菅政権が法に反した人事介入を堂々とやってのけた点にある」

 日本学術会議に何か問題があるのであれば政権が法に則って対処するのが法治国家だ。その点、日本学術会議法が定める「推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」(第7条)について、逆に推薦に反して総理大臣が任命を拒否できるとする法解釈すらも存在しない中での任命拒否は、理由が何であれ法に反している。

 私は菅野氏の主張や説明をそう理解し、賛同している。言論ではなく官邸前でのハンストという行動に走り、不特定多数に向けて「応援してますと言うよりも、お前自身が戦え!」と毒づく彼の危機感も理解できる。菅政権の行為は学問や学者にとどまらず法そのものを殺すからだ。

◆誰もが自由に歩いている歩道を歩けない

 菅野氏がハンストを開始した翌日の10月3日。私は官邸前に向かった。

 カメラ機材を入れたリュックに、私が主宰する「やや日刊カルト新聞」のトレードマークであるヘルメットをぶらさげていた。トークイベントやデモの際にかぶっているもので、「やや日」と大きく書いてある。服装は至って普通。シャツにジャケットだ。当然だがゲバ棒になるような棒の類は持っておらず、それ以外の武器類もリュックの中にない(私はもともとそのような活動の経験もない)。

 総理官邸前交差点から溜池山王駅方面に150メートルほど坂を下ったところにある内閣府下交差点。ここから官邸の敷地沿いの歩道を歩いて総理官邸前交差点に向かおうとしたところ、数人の警官が立ちふさがってきた。

警察「どちらに行かれます?」

私「官邸前です」

警察「工事とかされます? ヘルメット持ってるので」

私「工事はしません」

警察「アポイントとかは取られてます?官邸の」

私「官邸の前に行くんですけど。首相には会いに行くわけじゃないんですけど」

警察「すいません、中だと思ったんで」

私「最初から官邸前って言ってるじゃないですか」

 交差点に行くのにアポイントを取る人間がどこにいる。

 他の通行人たちが次々に通り過ぎていく。私だけが警察に止められ、警官の数はどんどん増えていく。

 法的根拠を尋ねても警官は無言。「警備上の理由」と言う警官もいたが、「市民の権利を制限する法的根拠がある警備上の理由なのか」と尋ねると、やはり無言になる。

 途中から応援に駆けつけた警官から「藤倉さんですよね。私、春まで高輪署にいまして」と言われた。私は高輪署管内の幸福の科学施設前で取材や抗議活動を何度も行っており、幸福の科学から何度も警察を呼ばれている(うち刑事事件化したケースはゼロ)。その関係で覚えてくれていたようだ。

 いずれにせよ、テロリストでも過激派でもなく「たまにデモることもあるジャーナリスト」であることがはっきりしたが、それでも通してもらえない。ヘルメットの文字は抗議の言葉でもセクト名でもなく、官邸前で声をあげたりする気もないことを説明した。

 警官たちは、ここまで私を警戒しておきながら「藤倉さんですよね」の警官が現れるまで誰一人として私の素性を尋ねず、ヘルメット持参であることを警戒しているのにヘルメットに書かれた文言も確認しなかった。彼らの目的が、違和感を抱いた対象への「確認」ではなく問答無用の通行阻止にあったことは明白だ。根拠も、実際の危険の有無も、どうでもいいのである。

警官「それで飲み込めました。抗議活動する人たちもヘルメットかぶったりするもんですから。抗議活動とかをしたことはないということですね」

私「いや、抗議活動をやったことはありますよ」

 ヘルメットを持っていようが過去に抗議活動をしたことがある人間であろうが、誰もが通れる歩道を歩くのは自由だ。

 30分近く揉めた末、警官が同行することを条件に通してくれることになった。数人の警察官に取り囲まれてVIP気分で官邸前にたどり着いた。

 車道の対岸(車道を挟んで官邸の向かい)で、菅野氏とは別のグループも抗議集会を開いていた。こちら側からだと、その全体像がよく見える。

 官邸沿いの歩道を歩くことにこだわったのは、このためだ。この角度からの写真はここからしか撮影できない。警察がここまでして通行の妨害をするということは、現地到着後に官邸側へと横断歩道を渡ることも妨害されるだろうと考えた。実際、予測した通りであることが後でわかった。

◆官邸の出入り業者は信号無視もOK?

 官邸前で抗議集会をしているグループのすぐ脇に、菅野氏がいた。その前で夜までネット中継をした。

 官邸側に渡る横断歩道では、抗議活動に参加あるいは接触した人間を警察が渡らせないようにしていた。横断歩道の手前で抗議集会を撮影しているだけで、警官から「通行の邪魔」という口実で移動させられる。横断歩道を塞いでいるのはむしろ警官たちなのだが。

 夜。菅野氏の支援をしていた男性が、買い出しのために官邸前の横断歩道近くでタクシーを拾った。警官が、官邸から離れた方の道路を指差して「あっちでタクシーを拾え」と指図した。キレた男性が警官に詰め寄る。

「あっちにタクシーなんて走ってないじゃないか!」

 ロケット砲をぶっ放してタクシーで逃走しようとしているわけでもない。ここでタクシーに乗ったところで、官邸の警備に何の影響もない。

 明らかに、抗議活動関係者(と警察がみなした人物)への嫌がらせだ。逆に、官邸に用がある(もしくは抗議活動と無関係な)人物に対しては違法行為すら黙認する。

 料理の配達なのか、大きなリュックを担いだ自転車が官邸前の交差点にやってきた。警官と何か言葉をかわすと、赤信号を無視して交差点を渡って官邸方面へと消えていった。交差点を取り囲むように警備している警官たちの誰一人として、その自転車に注意しなかった。

◆バッジをつけた国会議員にまで誰何する

 2日後の10月5日。私は2度目の取材に赴いた。

 この日は、菅野氏がハンストをしている地点のすぐ目の前の地下鉄出口から出た。誰にも邪魔されずに現場に到着することができた。

 しかし警官による嫌がらせは続いていた。日中に参議院議員の石垣のりこ氏が菅野氏のところに立ち寄った。その際、警官の一人が石垣氏に名前を尋ねた。

「国会議員が偉いだなんて全く思わないが、国会周辺の警官が国会周辺の路上でバッジつけた人間に誰何(すいか)するのは無能すぎやしないか」

 菅野氏や支援者たちから非難の声があがった。

◆1人で抗議活動の女性に職質や荷物検査も

 3度目の取材は10月7日。地下鉄駅を出てから菅野氏のところに向かタイミングで警官3人に囲まれた。「ここで座っているのでお声がけさせていただいたんです。どういったご関係ですか」というのだ。

 官邸周辺の警官にすっかり嫌気が差していたので、「官邸前に行く。取材だ。声をかけるのは勝手やればいい。だが答えない」とぞんざいに受け答えした。

警官「いつまでこちらにいらっしゃるんですか」

私「いま移動しようとしていたのをあんたらに止められてるんですけど」

 4度目の取材に行った10月9日も、再び内閣府下交差点で警官たちに取り囲まれた。毎回同じ会話なので割愛する。

 官邸前では菅野氏とは別の他のグループによる抗議集会も行われている。また、個人で静かにプラカードを掲げ抗議を表明し続けている人たちもいる。台風のさなかでも、その姿が消えることはなかった。

 4度目の取材の際、雨の中、1人でプラカードを掲げていた女性からこう聞かされた。

「昨日、この場で警官から職務質問されて荷物検査もされた。プラカードを作るためのガムテープとカッターナイフがカバンに入っていたため、警官20人くらいに取り囲まれ銃刀法違反だと言われ麹町署への同行を求められた。知り合いの弁護士に連絡したら、正当な理由がある分には問題ないと言われたが、弁護士にカッターナイフを預けるということで、麹町署に連れて行かれずに済んだ。ちょうど菅野さんも支援者も席を外していて、近くに誰もいなかったので助けを求めることもできなかった」

 この話を聞かされた直後、警官が彼女に話しかけてきた。

警官「昨日カッターナイフを持っていた方ですよね。申し訳ありませんが荷物を見せてもらっていいですか」

 女性はおとなしく従い、カバンから何も出てこないことを確かめて警官たちは女性から離れた。

 これだけ官邸前で警官と揉めまくっている私ですら、荷物検査はされていない。しかし、官邸と道を挟んで反対側の歩道で静かにプラカードを掲げているだけの女性は2度も男性警官に荷物をまさぐられた。

 歩道や横断歩道での通行の妨害、職務質問や荷物検査。1つ1つは実に些細なことばかりだ。しかし官邸周辺では、抗議活動に関係している(と警察が勝手にみなした)人間にだけ、これらが執拗に繰り返される。抵抗しにくそうな相手には、さらに踏み込んでプライバシーすら蔑ろにする。法的根拠など関係がない。口先で「協力のお願い」という言葉を用いているだけの、事実上の強制だ。

 以前も本誌で記事にした通り、警察とは、もともとそういう組織だ。

 しかし今このタイミング改めて官邸前で警察の行動に触れると、より深刻な光景に見えてくる。政権のトップと暴力装置がすでに法治を崩壊させた社会という構図がそこにあるからだ。

 いま官邸前には、行政が法律を守らない状態にある国家の気持ち悪さが凝縮されている。

<取材・文・撮影/藤倉善郎>

【藤倉善郎】

ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)

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