スペイン、ついに2度目の非常事態宣言。スペイン在住記者が感じたこと

HARBOR BUSINESS Online / 2020年10月28日 15時31分

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マドリッド。非常事態宣言を受けて道路封鎖を行う警察官。 Alvaro Laguna / Shutterstock.com

◆スペイン、ついに2度目の非常事態宣言へ

 10月25日、スペイン政府は2度目の2週間の非常事態宣言を発令した。前回同様に議会の承認を得て来年5月9日まで延長・継続するとした。ところが、野党では5月9日までは長すぎるという意見がある。今後の調整が必要かもしれない。

 前回の3月から6月まで続いた非常事態宣言は当初から3か月間の予定としていたことから、感染を抑えるにはもう暫く延長が必要だとされていたが、それ以後の延長は野党や企業からの圧力がありやむを得ずそれを終了させたという事情があった。今回はそれを回避するために政府は一応来年5月9日まで、としたのである。

 今回の非常事態宣言は前回のそれに比較して柔軟性をもたせている。唯一、新たに規制されたのは住民の夜の移動を制限しただけである。それを政府は夜11時から翌朝6時までとした。なお、この時間帯については各自治州が独自に決められるとした。例えば筆者が在住しているバレンシア州の場合は州政府はそれを夜12時から翌朝6時までとした。

◆物議を醸す「夜間外出制限」

 テレビでジャーナリストの討論会があったが、マドリード州では夜12時以降の移動が禁止されたということについて記者のひとりが「レストランで勤務している者がシャッターを閉めるのが夜12時、移動禁止も夜の12時だ。どうやって12時までに帰宅できるのだ?」と他の出席者に尋ねる場面があった。

 スペインは週末になるとナイトライフを愉しむ人が多く、レストランでも夕食は9時前後から始まって、店を閉めるのは夜中の1時過ぎになるというのが常だ。また、バルやパブは夜中2時から3時すぎまで営業しているのはザラにある。そこでは仲間が集まってマスクもせずに声高に喋ったりする場合が良くある。さらに、大勢の若者が広場に集まってボテリョン((スペインの若者の間で流行ってる野外飲み。以前の記事を参照))を夜遅くまでやっている。これらは感染する可能性が高い。それを防止するためには移動を制限するとして今回の夜11時以降からの移動を禁止するとしたのである。

 ガリシア地方で25日に若者4人が墓地でボテリョンをやっていたというのが発覚している。警察も墓地までは監視しないだろうと若者たちは考えたようである。これなどは先祖を冒とくするもので許されるべき行為ではないと思われる。なお、ディスクティーク(クラブ)についてはすでに営業は停止されている。

 例えば、バレンシア州の場合は、バルやレストランも通常のテーブル数の半分しか使えず、また路上に出すテーブルの場合は通常の6割までしか使えない。また、一つのテーブルには最高6人までと制限されている。このような制限は他州でもほぼ同様である。通常の営業の半分しかできない。その上、今回は夜の移動時間制限が設けられたということで飲食業者は採算面でさらに厳しい状況に追い込まれることになる。

 なお、カタルーニャの場合は飲食店の営業は依然停止されている。また、住んでいる地区から他の地区に移動することも禁止する規制を設けた自治州もある。

◆スペイン全域でWHOの感染危険地域水準の感染者数

 コロナ感染者の急増を抑えるには人と人の接触をできるだけ避ける以外にそれに勝る手段はない。感染規模という面について、スペイン紙『El País』で各自治州の直近2週間の感染状況を掲載しているが、牛追い祭りで有名な行事があるナバラ州は10万人当たり1000人の感染者が出ているというのである。

 世界保健機構が定めている10万人につき120人以上の感染者のいる地域は感染危険地域とされている。スペインは全域で120人を大きく上回っている。しかも、大半の自治州で100%以上の増加である。最高はスペイン北部中央のサンタンデールを首府にするカンタブリア州で190%の増加となっている。

 また、死者も毎日140人近くとなっている。3月から4月にかけては日毎900人近くが死亡していたのに比較して少ない死者数であるが、それでもコロナで100人以上が毎日死亡しているというのは異常でしかない。

◆経済への打撃か、非常事態宣言か

 感染学者ら専門家の間では9月当初から非常事態宣言を発令すべきだと政府に要求していた。しかし、政府はそれをぎりぎり迄引き延ばしたように思える。というのも、例えば、パブ、ディスクテイク、ナイトクラブなどに従事している企業は2万5000社あるとされている。そしてこの業界で27万人が雇用されている。また飲食店だと全国に27万8000軒、170万人が雇用されているとされている。(参照:「OK Diario」、「El Mundo」)

 前回のような厳しい非常事態宣言を発令すると、飲食店やホテルを始め観光業に関係したサービス企業の多くが破たんする可能性が高い。そうなると、経済の更なる後退は必至で失業者も急増し政府の失業手当金などの支給で財政も圧迫される。

 しかし、その一方でこのまま何もせずにコロナの感染を拡大させていくこともできない。ということで、サンチェス首相はこの宣言の発令を最後の最後まで待ち、規制も前回よりもかなりゆるやかなものになっている。コロナウイルスはそのように人間の気持ちなど理解せず容赦なく感染させている。果たして、夜の移動制限を新たに設けただけで感染を抑えることができるのか疑問もある。専門家の間ではそれでは不十分だという意見だ。

◆EUの存在に救われたスペインやイタリア

 発令される1週間くらい前からメディアでは非常事態宣言が発令されるという噂が高まっていた。ということで、25日の日曜午前中にサンチェス首相は緊急閣僚会議を招集。そして昼過ぎに同日夜からその発令の実施を発表したのである。

 イタリアのコンテ首相は飲食店の営業を午後6時までとした。それを11月24日まで継続させるとした。また、14歳以上の生徒の75%はオンラインによる授業になるとされている。

 スペインは今後のコロナの感染状況によっては学校がまた休校になるかもしれない。今のところ学校は平常通りで授業が進められている。

 スペインにしてもイタリアにしてもクリスマスシーズンは例年だと売上が伸びる時期である。それも視野に入れてスペインとイタリアの両政府は今を置いて規制する時期はないと見ているようだが、それでクリスマスシーズンまでに感染を鎮めるにはあまりにも期間が短すぎるというのが大方の意見だ。

 スペイン経済は非常に厳しい状況に置かれている。今年のGDPは予測ではマイナス11%から18%までの間を各組織が予測している。スペインにせよイタリアにせよ、EUという連合体が無ければ財政的に破綻していた可能性は十分にある。

◆コロナが変えたスペインの生活

 前回の封鎖と異なり、今回は外出が可能なので従来通りの生活になると思う。しかし、他の自治州の中には住んでいる地区以外への外出が通勤以外は禁止されている自治州もあり、州によって生活への影響はまちまちだと思われる。

 筆者が住むバレンシア州は、夜12時から翌朝6時まで外出が禁止されているので、私は早朝の歩行とストレッチ体操などはまた拙宅の廊下の往復と階段の上り下りを再開する予定だ。というのも、日課の散歩は、従来ならば当町のグランビアで朝5時頃からやっていたのだが、それが5時ではできなくなるからである。見つかって治安警察が罰金を科す場合もあるので、さすがにやるわけにいかない。

 筆者の妻はバレンシア市内にはもう行きたがらない。人が多いからだそうである。感染者が多くなっているので、以前以上に人とすれ違う時もできるだけ間隔を置こうという気持ちに自然となってきているのだ。

 40数年スペインで生活していてマスクをするのは初めてのことだったが、今はもう慣れつつある。スペイン人もみんなマスクをしている。ヨーロッパでマスクの使用度が一番高いのはスペインだいう話もあるほどだ。

 ただ、バルなどで仲間が集まって談笑している時はマスクをしていない者が結構いる。スペイン人はバルで仲間と談笑することをこよなく愛する人が多いので、マスク着用率の割に感染者が多いのはここに原因があるのかもしれない。

 スペイン人である私の妻も、いまはマスクを5-6枚持つようになった。その内の2-3枚はファッショナブルなものなのがこの国の人らしい。

 マスクにもファッションが生まれてきている。二人の孫もファッショナブルなマスクをして通学するようになった。

 コロナはスペイン人の生活を大きく変えた。経済の打撃は深刻だし、コロナ禍もいまだ終わりは見えない。この先どうなるかわからないが、筆者は見続けていくつもりだ。

<文/白石和幸>

【白石和幸】

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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