人工妊娠中絶禁止法案に揺れる極右政権下のポーランド。ロックダウンでもデモやストライキが続出

HARBOR BUSINESS Online / 2020年10月29日 15時31分

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 コロナショックの第2、第3波が押し寄せ、再びロックダウンが始まったヨーロッパ。そんななか、大規模なストライキやデモが行われる事態になっているのはポーランドだ。

◆今後はさらに制限が厳しくなる見通し

 こう聞くとロックダウンに対しての抗議と思ってしまいそうだが、実は驚くべきことに、その理由は人工妊娠中絶禁止に対するものだ。

 これまで当サイトでもその動向を追い続けてきたが、ポーランドでは与党である「法と正義」が過去何年にもわたって、この妊娠中絶禁止を実現しようとしてきた。

 背景には同党の支持基盤であるキリスト教保守派の影響があるのだが、そのたびにストライキやデモによって阻止されてきた経緯がある。しかし、コロナショックによるロックダウンのさなか、ついにその法案が可決されてしまった。

 これにより、胎児に障害があった場合でも人工妊娠中絶をすることはできなくなった。ポーランドでは妊娠中絶の約98%が胎児の先天的な異常を理由とするもので、その影響は計り知れないだろう。

 さらに今後はレイプ、近親者間の性交渉による妊娠中絶も規制しようという流れまで巻き起こっている。

◆ロックダウン下で集会は禁止だが

 欧州評議会の人権委員会などからも厳しい批判を浴びてきたポーランド政府だが、これまで数年に渡って司法やメディアへの介入を進めており、人工妊娠中絶の違憲判決はまさにその「成果が実った」形だ。

 それも今回はロックダウンが始まった直後というタイミング。5人以上による集会(就業中はOK)が制限されているなかでの可決は、明らかに意図的なものである。

 とはいっても、過去にもストライキやデモで人工妊娠中絶禁止法案を阻止してきたポーランド国民。首都ワルシャワではコロナの非常事態であるにも関わらず、連日大きなデモが起きており、機動隊との衝突も発生。逮捕者が出るまでに至っている。

◆アーティスティックな抗議ポスターも

 ロックダウンのさなかにデモ、ましてやストライキなんて……と日本では、この行動に対して理解を得るのは難しいかもしれない。

 だが、過去には2度も国が消滅、第2次大戦後は共産圏の支配下に置かれたポーランド国民の不屈の精神は並のものではない。そのたびに独立や民主化を実現できたのも、こうした争い続ける力があったからこそで、そうでなければ今同国が存在していることもなかったかもしれない。

 筆者は現在そのポーランドに滞在しているが、人工妊娠中絶禁止が決まった直後から、SNS上では抗議の意を示す「赤い稲妻」をプロフィール画面のフレームに設定する人が続出。そうしたウェブ上のプラットフォームでは、賛成派・反対派、身近な友人や知り合い同士でも激しい意見のやりとりがなされている。

 また、ツイッターやフェイスブック上では「#wypierdalać」「#strajkkobiet」といったハッシュタグのもと、社会主義時代に民主化を訴えた「連帯」と、ハリウッド映画に出てくるアイコニックな女性キャラクター、そして稲妻マークをコラージュした画像なども出回っているので、ぜひ検索していただきたい。

 これは「連帯」の抗議ポスターに『真昼の決闘』のゲイリー・クーパーの画像が使用されていたことが元ネタになっており、今回は『エイリアンシリーズ』のリプリーや『ターミネーター』シリーズのサラ・コナー、『キル・ビル』シリーズのザ・ブライドなどがコラージュされている。

 先日は近所の公園でも学生たちが集い、デモの打ち合わせをしている現場に出くわしたが、ロックダウン下でのこうした行動は、国民全員が当事者意識を持っていることの表れだろう。そもそも、非常事態での法案強行が行われていなければ、こうした抗議も発生していなかったはずだ。

◆政府へは「卑劣極まりない」の声も

 実際に現地で意見を聞いてみると、今回の違憲判決に反対する層からは次のような反応が返ってきた。

「このタイミングで法案を強行するのは卑怯極まりない。女性の人権に対する攻撃であるのはもちろん、民主主義に対する攻撃だと思います」(男性・50代)

「自分には関係ない高齢者や男性がこうした法案を後押ししているのは悲しいです。ポーランドはカトリックの国なので、親戚や友人にもそうした人がいるので、たとえ衝突しても避けては通れないというか、向き合うしかないと思っています」(女性・30代)

「今回の決定に怒りを覚えているなら、次回の選挙で誰に入れるべきかよく考えるべきです。放っておけば同じことが起きますから」(男性・30代)

「女性の人権が踏みにじられることに対して、男性が抗議の声を挙げるのはとても頼もしいです。家族やパートナーが支援してくれなければ、私たちだけで戦うのは難しいですから」(女性・30代)

 はたして、これまでのように国民の声で法案は覆ることになるのか、それともコロナショックに乗じた政府のゴリ押しで終わってしまうのか。ポーランドの国民性を考えると、「なあなあ」のままで終わることがないのだけは間違いない。

<取材・文/林 泰人>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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